第79話:新型メタボ対策 「脳メタボ」という言葉を思いつき、そこから膨らませてみた。 本人の思考力、意志力が衰えているため、 これを叱咤するメイドロボを登場させたところ、 なにやらロボットの叛乱みたいな話になってしまった。 しかし「叱ってくれるメイドロボ」は、あんがい売れるかもしれない。

2010年 ショートショート
第79話:新型メタボ対策

「カズオさん、起きてください!」

 いきなり布団を剥ぎ取られ、ぼくは床に転げ落ちた。
 窓が開いていて、冬の寒気に体温を奪われる。ぼくはベッドに戻ることも、布団を取り戻すこともできず、「ひぃぃ」と叫んで丸くなった。
「こ、こらッ! シズ!」
 朝焼けを背に、メイドのシズが仁王立ちしている。

「今日シズは優しくできません。
 服も、箪笥から自分でお取りください。
 それから布団を干して、顔を洗い、朝の散歩に行きます!」
「なんで急に......」
「新型メタボ対策です!」

(あぁ、そうか。自分でやろうって言い出したんだっけ)
 文明の発達で世の中は便利になったが、その代償として、人間はすっかり弱くなってしまった。いま、たるんだ生活習慣の見直しがブームになっていて、ぼくもやることにしたんだけど、いざ直面すると面倒くさい。
「うぅ、べつに今日じゃなくてもいいじゃん。明日からにしようよ~」
「駄目です。なぜ駄目か、30文字以内で説明しなさい!」
「え、えぇと......」
 ビリッっと電流が流れた。シズがスタンガンを押しつけたのだ。
「わっ」
 微弱なので痛みはないが、びっくりする。急いで答えないと。
「えぇと、す、すでに4回延期してて、このプログラムは3回延期すると、強制モードになって、あれ......」
 ビリリッ!

「それでシズ、どこへ行けばいい?」
 スウェットに着替え、寒空に引っ張り出された。これから散歩だ。
「朝食にサラダを作りますから、具材をやってきてください」
「なにを、どこで?」
 ビリッ!
「わっ、ま、待って。なにを買うかくらい指示してよ」
「いいえ。スーパーで目についたものを買ってきて、自分で調理するんです」
「そんなの無茶だ。や、やったことないよ」
 ビリッ!
「どどど、どうしたらいいの?」
 ビリリッ!

 困った。自分で考えることが、こんなに難しかったとは。

 メイドロボの普及で、人間は頭を使う機会がものすごく減った。主人の代わりにメイドロボが記憶し、調べ、判断してくれるからだ。思考力の低下は社会問題となり、「新型メタボ」「脳メタボ」などと呼ばれている。

 脳メタボ解消のため、メイドロボが人間を突き放すプログラムが開発された。
 ふだんは何重にも制限されているメイドロボの行動原則が緩和され、人間に対して厳しく接することができるのだ。

 ちなみに、このプログラムを開発したのもメイドロボらしい。
 世の中、便利になったもんだ。


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