フューリー Fury

2014年 外国映画 4ツ星 主人公は軍人 戦争 歴史

戦争の狂気?

飾ってあるそれではなく、戦場で運用される戦車がかっこいい。塹壕戦の膠着を打ち破り、歩兵を連れて進軍する。ドイツ軍のゲリラ戦によって損耗するが、それでも突き進む。より優秀な戦車には、1対2で打ち勝つ。ドイツは精鋭部隊を、かく座した戦車で甚大な被害を与え、戦況を変える。それぞれのシーンで描かれる戦車戦は、類を見ない緊張感があった。

個人的には、もっと状況説明をしてほしかった。第二次世界大戦における戦車の役割、進化、問題点。大戦末期の戦況。ゲリラ戦の弊害。多くの人は「北アフリカ戦線からの歴戦の猛者」と言われても意味がわからない。背景を踏まえれば、より戦車戦に没入できただろう。

なんの映画?

しかし本作は教養番組じゃないから、説明不足はやむなし。では本作はなんだ? 無垢な新兵が戦争に狂気に蝕まれる過程を描きたかったのか? だとしたらウォーダディー(ブラッド・ピット)の素性を描くべきだった。ウォーダディーはドイツ語を話し、ドイツ人に親切だが、武装SSは絶対に許さない。なにがあったのか? あえて語らないのも演出だが、それではかく座した戦車で、全滅覚悟で戦う判断に納得できない。

ノーマンはあっさりウォーダディーに従う。つまり戦車の中で死ぬことを決める。いくらなんでも唐突だ。ほかの乗組員も躊躇はしたが、最後は死を受け入れた。なぜだ? ウォーダディーは自分の命だけでなく、仲間の命を捨ててでも、ドイツ軍に被害を与えようとしている。なぜだ? ぶっちゃけ、「頭がおかしくなっていた」という説明がもっとも納得できてしまう。それは彼らの決意を軽くしている。

「ウォーダディーはなんで戦うんです? なにがあったんです?」
「知らないし、知りたくもない。知る必要もない。すべては怒りだ」

みたいな会話があれば、テーマが明瞭になったのに。むろん、あれこれ語れば無粋になる。私もウォーダディーや仲間たちの回想シーンを見たいわけじゃない。ただ、「もし自分があの場にいたらウォーダディーに従ってしまう」と思えるような演出をしてほしかった。

戦車戦はおもしろかった。それは確かだ。

関連エントリー

2014年 外国映画 4ツ星 主人公は軍人 戦争 歴史
聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実

聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実

Isoroku Yamamoto, the Commander-in-Chief of the Combined Fleet
2011年の日本映画 ★3

ドラマと特撮の乖離が惜しい CGで再現された戦時下の情景や、艦隊戦の迫力に驚かされる。ここまで描写できるようになったのか。まるでタイムスリップして撮影してきたようだ。CG映画特有の (...)

硫黄島からの手紙

硫黄島からの手紙

Letters from Iwo Jima
2006年の外国映画 ★4

2つの映画はセットで見なければならない 『父親たちの星条旗』では硫黄島の戦いの詳細が描かれず、いささか不満だったが、『硫黄島からの手紙』を、見て大いに納得できた。 当時の日本人を美 (...)

ワルキューレ

ワルキューレ

Valkyrie
2008年の外国映画 ★3

トム・クルーズが前に出すぎ シュタウフェンベルク大佐は頭がよくて、度胸もあって、カリスマ性に優れた人物として描かれるが、けっこうツメが甘い。なぜ不測の事態に作戦を強行したのか? な (...)

蒼天航路 (全26話)

蒼天航路 (全26話)

Sōten Kōro / Beyond the Heavens,
2009年のアニメ ★2

やっつけアニメ化。 私は原作漫画『蒼天航路』を、モーニング誌上で読んでいた。1994年(23歳)から2005年(34歳)まで11年。全409話で単行本は全36巻。けっこう長い付き合 (...)

エアポート2015

エアポート2015

Flight World War II
2015年の外国映画 ★4

アサイラム製作のくせに、おもしろい。 ストーリー  ロンドン行の旅客機が乱気流を抜けると、第二次世界大戦中の1940年6月にタイムスリップしていた。ドイツ爆撃機に囲まれ、英国軍に救 (...)

終戦のエンペラー

終戦のエンペラー

2012年の外国映画 ★3

大事なところが抜けちゃってる! 『陛下をお救いなさいまし―河井道とボナー・フェラーズ』(岡本嗣郎 著)を読んだあとに映画を視聴したんだけど、もう1人の主人公である河井道(1877- (...)

ページ先頭へ