【ゆっくり文庫】クリスティ「完璧なメイド」ミス・マープルより The Case of the Perfect Maid (1942) by Agatha Christie
2014年 ゆっくり文庫 イギリス文学 クリスティ ミステリー028 完璧なものには罠がある?──
メイドのルーシーはブローチを盗んだと疑われ、解雇された。ほどなくその家に完璧なメイドがやってきて、ルーシーはますます立場を失う。そして事件が起こる。
パブリックドメインでない作品を取り上げることについて
著作権の延長はディズニーなどの企業利益を保護する一方で、多くの作品が忘れ去られ、著者(の遺族)の利益にも、文化保護にもなってない現実がある。だからと言って法を無視してよいはずもなく、【ゆっくり文庫】はパブリックドメインのみを対象としてきた。
しかし著作権法第38条が「非営利かつ無償の上演」を許容していることを知って、試しに作ってみることにした。警告があれば、[Yukkuri Books 028]は欠番になるだろう。
クリスティ財団に問い合わせたかったが、日本語サイトは消えていた。まぁ、問い合わせても公認されるわけないか。やりにくい。
今後、パブリクドメインでない作品に手を広げるつもりはない。マープルさんもこれ1本きり。あしからず。
- The Case of the Perfect Maid - Complete Short Stories Of Miss Marple
- 著作権延長法がなければ――パブリックドメイン研究センターが文化的損害を嘆く - ITmedia ニュース
「ミス・マープル」について
アガサ・クリスティ
(1890-1976)
私は原作に書かれていることより、そこから引き出される妄想を愛する傾向がある。そんな妄想を脳から取り出したものが、【ゆっくり文庫】だ。作品や著者へ敬意を払っているつもりだが、原作ファンにどう見られるか、内心ヒヤヒヤしている。
「ミス・マープル」も妄想が肥大化したキャラクターである。
マープルは職業探偵じゃないから、毎度毎度事件に首を突っ込む理由が設定される。「関係者に相談された」「身内が巻き込まれた」「個人的に興味をおぼえた」の組み合わせだが、繰り返されると奇妙に思えてくる。
なぜマープルは事件に関わるのか? マープルは悪徳の栄えを嫌悪し、自分の生活圏を守ると決めているが、それだけとは思えない。恋人と結ばれなかったこと、卓越した才能を持ちながらそれを発揮する場に恵まれなかったことが、突出した正義感の背景にあると思う。
もちろん正解は「推理小説だから」であり、そのへんを気にしても仕方ない。クリスティが描きたかったのはトリックであり、事件関係者の愛憎なのだ。しかし一方で、クリスティはマープルを祝福しているように見える。『カリブ海の秘密』『復讐の女神』につづく三部作の完結編が書かれなかったことが惜しまれる。いや、書かれなかったから、こうして妄想しているわけだが......。
※セント・メアリー・ミードの地図 (Agatha Christie Wikiより)
ルーシーという相方
マープルは他人を信用しない。期待もしない。だから惑わされない。そんなマープルを、ラフィール氏はネメシス(→私情に左右されない裁定者)と絶賛したが、彼はもういない。だれがマープルの心を知るだろう? 超越者の孤独を感じる。
マープルを描くならパートナーが欲しい。そこでルーシーというキャラクターを創造した。ちなみに『完璧なメイド』で解雇されるメイドはグラディスで、マープルを世話するメイドはエドナだ。ルーシー・アイレスバロウは『パディントン発4時50分』に登場するスーパー家政婦の名前であり、戦争孤児ではない。
じつは最初、『パディントン発4時50分』を取り上げるつもりだったので、ルーシーの名前が残ってしまった。原作を読んだ人は、次回予告でルーシーの活躍と結末を思い出し、ニヤリとするだろう。たぶん......きっと.....。
子どものいないマープル & 親のいないルーシー。
人間の底意を見透かすマープル & たやすく信じてしまうルーシー。
過去があるマープル & 未来があるルーシー。
このコンビはおもしろそうだ。ルーシーがいたら、事件の展開や印象も変わる。ルーシーは学び、働き、結婚し、子を産むが、ずっとマープルのそばにいて、最期を看取るだろう。
ああ、だれか私の妄想を止めろ!
