第47話:無礼講の罠 元ネタはこちら。 [1557] 制限付き無礼講 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=848861427&owner_id=105899

2008年 ショートショート
第47話:無礼講の罠

「今夜は遠慮なく意見を聞きたい。無礼講で話し合おう!」

 合宿初日の夜、全従業員を集めたホールで、社長が宣言した。
 だが、その言葉を信じる従業員はいない。なにを言おうと変わらないものは変わらないし、変わるものはいずれ変わる。あえて冒険する必要はない。

 2週間前、社長が合宿しようと言い出した。
「会社のあるべき方向性について、全社員で考えたい!」
 迷惑な話だ。社長が現場に降りてこないように、従業員は経営判断に関与しない。なんでも一緒にやりたがるのは子どもだ。
 しかし社長は社長だ。全従業員は任意という名の強制で参加させられた。この日のため、必死に仕事を終わらせてきた。初日から疲れ切っていたのだ。

「それじゃ、言わせていただきますがね。こんな合宿は無駄ですよ」
 若い社員が立ち上がり、タメ口で発言した。私と同期で入社したナオヤだった。ナオヤは純粋というか、馬鹿というか、相手の言葉を真に受けてしまう。だから社長の望みどおり、無礼講で意見したのだ。

「なんだ、その態度は!
 無礼講でも言っていいことと悪いことがあるぞ!」

 案の定、社長は激怒した。
 社長は課長を呼びつけ、怒鳴り散らした。かわいそうに。これで課長の出世はなくなった。部下の不始末は上司の責任。中間管理職のつらいところだ。

「今夜は遠慮なく意見を聞きたい。無礼講で話し合おう!」

 合宿初日の夜、全従業員を集めたホールで、社長が宣言した。
 あれから30年──。
 この疲れる合宿参加も30回目。私は順調に出世して、事業部長のポストに就いていた。

「誰も意見はないのか? ん?」
 社長がうながすと、ナオヤが手を挙げた。

「それじゃ、ぼくらのアイデアを聞いてくださぁい」
「またナオヤくんの役に立たないアイデアか。いいだろう。発表してくれ」

 ナオヤは数人で寸劇をはじめた。寸劇でプレゼンするのか? まったく理解できない。なぜそんな無駄なことする? しかしもっと理解できないのは、そのナオヤが専務になっていることだ。

 あの合宿以降、社長はナオヤを気に入ってしまった。
 ナオヤは無駄な提案をたくさんした。ほとんどが徒労に終わったが、10個に1つくらいは効果を上げた。すると昇進、その繰り返し。私より無駄が多いのに、私より出世してしまった。

 社長にせよナオヤにせよ、無駄が多いヤツばかりが上にいる。
 私のサラリーマン人生は、間違っていたのだろうか?


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