富士登山(御殿場口・下り)
2000年 静岡県 山・渓谷 温泉・銭湯太陽が中天に近づくころ、私たちは下山を開始した。
同じ道をもどるのはイヤだったので、御殿場口に向かう。まぁ、適当に足を動かしていれば帰れるだろう。登りの苦労を経験したあとでは、下りなんて軽いもんだと思っていた。
しかしそれは、大きな間違いだった。
09:30-九合目(3,576m)
登りとちがって、周辺がよく見える。といっても、見えるのは砂と岩ばかり。どこか遠い惑星のようだ。
11:00-七合目(2,950m)
かなりの距離を降りた...ような気がするが、まだ七合目だった。節目となる山小屋がないので、やたらと長く感じる。
ふいに「急転直下直線道砂走入口」という立て札が出現。しかし実際に砂走りがはじまるのは、まだずぅーっと先だった。
※七合目
12:00-砂の中
気がつくと、砂礫が黒く、粒子が細かくなっていた。靴がズボーッと砂に埋まりはじめる。
「これが、砂走りか?」
私たちは靴下を引き上げて、一気に駆け下りはじめた。1歩3mと言われていたが、たしかにそのとおりだ。
※砂の中
ズボーッ、ズボーッ!
砂に埋まりながら進んでいく。なかなか気分がいい。このあたりから霧が発生しはじめた。
13:00-霧の中
いったい何時間が経過しただろう?
ズボーッ、ズボーッ、ズボーッ、ズボーッ。
ズボーッ、ズボーッ、ズボーッ、ズボーッ。
砂走りは、まだ続いていた。濃い霧のため、前も後ろも見えない。
ズボーッ、ズボーッ、ズボーッ、ズボーッ。
ズボーッ、ズボーッ、ズボーッ、ズボーッ。
登りではへこたれなかった私だが、下りは駄目だった。あまりにも長いので、ぶーぶー文句を言い始めた。彼女と友人Aには迷惑をかけたと思う。
15:00-御殿場口(1,440m)
無限につづくかと思えた砂走りも、ついに終点を迎える。
「...長かった...ほんとうに長かった...」
御殿場口の駐車場が見えたときは、涙もにじんだ。
※御殿場口
あとで知ったことだが、御殿場口の新五合目は、富士宮口よりも1,000mも低い。実質的には2合に相当するそうだ。どうりで長かったわけだ。
◎
その後、JR御殿場駅に近い銭湯で、砂と疲れの一部を洗い落とす。お風呂は気持ちよかったが、砂まみれの服をふたたび着るのはつらかった。そのまま御殿場駅まで歩いて、電車に乗り込む。帰り道はほとんど寝ていた。
こうして、私たちの富士登山は終わったのであった。