※幽々子と妖夢の組み合わせがいいんだよ
※今回追加されたモード2種(ずぶ濡れ、メイド)
申し分のないメイド → 完璧なメイド
著作権法の延長で、『ポケットにライ麦を』がパブリックドメインに入らなかった。それでもマープルをやりたかったので、適当な短編を選んだ。集英社と早川書房の邦題は『申し分のないメイド』だったが、「完璧なものはない」とするメッセージと、演じる咲夜のイメージから、直訳の『完璧なメイド』とした。
話を簡潔にするため、スキナー姉妹に解雇されるメイドと、マープルに相談するメイドを統合し、語り部(ワトソン役)とした。さらに情報や展開を省略し、12分の動画を作成したが、わかりにくい。ミステリーは情報が少なすぎても成立しないようだ。
制作中にセリフをいじることは多いが、展開が大きく変わったのは初めて。めちゃくちゃ手間がかかる。反省しよう。
※図説できるのは【ゆっくり文庫】の長所だ。
細かいことだが、原作のスラック警部はクラドック警部に変更した。クラドック警部は『予告殺人』、『パディントン発4時50分』、『鏡は横にひび割れて』に登場するからね。
妄想設定では、クラドック警部はマープルを尊敬しつつ、素人の介入を認めない。男尊女卑と能力主義の狭間で揺れる。マープル&ルーシーともっと会話させたいなぁ。
妄想補足
動画から省略されたプロットを載せておく。《おまけ》にすべきだったかな?
- メイドの信用
当時のメイドは現在の家電製品のように必要不可欠な存在だが、その家の財産や裏事情に触れるため、高い信用が求められた。ルーシーのような底辺層の女性は、マープルのような人格者に訓練してもらうことで、社会的信用を得ていた。一方、マープルにとっては安い賃金でメイドを雇えるメリットはあるが、底辺層の女性を仕込むのは大変だった。
ラスト、ルーシーは高い信用を得て、よい働き口を紹介してもらったのに、マープルのところに残った。これはとんでもない選択なのだ。- 人物証明書
メイドは勤め先で人物証明書をもらい、それが連続することで信用となる。ラヴィニアはルーシーの人物証明書に、「正直である」と記入しなかったため、職探しが不利になった。ラヴィニアが証明書を書き換える可能性はないため、マープルはこれを無効にする荒業をやってのけた。
- 完璧なメイドの信用
原作のスキナー姉妹は、メアリー・ヒギンズの人物証明書を偽造していた。マープルは書類より相手の人物や家族を知っていることが重要と考え、惑わされなかった。
- 手鏡の指紋
メアリーの指紋を採取するとき、マギリカディ夫人を同伴させたのは、「メアリーが触ったこと」を証言してもらうためである。初稿はセリフがあったんだけど、削ってしまった。
- 悪いうわさの打ち消し
ラヴィニアはルーシーの悪いうわさを広めることで、相対的に完璧なメイドを強調するつもりだった。しかしマープルがルーシーを雇い、村を連れ歩いたため、悪いうわさの拡散は抑えられた。
原作のグラディスは村を離れてしまうため、うわさはもっと拡散している。- マープルの推理
見知らぬ姉妹が引っ越してきて、事件があればまっさきに疑われる。理由なく姿を消しても疑われる。なので「完璧なメイド」を演出したわけで、それゆえ姉妹が事件直後に消える可能性は低かった。また関係性を問われる犯罪(殺人)も考えにくい。なので警戒しつつ、泳がしていたのだろう。
動画制作について
『牡丹灯籠』の幽々子&妖夢コンビを見て、ビビッと閃いた。スパークすると妄想は一気に燃え広がる。
