ジャケット The Jacket

2005年 外国映画 3ツ星 タイムトラベル 障害

その可能性に気づかないのか

あらすじ

1992年、兵士であるジャック・スタークスは、湾岸戦争で頭部を負傷。奇跡的に生き残るが、記憶障害を抱えてしまう。帰国したジャックは、殺人事件の犯人と誤認され、精神病院に送り込まれる。そこで全身を拘束する実験的な治療を受ける。
気がつくとジャックは、知らないところに立っていた。荒んだ生活を送るウェイトレスに救われたが、彼女はつい先日知り合った少女・ジャッキーの、15年後の姿だった。ここは2007年の世界で、ジャックは15年前に精神病院で死んでいた。

タイトルからグロテスクな物語を覚悟していたが、『バタフライ・エフェクト』のような歴史改変アドベンチャーだった。現在から過去を変えるのではなく、未来から現在を探るアプローチは新鮮。しかし何度も繰り返していると、『胡蝶の夢』のようにどっちが主体かわからなくなる。おまけに主人公は脳に障害があるため、本当にタイムスリップしてるかどうかも怪しい。

理性的に考えればタイムスリップなんかできっこない。美しく成長した少女とのロマンスは、どう見ても妄想だ。しかし主人公は「その可能性」に気づかない。この1点において、彼は正常ではないと断言できる。逆に言うと、「シャッター・アイランド」(2010)の主人公は、その可能性に気づいたことで正常だったと言える。

そしてジャックが正常でないなら、その意味するところは明らか。設定がいい加減なのも、やむを得ない。映画はどっちにも解釈できるよう描かれているが、あいまいにすることでおもしろさを損ねている。

未来世界で、自分を閉じ込めた医師との会話するシーンが印象的だった。医師の言葉は「(故人をさす)彼は~」から「(目の前にいる)君は~」に変化する。そして主人公は、「おれは今でもあの中にいる」と言い放つ。
「あんたの治療は失敗だ」
そう告げることが、せめてもの復讐だったのかもしれない。

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