スペクトル Spectral

2016年 外国映画 4ツ星 SF モンスター 戦争

おもしろい! でも惜しい!

危機的状況に対し理知的に、勇敢に立ち向かう姿は、単純にかっこいい。凡百の映画は(主人公を強調するため)愚鈍な同僚や感情的なヒロイン、卑怯な上司を配置しがちだが、ただのストレスだ。みんなで力を合わせて問題を解決する。それは映画でしかお目にかかれない奇跡なのだ。

さて、なんの期待もなく視聴した本作だが、おもしろかった。主人公が理知的で、勇敢だったから。愚鈍な同僚や感情的なヒロインも出てくるが、事態の深刻さをすぐ理解した。それがまた緊迫感を盛り上げる。いいぞ。

犠牲を出しながらも敵の性質を把握し、対策を講じていく。方針が決まって、兵士たちがキビキビ動く。かっこいい。たのものしい。オカルトと思わせてSFって、私の大好物じゃん!

司令官が「こうなったら核だ!」と言い出さないか不安だった。ビッグドッグが攻撃用じゃなく、ライト照射係でうれしかった。最大出力で吹っ飛ぶ兵士。いいぞいいぞいいぞ!

映画は最後までテンポよく進み、十分に楽しめた。しかし不満が3つある。

凝縮体の設定がハンパ

「ボース=アインシュタイン凝縮体」の設定に無理がある。物理干渉できないなら、どうやって周囲を見ているのか? どうして重力で落ちていかないのか? 特殊な知覚、特殊な移動なら、なぜ人間の形状を維持するのか?
マッドサイエンティストに「それっぽい設定」を説明してほしいわけじゃない。「人間らしさ」の残し方が中途半端で、法則性が見えないのだ。

物量ありすぎ

急ごしらえの決戦兵器にしては小型で、高性能すぎた。バカスカ撃てば、ありがたみも損なわれる。対抗して凝縮体も数が増え、苛烈な攻撃を加えるが、インフレは興を削ぐ。
たとえば弾数を80発と制限すれば、さぞや盛り上がっただろう。

事件の前と後で変化がない

主人公は科学の軍事理由に反対する立場だから、被験者を成仏させていくのは当然の行動だが・・・釈然としない。そもそも「科学では解明できないこともある」なんて言ってほしくない。ずっと理性的だったのに、最後の最後でぶち壊しだ。

要するに主人公の成長・ドラマがなかった。

たとえば女性士官が施設を爆破しようとして、主人公が止める。データが流出したかもしれないし、アメリカ軍が復旧する。可能と分かれば誰かが方法を見つけてしまう。それならおれが研究すると宣言。科学と軍事は不可分だったと認める。

これなら「戦いに勝ったけど、理念を捨てた」ビターエンディングになっただろう。主人公の判断について考える余地があり、続編の可能性も出てくる。事件の前と後で変化がないと、ただの騒動で終わってしまう。それじゃ物足りない。

でも、おもしろかった。あと一歩だった。

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