マープルは雲のように白い髪を高く結いあげた老婦人であり、幽々子とは似ても似つかないが、そーゆーことじゃない。霊夢ホームズだって、ホームズらしくないでしょ? 「こんなのマープルじゃない」と言われれば返す言葉もない。ただ、マープルを知らない人が誤解しちゃったら、ごめんなさい。小説を読んでください。
ゆゆープルは考え事をするとき、ジト目になる。しかし警戒する相手には、ジト目を見せない。ジト目は気を許してもらっている証だ。またマープルは思っていることをそのまま口にしない。彼女が言わなかった気持ちを察してもらえれば、制作者冥利に尽きる。
※ゆゆープル:この魅力がわからない人は下がってよし
高齢者の記号として眼鏡をかけさせた。鼻の上に乗る小さな眼鏡にしたかったが、ゆっくりキャラに合わない。眼鏡のフチが「目」に重ならないよう、「体」に描いた。ゆっくりMovieMakerの仕組みがわかる人はわかる。
※ゆゆープル:眼鏡のふちを目で隠している。
完璧なメイド=咲夜は確定だから、背格好が近い紅美鈴がエミリーを演じるはずだった。しかしレミリアの妹だから、フランドールは外せない。エミリーの変装であることを示すため、「目」と「口」はフランのまま。東方を慣れた人は、ニセ咲夜と気づくかもしれない。
※十六夜咲夜とメアリー・ヒギンズ(エミリーの変装)
※一人二役を見抜くことは目的じゃないけどね
当初の配役では、ラーキン夫人(アリス→八坂神奈子)、ドゥボロー夫人(魔理沙→聖白蓮)、村の婦人(パチュリー→八意永琳)だった。しかし東方五大老を出演させろという事務所の圧力に屈した。また魔理沙の出番がなかった。ごめんなさい。
※東方五大老
妄想のシリーズ構成
どうせ作らないから、ここでシリーズ構想を書いておく。いやぁ、妄想を吐き出すのは気持ちがいい。
今さら断るまでもないが、原作のあらすじではないので誤解しないように。
牧師館の殺人 - The Murder at the Vicarage
セント・メアリー・ミードの嫌われ者だったプロズロウ大佐が殺された。3人の村人が自供したことで捜査は混乱する。大佐が苦手だったルーシーは先入観に惑わされる。
周到に準備された計画だったのに、犯人はストレスに負けてしまった。ルーシーは犯罪者が背負う苦しみを学ぶ。
書斎の死体 - The Body in the Library
ルーシーは行方不明になった女学生パメラを探していたが、ゴシントン・ホールで発見された死体に興味を奪われてしまう。「書斎に見知らぬ女性の死体」という状況は、ルーシーが読んでいたミステリー小説そっくり。周到な準備と、陳腐な後始末が矛盾し、ルーシーは混乱する。
動く指 - The Moving Finger
ルーシーは療養のため訪れた傷痍軍人のバートンに恋をする。ほどなくバートンや村人を中傷する怪文書がばらまかれ、シミントン夫人が自殺した。陰湿な手口に怒ったルーシーは犯人を探すが、思い込みが事実を見誤らせた。
バートンとの恋は成就せず、ルーシーは自分の将来を考える。
予告殺人 - A Murder is Announced
《殺人お知らせ申し上げます。10月29日金曜日、午後6時30分よりリトル・パドックスにて》 奇妙な新聞広告が掲載されたので、好奇心旺盛な村人が集まってきた。果たして指定時刻、明かりが消え、銃声が響いた。
犯人の計画は、マープルという天才が紛れ込んだことで破綻した。ルーシーは犯人を軽蔑するが、同情してしまう。
魔術の殺人 - They Do It with Mirrors
マープルはマギリカディ夫人から、妹・キャロラインの様子を見てきてほしいとたのまれる。キャロラインは極端な理想主義者で、未成年犯罪の更生施設を運営していた。その夜、キャロラインの義理の息子クリスチャンが射殺される。
