インターステラー Interstellar
2014年 外国映画 3ツ星 SF アクション コールドスリープ タイムトラベル 宇宙開発文句はあるが、楽しめた。
あらすじ
近未来、地球は生命を維持できない環境になりつつあった。移住先を見つけないと滅亡するが、多くの人は現実から目をそらしていた。
50年前、謎の知性体《彼ら》からのメッセージを受信。土星近傍のワームホールの向こうに、地球型惑星があるという。恒星間人類移住計画《ラザロ計画》がスタートした。
計画には2つの問題があった。1.移住先惑星を3つの候補から選ばなければならない。
2.重力方程式を解かないと、人類を運ぶことができない。問題2を解決できなかった場合、人類の凍結受精卵を新天地の惑星で孵化させるプランBに切り替えることが決まった。
農夫クーパーは謎の信号に導かれ、調査隊に抜擢された。息子と娘(マーフィ)に別れを告げて出発。土星に到着(人工冬眠で2年経過)。ワームホールをくぐってミラーの星(23年経過)、マン博士の星を調査するが、どちらも移住不可能だった。エドマンズの星に向かうため、ブラックホールでペンローズ過程を実施(67年経過)。クーパーは事象の地平面に落ちていった。
クーパーは四次元超立方体「テサラクト」に到達。娘の部屋にいた幽霊は自分だったこと、《彼ら》が未来の人類であることを悟り、特異点の観測データを送信する。
マーフィーは重力方程式を解いて、人類を土星軌道上まで避難させた。クーパーは土星の軌道上に建造されたスペースコロニーで目覚める。年老いた娘と再会。アメリア救出のため、単独で飛び立つのだった。
(おわり)
なんだこれ?
すごい映画を見た気分になるが、実体がない。設定や展開にさまざまな疑問が浮かぶ。挙げてみよう。
地球
- 「地球に住めなくなった」という環境変化がわからない。砂嵐程度なら地下で暮らせる。放射能汚染されたら月か火星へ行く。「太陽系に住めなくなった」という事態でなければ、恒星間移住なんて考えない。
次の世代で人類は滅びるようなことを言ってるが、そう見えない。『渚にて』のような悲壮感もない。 - 食糧難なのに、とうもろこし畑をトラックで荒らすな。
- 10年も自動飛行するドローンって、途方もない未来技術。そこから得られる戦利品が太陽電池だけって、これまたありえない。
- 苦労して手に入れた太陽電池が、物語にまったく関与しない。
- 人類滅亡の危機で戦争する余力がなくなり、軍隊がなくなったって? 人類の歴史を考えると逆だろう。
- 人類滅亡の危機で市民の目が厳しくなって、NASAが解体され、歴史的偉業がなかったことにされた? むしろNASAへの期待が高まるんじゃないの?
- 政府はこっそりNASAを復活させたと言うが、莫大な予算がついている。「特権階級だけ地球脱出しようとしている」と言われる方が納得できる。
- NASAはどうしてパイロットを養成したり、探さなかったの?
- クーパーは娘ばかり愛して、息子をほぼ放置。家族愛?
- 食糧難でも野球をする余裕があるのは違和感。家の中まで砂が入ってくる時代なのに芝生は緑。『フィールド・オブ・ドリームス』をリスペクトしたのだろうか?
《彼ら》の接触
- 土星軌道にワームホールがあれば、地球から観測できる。秘密にしておけない。
- ワームホールは自然発生しない(人為的に作られた)と言ってるけど、天体規模の事象に人為を疑うことがおかしい。
- 《彼ら》はどうやって情報を送ってきたの? 人間に解読可能な書式だったの? それならどうしてコミュニケーションを試みないの? コミュニケーションに応じないとすれば、どんな理由と推察してるの? 移住先を探すのもけっこうだけど、《彼ら》への興味がうすすぎる。
- 《彼ら》の目的が人類を移住させることなら、どうして「ミラーの星、マンの星は移住に適してないない」と教えてくれなかったの? 特異点の観測データを同梱してくれなかったの? その理由をだれも考えなかったの?
Millerの星(水の惑星)
- Millerの星は、超大質量ブラックホール「ガルガンチュア」を公転している設定だが、重力で時間が遅れるほど事象の地平面に近いと、その公転速度は亜光速に達するのではないか? またブラックホールの電磁波ダメージを回避するには、数百光年の距離が必要なはず。
2019年に発表された論文によると、超大質量ブラックホールの周囲にもハビタブルゾーンが存在し得るが、条件を満たすには原石惑星を別の宇宙から運んでくる必要がある。 - Millerの星の可視光線はブラックホールの降着円盤がもたらしているとか。すると全天が降着円盤に覆われ、夜がなくなる。
- Millerの星にかかる重力は地上の7億倍に相当する。往復するだけで時間がずれるような惑星は、調べるまでもなく移住に不適格だろう。
- 時間の歪みを事前に計算できるなら、Miller隊長がビーコンを送ってから数分しか経過してないことも予想できたはず。調査隊からの連絡が途絶してるのに、なぜ警戒しないのか?
