酔いがさめたら、うちに帰ろう。 Wandering Home Yoigasametara Uchinikaerou

2010年 日本映画 4ツ星 夭折 実話に基づく 家族 狂気 病院

カレーライスを食べるたび思い出す

アルコール中毒の悲惨さ、家族愛の素晴らしさを訴える映画だろうと思っていたし、そのとおりなんだけど、お涙ちょうだいドラマではなかった。「酔って暴力を振るう」とか「酒をやめると何度誓っても挫折を繰り返す」といった、誰もが想像するシーンは必要最小限。ほとんどのシーンで驚きや発見があるだろう。それはアルコール中毒という病気への理解であり、ふだんは見過ごされている家族の絆だった。言葉にすると安っぽいが、映像で見ると深くしみる。ちかごろ大量発生している余命モノとは一線を画している。

「この病気だけは、誰も本気では心配してくれないんです」

医者のセリフの意味がわかるのは、ずっと後だった。塚原(浅野忠信)の断酒が失敗するだろうと予測(期待)していたのは、ほかならぬ観客である。アル中は死ななければ治らない。悲惨は最期を遂げるはず。恥ずかしながら、私もそう思っていた。それこそ医者が指摘した偏見だった。

アルコール中毒の症状が興味深い。唐突にありえないものを見たり、思ったことが漏れたりする。これがアル中の人が見ている世界なのか。おまけにアル中の症状が重いときと快方に向かっているときで、見える変化がない。アニメのように目の色が変わるわけじゃない。
病院に隔離され、わびしい食事に苦悩するところも胸に響いた。カレーライスを食べたときの笑顔は忘れられない。人間はどれほど食事で幸せになれるか、思い知らされた。

園田由紀(永作博美)の存在感も大きい。あくまでも旦那さんの視点で描かれるため、出番は多くないが、印象的なシーンが多い。医者に塚原の余命を聞かされたとき、哀しいと嬉しいの区別がつかなくなったといい、その気持ちに同感されたくないと言い放つ笑顔に衝撃を受けた。そうなのだ。そうなのだろう。もう、言葉が出てこない。
余命わずかの夫に、「なかなか死なないね」と言える信頼関係もすごい。すごいとしか言いようがない。

酔いがさめたら、うちに帰ろう。

終わってみれば、なんとも哀しいタイトルだった。

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