マシニスト The Machinist

2004年 外国映画 4ツ星 狂気

まちがった選択の代償

あらすじ

機械工(マシニスト)のトレバーは1年前から不眠症に悩まされていた。以前は気さくな男だったが、今はひどく痩せ細り、周囲も戸惑いを隠せない。それでもトレバーは几帳面に働き、行きつけの娼婦スティービーを抱いて、深夜は空港のウェイトレス・マリアとの雑談に興じる毎日を送っていた。
ある日、トレバーは新人アイバンに気を取られ、同僚の腕を切り落とす事故を起こす。しかし工場長らは、アイバンという男はいないと言い、トレバーの正気を疑うようになる。トレバーはアイバンの存在を証明しようとするが、うまくいかない。
そのころから、自宅の冷蔵庫に不審なメモが貼られるようになる。だれかが自分を陥れようとしている。トレバーは次第に精神の安定を欠き、常軌を逸した行動をとりはじめる。

クリスチャン・ベールが30キロもダイエットして役作りしたことで注目された映画。たしかにガリガリに痩せた男のインパクトは強い。おまけに神経をすり減らす描写が連続するため、だんだん見ている方も居心地が悪くなってくる。鑑賞中はつらかったが、ラストで謎解きされると、すべてが意図的な演出だったとわかる。
問題は主人公が心を病んでいることではなく、そうなった原因だった。

印象に残るのは左右の選択シーン。劇中ではルート666、下水道、ハイウェイで3回繰り返されるが、実際は1年前にも選択があって、そのときトレバーは空港を選んだわけだ。事故を起こして怖くなり、海外逃亡をはかった。だから空港のカフェに入り浸っていたのか。
公共料金を払うようメモしたのに電気が止まったのは、トレバーの記憶に欠落があることを意味している。血まみれの冷蔵庫を開けなかったのは、トレバーが問題と向き合うことを避けているから。不可解なことには意味があった。
意味のないこともある。工場の事故や、娼婦の家にいた客や別れた亭主は、1年前の事故に関係しない。現実は、トレバーの苦悩など気にしていない。まぎらわしいけどリアルだ。あるいは、だからこそアイバンが出てきたのかもしれない。

アイバンはトレバーの「良心」だった。その第一印象は『マトリックス』のモーフィアスで、トレバーの対極にいるように見えた。しかし1年前の、顎に肉のついたトレバーと印象が重なる。同じ役者とは思えないほどのギャップ。クリスチャン・ベールの激ヤセはやりすぎと思っていたが、この対比は見事だった。

私はタイトルを「マニシスト」と勘違いして、精神疾患の1つと思っていた。実際はマシニスト。機械は正しく組み立てないと、正しく作動しない。トレバーはまちがった選択をしたため、正しく作動しなくなっていたのだ。

この映画は好き嫌いがわかれるだろう。ていねいに作ってあるのに、不親切な印象を受ける。私も鑑賞直後は眉をひそめたが、あれこれ考えていくとおもしろくなった。語る部分は多い。友だちと議論したいときにオススメしたい映画だ。

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