- ビーコン回収はロボットにやらせろ。
- 惑星間航行に必要な燃料を、大気圏内の着水タイミング操作で節約できるわけがない。
- 膝丈しかない海水を1キロの高さの津波に引っ張り上げる潮汐力は、惑星の地殻も動かす。摩擦熱で燃えてしまう。
- あれほどの巨大津波なら衛星軌道上から観測できたはず。
- どうして Miller隊長は居住可能ビーコンを地球に送信したの?
エンデュランス
- 宇宙船エンデュランスは数十年分の生活物資を搭載してるのに、燃料はぎりぎり。3つの惑星調査に必要な分もない。どの惑星を調べるか(調べないか)はクルー任せで、諍いまで起こってる。計画がずさん。
- ロボットに調査させれば、生活物資をなくし燃料を搭載できたのに。有人調査する理由がわからない。
- 「愛は観測可能な"力"よ」というが、観測した結果を示さない。「愛には特別な意味がある」「私たちには感知できない高次元につながる」という意見にも根拠はない。
- アメリアの「愛」を信じてEdmundの星へ行けば正解だったが、クーパーが「テサラクト」に到達しないため、プランA(人類移住)は失敗する。「愛」は問題を解決しない。
- Millerの星を調べるとき、エンデュランス号の経過時間は地球と同じだった。ブラックホールの重力に影響されない距離にいたことになる。Millerの星と母船を往復するのに、何年かかったのか?
- 地球からの電波を受信できるけど、送信できない。移住先を見つけても知らせる方法がない。すでに計画は失敗している。
- ロミリーは23年も待つくらいなら、ほかの惑星を探査するか、地球に帰還するべきだった。
- 特異点の観測データをパルス送信できる? バカ言うな。そんなことが可能なら(試す価値があるなら)、移住可能な惑星を探すよりブラックホール探査が優先される。
- ブラントン教授はプランA(人類移住)は失敗すると確信しながら伏せていたのは不誠実。国民の目を欺いたNASAで、さらにウソをついている。しかも何人かは秘密を漏らしているし、「穏やかな夜に身を任せるな」とヒントを出している。行動が支離滅裂。
- ブラントン教授が死に際に秘密を中途半端に漏らすから、マーフィーの怒りはクーパーに向かう。そのビデオを見てクルーたちは衝撃を受ける。ブラントン教授は「家族がいないこと」をクルーの条件にしておきながら、みずから例外を作り、計画失敗の原因まで提供している。
Dr.Mannの星(氷の惑星)
- Millerの星からDr.Mannの星まで、どのくらい距離があるの? エンデュランスは地球から土星までの移動(15億キロ)に2年かかった。地球からもっとも近い地球型惑星(プロキシマ・ケンタウリb)まで4.2光年(約40兆キロ)だから、3万年かかる。光速でも4年以上。ワープできない宇宙船で複数の惑星を調査するのは不可能。
- Mann博士は、Millerの星やEdmundの星へ避難したり、救援を求めなかったの? 調査隊はどうして片道切符なの?
- Mann博士はただ救援を求めればいいのに、なぜ移住可能と嘘をつくの?
- Mann博士は生きるため嘘をついたのに、なぜ自殺行為に挑戦したの?
- Mann博士が計画遂行のために必要な見解をもっているなら、クーパーたちを説得するほうが助かる確率は高い。
- Mann博士は「家族がいないこと」という条件を満たしているけど、計画の障害になった。意味がない条件だった。そもそもNASAに人を選ぶ余裕はないだろう。
- エアロック爆発でエンデュランスは68RPM(r/min)で回転した。1秒で1回転以上。回転の中心がエアロックで、かつコックピットも中心から近い距離でないと、遠心力で人体が破壊される。
ブラックホール「ガルガンチュア」
- 超大質量ブラックホールを遠くから見たときの形状は素晴らしいが、接近したときのサイズが小さすぎる。重力レンズの効果もあるから壁に見えるはず。
- 降着円盤は亜光速で回転している。それより遅い速度で周回するとバラバラにされてしまうが、亜光速に達したら軌道修正できない。
- 亜光速に達した宇宙船を減速する方法がない。想定されてないから逆噴射や姿勢制御もできない。
- エンデュランスは《ペンローズ過程》によって加速を得たが、捨てるのはゴミでいい。シャトルを有人で切り離す理由はない。
- エンデュランスは光速に近い速度で遠ざかっていく。事象の地平面に落ちてゆくクーパーとリアルタイム通話できるはずがない。
- 機体が損傷し、クーパーは脱出装置で機外に放り出される。宇宙船から船外に逃げても死ぬだけだから、宇宙船に脱出装置はつけない。
- 超大質量ブラックホールならスパゲッティ化現象は遅延するけど、特異点まで膨大な距離がある。クーパーの時間は止まるから「一瞬」でも、外では宇宙が終わるほど時間が過ぎてしまう。
4次元超立方体「テサラクト」
- クーパーはなぜ、《彼ら》が未来の人類であると考えたのか? まったく根拠がない。「ヨグ・ソトースだ!」でも「死んだ妻だ!」でも成り立つ。
- トムはどうして子どもを病院に連れて行かないの? 第一子を失った悲しみがあるだろうに。お金がないとしても、マーフィは不自由ない暮らしをしているから、たよならい理由はない。トムの人物描写が足りない。
- マーフィはなぜ貴重な畑を燃やしたの?
