第27話:舞踏会の手帖 ss27 また書いてしまった。 明日は神戸で、ぜんぜん準備できてないのに……。
2007年 ショートショート「で、爺さんはこんな田舎まで、なにしに来たんだい?」
道を尋ねた青年とつい話し込んでしまったが、これもなにかの縁か。
バスが来るまであと1時間。
少し長くなるが、と前置きして私は昔話をはじめた。
◎
私は今年で96歳になるが、若いころは宇宙飛行士だった。
今でこそ宇宙航行は簡単になったが、当時は危険がいっぱいだった。私たちはとりわけ亜空間ゲートでの事故を恐れた。なにせゲートは、半分あの世とつながっているような場所だからな。
しかし事故は起こった。
航海士がミスをして、航路座標を外れてしまったのだ。宇宙船はシェイクされ、私たちは亜空間被爆した。
「あれは……想像を絶する体験だった」
4日後、私たちは救助されたが、乗員のほとんどは死ぬか、発狂していた。生き残った者たちは、ミスした航海士を吊し上げようとしたが、そいつは一足先に退院して、トンズラしていた。追跡しようにも、動ける者はいなかった。
乗員たちの人生はめちゃめちゃになった。
しかし犯人は罪をあがなうことなく、こっそり生きてきたのだ。
◎
「すると、その航海士がこの先に住んでいるのかい?
爺さんは、そいつに復讐しに来たわけだ」
青年の推理は鋭かったが、私は首をふった。
「ちがうよ。
この先に住んでいるのは昔の仲間さ。
それにミスをしたのは……私なんだ」
「爺さんが?」
「そうだ。私の責任だ。
病院で目覚めた私は、罪の大きさに堪えかね、逃げ出した。
あれから60年。
社会の陰で生きてきたが……もう疲れた。
死ぬ前に、みんなに詫びておきたかった。
それでこうして、1人ずつ訪ねて歩いているのさ」
「ほかの乗員のところもまわったのかい?」
「あぁ、みんな、私を許してくれた。ここが最後の訪問先だよ」
しばしの沈黙のあと、青年が言った。
「わかった、おれも許してやるよ。おまえも大変だったな」
ぽんぽんと青年が肩を叩く。
「え?」
「おれだよ。通信士のリュウさ。息子じゃなくて、本人だぜ」
「な?」
「あの事故の影響さ。位相が定着するのに59年かかった。
つまり、おれにとって事故は去年のことなんだ」
「そ、そ……」
「来たのが去年だったら、ぶっ殺していたかもな。
それよりサ、世の中、すっげー変わったな!
おれ、ゲートが木星まで延びるとは思わなかったぜ!」
「あ、う、あ……」
リュウはべらべら話しはじめた。60年前とまるで変わらない。
私の罪はすっかり精算されたが、魂の平穏は訪れなかった。
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