第29夜:台風と犬小屋

2009年 夢日記
第29夜:台風と犬小屋

 風が強い。もうすぐ台風がやってくる。

 家に帰る途中の坂道で、犬小屋を見かけた。
 よく見ると、それは、わが家の飼い犬「ワン太郎」の小屋だった。
(ま、まさか?)
 ワン太郎は、犬小屋の裏に隠れていた。地面を少し掘っているのは、風を避けるためだろう。
(なんてこった! だれが、うちの犬を連れだしたんだ?)
 周囲を見渡したが、だれもいない。もうすぐ日が暮れる。ともかく連れて帰らないと!

「キャウン!」
 犬小屋を持ち上げると、ワン太郎が鳴き声をあげた。風を遮るものがなくなったせいだ。
 私が犬小屋を持って、ワン太郎は歩かせるつもりだったが、ワン太郎は鉄の杭につながれていた。杭は抜けないし、首輪も外れない。ワン太郎を連れて帰れない。
 つまり、この場で台風をやり過ごすしかない?

 私は犬小屋を降ろして、しばし考えた。
 このまま風にさらすのは可愛そうだ。しかしワン太郎は犬小屋に入ろうとしない。なぜだ? 犬小屋をのぞくと、屋根に穴が空いていた。穴から吹き込む風を、いやがっているんだな。
 周辺を駆け回って、枯れ草や枝などで穴を埋めた。まぁ、応急処置だ。
「ほら、入れ!」
 うながすと、ワン太郎はのろのろ犬小屋に入った。なんか元気がないな。

 ふと、水がないことに気がついた。
 ぐったりしているのはそのせいか。いつから水を飲んでいないんだろう? 私は屋根の補強材と、水を探しに行った。

 坂を下りると、あたりは暗くなっていた。早く用事を済ませて帰らないと。

 ほどなくコンビニが見つかった。屋根の補強はガムテープを使うとして、水はどうしよう? 犬は、ペットボトルの水を飲めない。なにか深皿のようなものがないか? しかしペット用品がコンビニにあるはずもなく、紙コップと紙皿が見つかった。
(こんなんじゃ、台風で吹き飛んじゃうよ)
 もっと先まで探した方がいいかな? だけど、ほどよい代用品が見つかるとは思えない。とりあえず買って、ワン太郎のところに戻ってやらないと。

 ガムテープ、ペットボトル、紙コップを買った私は、来た道を戻っていった。
 坂の上で暗雲が渦巻いている。台風はすぐそこだ。

 さっきの場所に戻ると、犬小屋がゆらゆら揺れていた。
(なんかおかしい。軽すぎる?)
 小屋をのぞくと、ワン太郎がいない! ふさいだ天井の穴が空いている。すっぽ抜けた首輪が地面に転がっていた。強風を恐れて、逃げちゃったようだ。

「おーい! ワン太郎-!」
 周囲を探したが見つからない。台風が来ちゃう。
 コンビニ袋が重くなってきた。なぜか、数本の電池が入ってる。
 このまま探すべきか、いったん家に帰るべきか?
 どうすればいいんだ?

 という夢を見た──。
 むっくり起き上がって、頭をふる。思い出した。ワン太郎は19年前に死んでいる。だからもう、風や水のことを心配する必要はないんだ……。

 ほっとしたような、わびしいような気持ちになった。