- マーフィはどうして幽霊の正体が父で、モールス信号で特異点のデータを送信してるとわかったの? 愛? 絆? 運命?
- クーパーは自分の状況をモール信号で送らなかったの?
- クーパーはワームホールで90年前の、往路アメリアとすれ違う。時間の概念がないなら、先発の調査隊を見かけてもいいのでは?
- クーパーは90年後の、クーパーステーションの近くで回収された。《彼ら》は時間も空間も自在に操作できる。
スペースコロニー「クーパーステーション」
- スペースコロニーに避難した人たちは、なぜ半世紀も新たな調査隊を送らなかったの?
- コロニーで快適に住めるなら、なぜ惑星移住が必要だったの?
- クーパーは単独で、こっそり、準備なく、着の身着のまま、Edmundの星に向かう。ほんとにパイロット?
- TARSが最新の宇宙船にぴったり接続できちゃう不思議。
Edmundの星
- ブラックホールで加速しても、宇宙船が光速を超えることはない。Edmundの星がブラックホールから120光年離れていてれば、(船内では時間が静止していても)120年かかる。ブラックホールの加速で67年遅れたが、次の瞬間にはEdmundの星についたのだろうか?
- 居住可能な惑星なのに、どうしてEdmundのチームは全滅したの?
- アメリア博士はプランBを実行してないように見える。プランBをできないなら、Edmundの星に向かう理由がない。Edmundの星に到着したとき受精卵や装置が壊れたの?
「科学的に正確なSF映画」と宣伝されたが、科学的に正確なSF映画ではない。
ワームホールも重力方程式もテサラクトも空想の産物だ。それが悪いわけじゃない。ノーラン監督の『インセプション』は科学的じゃないが、一定のルールがあって、おもしろかった。
『インターステラー』は既存物理に引っ張られ、中途半端になっている。物語優先で挑むなら、「ハイパードライブ」や「重力シールド」を出せばいいのに。
169分もあるのに説明不足なのは、あれこれ詰め込みすぎたせい。初期プロットでは1つだった移住候補を3つに増やし、重力方程式を追加したらしい。これらの要素が、映画のおもしろさを深めたとは思えない。
父娘の愛と絆を描いたSF超大作?
《彼ら》の目的は、マーフィに重力方程式を解かせること。答えを知っているのに教えない。3つの候補のうち、「Edmundの星が正解」とも教えない。調査隊が全滅するのも放置。クーパーをエンデュランス号に乗るよう仕向け、迷走させ、ブラックホールに落として、重要な情報をマーフィに伝えてもらう。なんて回りくどい。
「愛」がテーマと言われるが、愛によって変わったものはない。すべて決まっていた。
さらに言えば、父親の愛は息子に向けられない。クーパーの信念が揺らぐこともない。クーパーがブラックホールに落ちたのも、特異点のデータを取得するためじゃない。アメリアを放置した、無責任な自殺に等しい。
最初の予告編に、「我々は常に不可能に打ち勝つ能力で自分たちを定義している」というメッセージがあったけど、地球が滅びるのも、移住先が見つかったことも、人類の功績じゃない。すべて用意してもらった。しかも《彼ら》は意図的に情報を伏せ、無駄な犠牲を出させた。これで「成し遂げた」と酔うのは無理。
泣けるシーン、泣ける演技、泣ける音楽があれば、観客は否応なく感動すると思われている。感動を強要されている。「どんな相手とセックスしても、性感帯を刺激すればハッピーになれる」と言われたようなもの。そのとおりかもしれないが、楽しくはない。
監督はインタビューで、「この映画で宇宙に興味をもってほしい」と言っていたが、むしろ「ポルターガイストは5次元からのメッセージ」と感じる人が増えるだろう。
最後に断っておくが、それでも私は『インターステラー』を10回は見てる。あれこれ批判してるけど、SF映画が増えることはうれしい。ブラックホールの映像は美しかった。映画を理解するため、いろいろ調べたことも楽しかった。
なんだかんだで、私は楽しめた。