メッセージ Arrival

2016年 外国映画 4ツ星 SF:ファーストコンタクト 地球外生命

言語は武器となる。

突如飛来した12基の巨大宇宙船。そのシルエット、佇まいがかっこいい。日常から非日常への転換、封鎖された区画、急造された拠点、18時間ごとの会見、重力方向の操作、7本足、コミュニケーションを試みる・・・。たまらない。すっかり魅了された。

宇宙人との理知的な交流は、疑心暗鬼によって途絶し、宣戦布告に至る。自然な流れだが、「戦争を食い止める」という派手な目的のため、SFのテーマがおざなりにされてしまった。

ヘプタ語 - 読むと思考が変わるもの

宇宙人の文字は──映画では表意文字だったが──原作では表義文字(セマグラム)だった。宇宙人は高次元の存在であり、順次的思考ではなく同時的思考をする。
ルイーズは宇宙人の言語を解読したことで、宇宙人の思考を習得した。それは原因と結果、前提と結論、過去と未来を同時認知できること。そして運命を受け入れることだった。

「言語は文明の基礎である。人と人を結びつける接着剤であり、争いの場では最初の武器になる

「話す言語がその人の考え方を形成する」

「彼らの言語で夢を見てる?」

見方を変えると、宇宙人は地球人に自分たちの言語を解読させることで、自分たちと同じ思考をもたせ、同じ運命を受け入れさせた。これって侵略じゃないの? まぁ、異文明と接触して交流すれば、変質するのは当然か。
アメリカ・インディアンは「所有」の概念を持っていなかったが、西洋文明と接触することでこれを理解し、土地の所有権を争うようになった。以前の無垢には戻れない。交流による変質は、双方向とはかぎらない。

想定される未来

ヘプタ語は人類にとって福音だろうか? ふつうの人には「わからない」が、ヘプタ語を理解した人は未来が見えるから、福音と言うだろう。ヘプタ語を理解した人と、理解しない人の乖離は大きい。

当然、ヘプタ語を理解したくない、未来を見えないままにしておきたい人も出てくるだろう。じっさい、ルイーズは夫のイアンさえ説得できなかった。ヘプタ語を拒否したい人たちは戦うだろうが、敗北する。なぜならヘプタ語を理解する人たちは未来が見えるから。ヘプタ語は武器になる。
ヘプタ語を拒否する人は淘汰され、地球はヘプタ語族に支配される。

うーーーーーーん、侵略じゃん!

映像に惑わされる

映画は美しく、切なく終わるため、ぼんやり感動する。「言語による思考侵略」について考えられない。化かされた感じ。
しかし本作が「ファーストコンタクト」だけ追求していたら、高く評価されなかっただろう。悲しい運命を強く受け入れる物語だったから、共感を生んだ。多くの人に見てもらえた。これは大きい。

それに、ヴィルヌーヴ監督らしい映画だった。遭遇した対象より、戸惑う人物の顔がクローズアップされる。大事なのは内面だ。そして時間がちょいちょい飛ぶ。たとえば宇宙船の入り口が閉じるところは描かれなかった。宇宙船が出現した瞬間の映像もない。
少しずつ足りないのに、だからこそ、脳を刺激される。

ハンナ - 未来が見える代償

ハンナがややこしい。ハンナは人類の命運を左右するような特殊な存在ではなく、ただの娘だった。ハンナの役割は、ルイーズに痛みを教えること。ハンナがいなければ、未来が見える能力は利益だけになるから。

すべては回想、永劫回帰

ルイーズは映画冒頭から未来を回想している。なので宇宙人との接触で変質したわけじゃない・・・と思っていたが、ちがった。映画全体が回想シーンだった。

原作も、これから生まれてくる赤ん坊に語りかける構造になっている。それを踏襲しているわけだが・・・ややこしい。原因(ヘプタ語を読む)と結果(未来が見える)の順序が狂うと、順次的思考の人間は混乱する。

シャトルがだせぇ!

映画終盤、ルイーズは円筒形の小型シャトルに乗って宇宙船の中に足を踏み入れる。もちろん、シャトルから出てくるシーンはない。映画を見ていて、ここだけ「だせぇ」と思った。デザインを別にすれば、古い乗り物の発想だから。

宇宙船は霞んで消えた。宇宙の果てに飛んでいったのではない。存在する確率を変動させることで移動しているように見える。であるなら、ルイーズも霞んで消えることで宇宙船内に移動すればいい。イアンが驚いて、「地上と宇宙船内に同時存在している」「彼らはこうやってやってきたのか」と言えば、SF度数が上がったように思う。

ま、気になる点はあったけど、おもしろかった。

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