第78話:ブリガドーンの約束 ブリガドーン(BRIGADOON)はスコットランドの伝説で、100年ごとに出現する村のこと。 1954年に映画化。その後、『墓場鬼太郎』や『サイボーグ009』、『BRIGADOON まりんとメラン』に引用された。『ニルスのふしぎな旅』や『キノの旅』にも類型がある。 いっぺん取り上げたいと思っていた題材なんだけど、1,000文字だと状況説明で終わっちゃうな。 ヒーローは見える困難には立ち向かうんだけど、 そのあとどうなるかを考えてみた話。
2010年 ショートショート「ま、待ってくれ! まだ地球を破壊しないでくれッ!」
たまらず、おれは祭壇の前に飛び出してしまった。
ゆらゆら詠唱していた人影が、ぴたりと立ち止まる。振り向いたローブの中には3つ、4つ、7つの目が光っていた。
ごくり、と喉が鳴る。
「おまえは、地球の代表か?」
リーダーとおぼしき男が指さす。
顔は異形だが、ちゃんと聞き取れる声。宇宙人とは思えない。
「そ、そうだ!」
とりあえず大見得を切ってしまうのは、おれの悪いくせだった。
◎
どうしてこんなことに?
おれはオカルト雑誌の記者。100年周期であらわれる謎の村、ブリガドーン。ただの民間伝承だが、「実際にあらわれた」「妙な生き物がいる」という噂が立ったので、山奥まで取材に来たのだ。
濃密な霧の向こうに、その村はあった。
いろいろあったけど、詳細は省く。
おれは村人に歓待され、すべての疑問に答えてもらったが、納得できず、禁じられた夜の祭りを見てしまう。
それは、宇宙人の儀式だった。
なにを馬鹿なと思うだろうが、本当だからしようがない。しかも宇宙人は、人類の退廃をなげき、地球を破壊すると決めてしまった!
彼らの技術力は魔法の域に達しており、信じる、信じないと言える状況じゃない。逃げることも、助けを呼ぶことも、戦うこともできない。
たまらず、おれは飛び出してしまった。
策などない。とにかく言葉で、身振りで、心で訴えるだけだ。
◎
「わかった」
あっけなくリーダーは了承した。
「へ?」
「おまえの言うとおり、人類に進化の余地があるなら、もうあと100年の猶予をやろう。
それまでに悔い改めるのならばよし。さもなくば裁定を下す。
いいな?」
「へ?」
「いいな?」
「はい、わ、わかりました」
◎
ふたたび村が、霧の彼方に消えてゆく。
とぼとぼ山道を降りて、自分のワゴンに乗り込み、エンジンをかけるころには、地球を救った興奮は消え失せていた。長い映画を見てきたようだ。
(なにをすればいい?)
こんな話をして、誰が信じてくれるだろう? かりに信じてもらえたとして、どうなる? 人類は罪を悔い改めるより、この村を爆撃するだろう。そして......。
あまり幸福なイメージは浮かばない。
100年周期であらわれる伝説の村、ブリガドーン。
彼らはいつから地球にいるのだろう? そして何回、執行を順延してくれたのだろう。呆れるほどお人好しで、気の長い神さま。
だったら、もうちょっとだけ......。
(967文字)