親友の妹なのに、マープルは容赦なく真実を突きつける。ルーシーは悲しむが、これがマギリカディ夫人が望んだことであったと知り、複雑な気持ちになる。
ポケットにライ麦を - A Pocket Full of Rye
金融会社の社長が毒殺され、ポケットからライ麦が見つかった。つづいて夫人が毒殺され、メイドのグラディスも洗濯バサミで鼻を挟まれた絞殺死体として発見された。
教え子が殺され、死体を辱められたことに怒ったマープルは、犯人に鉄槌を下すべく屋敷に乗り込む。マザー・グースに見立てた殺人であると見抜き、犯人を特定するが、逮捕するだけの証拠をつかめなかった。探偵マープルの敗北である。
このエピソードのラストは、ジュリア・マッケンジーが演じたS4E1がいい。
パディントン発4時50分 - 4.50 from Paddington
マギリカディ夫人は並行する列車の窓から、男が女の首を絞める瞬間を目撃する。だれも信じなかったが、マープルは真剣に調査して、クラッケンソープ家に死体があると推理する。危険が予測されたが、ルーシーはメイドとして潜入し、死体を発見する。しかし第2第3の殺人が起こってしまう。
事件解決後、ルーシーは結婚。マープルのもとを離れる。
鏡は横にひび割れて - The Mirror Crack'd from Side to Side
妊娠したルーシーは、出産までセント・メアリー・ミードで過ごすことになった。そのころ村は、往年の大女優マリーナがゴシントン・ホールに長期滞在することが決まり、盛り上がっていた。その交歓パーティの最中、村の女性ヘザーが毒殺される。ルーシーはマリーナを狙った犯行と考えるが......。
原作を読んだ人は、ルーシーがどれほどショックを受けるか想像できるだろう。
カリブ海の秘密 - A Caribbean Mystery
子育ても一段落したルーシーは、マープルの旅行に同行する。そこで出会った大富豪のラフィール氏はマープルの本質を見抜き、敬意と好意を示す。ルーシーはラフィールに嫉妬する。
ぶっちゃけ、カリブも殺人事件もどうでもいい。老人たちの恋を描きたい!
バートラム・ホテルにて - At Bertram's Hotel
マープルは甥の好意でロンドンにあるバートラム・ホテルに滞在する。数日後、常連客の牧師が行方不明になり、女性客が襲われた。警察が連れてきたアシスタントは、なんとルーシーだった。
マープルは昔と変わってないホテルを不自然と言い、ルーシーは歴史があると興奮する。そしてホテルが受け継いできた負の遺産があらわになる。
ジェラルディン・マキューアンによるS3E1のジェーンとの会話がよかった。彼女がルーシーのモデルだ。
ネメシス - Nemesis
ラフィール氏が亡くなり、マープルは十分すぎるお金を相続することになった。受け取る条件は、あるバスツアーに参加すること。なにかを調査させたいようだが、対象がわからない。マープルはルーシーを連れて出発し、やがてラフィール氏の意図を察する。
マープルが気づかない、気づいても見逃すなら、それでいいと言うのか?
スリーピング・マーダー - Sleeping Murder
探偵事務所を開いたルーシーのもとに、若い夫婦が相談にやって来る。ふたりは新生活のため古い家を借りたのだが、妻グエンダは「ここで殺人があった」という既視感に悩まされていた。その家にグエンダが住んでいたはずはないし、殺人の記録もない。手詰まりになったところへ、マープルが開業祝いに訪れる。
マープル、ルーシー、ルーシーの娘が揃ったところでシリーズ完結。
だれか一千万ほど用意してくれない?
そしたら許諾をとって制作するよ(笑)。