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第70話:作品と作家は同一ではない

「ジロウさん、あたし、スタジオを辞めようと思うの」 ユミちゃんが突然ヘンなことを言うので、ぼくはコーヒーを噴いてしまった。 原稿をもっていたので、あわてて2人でコーヒーを拭き取る。間一髪セーフ。 なんだか気が抜けたので、休憩を入れよう。スタ...
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第69話:名女優の素顔

「ねぇ、まだ私の素顔を見たい?」 意識を取り戻したチヨコさんは、唐突に切り出した。 枕元の夫のゲンゾウ氏も戸惑っていたが、ハッキリした声で答えた。「あぁ、見たいとも。そのために結婚したのだから!」 チヨコさんの手を、強く握りしめる。いのちを...
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第68話:国産の癒しツール

『きみがこの手紙を読むころ、ぼくはこの世にいないだろう。 ぼくは政府の秘密を知ってしまった。そのことを、きみに伝えておきたい。 いや、きみは知っているはずだ。きみは真理省の長官であり、ムードオルガンの開発にも携わっていたのだから。 それでも...
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第67話:回帰日蝕

46年ぶりの皆既日食が明けた。 みるみる周囲が明るくなっていく。まるで天空の穴から、昼間が広がっていくみたい。夜明けとはちがう変化に、私は興奮した。この震えを、感動と呼ぶのかしら? 私たちは日食観測のため、太平洋上の船に"来て"いた。 小一...
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第66話:殺人罪

「これはどうしたことだ!」  久しぶりに研究室を訪れた私は、驚きを隠せなかった。  アルジャーノンが、研究スタッフと談笑している!  もちろん、アルが言葉をしゃべっているわけではないが、そう見えてしまった。 「あ、教授。いらしたんですか」 ...
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第65話:作品づくり

「くだらない仕事はやりたくない!」 タカユキはぷいっと顔をそむけ、ゲームを再開した。その幼稚な態度に、私はむっとした。「くだらない仕事かどうか、書類を見なさいよ!」 書類の束を突きつけるが、タカユキはゲーム画面から目を離さない。私も意地にな...
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第64話:過去を捨てた女

「お母さん、なんで今ごろ?」 カスミの声は震えているが、強い非難が込められていた。無理もない。幼少時に自分を捨てた母親が突然、現れたのだ。恨み言もあるだろう。 私はカスミの親代わりとして、この再会を見届けなければ。「ごめんね、ごめんね」 母...
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第63話:死んだ主人が日記を書いています

死んだ主人が日記を書いています。 もちろん主人でないことはわかっていますが、そう思えてなりません。 この気持ちを、どう整理すればいいでしょう? 主人の趣味は、ブログでした。 小学生のころから毎日欠かさず、どこへ行った、なにを見た、なにを食べ...
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第62話:蜜の流れる地

「わわっ、なにこれ? すごい!」 なんという甘さ、スーッと溶ける爽やかさ! 爺ちゃんが取り出したハチミツは、たとえるもののない天上の甘露だった。「どうだ、ケイイチ。うまかろう? 下界の連中には内緒だぞ」 "下界"という言葉に戸惑うが、秘密に...
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第61話:歴史に残る仕事

「ぼくはこの仕事に向いてないのかもしれません」 昼休み、弁当を食べ終えたタケルは深いため息をつき、遠くを見据えた。 いつもの陽気さは影もない。よくない兆候だった。「なにか悩みでもあるのか?」 私はお茶を飲みながら、話を聞くことにした。 タケ...
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第60話:部屋とセーラー服と私

「これって、セーラー服?」 つきあって4年になる彼氏の部屋で、セーラー服を見つけてしまった。 ベッド下の紙袋に入っていた。 きょろきょろ周囲を見渡す。 タクヤは買い物に行ったばかりだから、あと15分は戻ってこない。 窓を閉めて、カーテンをひ...
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第59話:本気のしるし

「先生、私、初めてじゃないよ」 放課後の教室で、ミユキはぼくの机に腰掛けた。書類が床に落ちる。「なにが、だだれと、どうして?」 感情が逆流して、うまくしゃべれない。 耳元で少女が囁く。「キスしてくれたら、教えてあげる」 少女は目をつむり、う...
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第58話:吾輩は犬である

吾輩は犬である。 名前はあるかもしれないが、とんと見当がつかぬ。 ご主人様との関係は、おおむね良好。 そう思うのは、散歩の回数が多いからだ。昨年あたりから回数が増えた。ほぼ毎晩である。夜の散歩は味気ないが、鎖につながれた日中を思えばありがた...
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第57話:保証された権利

「いつ、だれと結婚するかは、あたしが決めることでしょ!」 怒鳴られて母さんはしょんぼりした。 言いすぎたかもしれないけど、押し切るしかない。 私は絶対にヨシユキと結婚する。「だってリカ。母さんの話を聞きなさい」「聞いてどうするの? もう決め...
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第56話:賢い選択

「おまえ、ダイエット中だったのか。そりゃ、悪いなぁ」 高校時代の友人・シゲルは、がははと笑ってジョッキを飲み干した。(ちくしょう、うまそうに飲み喰いしやがって!) メタボリックな私は半年前からダイエットしているが、ぜんぜん成果が出ない。だか...
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第55話:スタンドアローン

「目が覚めたかい?」 ぼくは、ボクに声をかけた。 ボクは身体を起こして、機械の頭を振る。「ここは宇宙船?」「ぼくの棺桶になるところさ」 機械のボクは、生身のぼくを見て驚いた。「あれ? ぼくが生きてる。どうなってんの?」「説明するよ」 97時...
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第54話:ブラック・ウィドー

「ついにブラック・ウィドーを妻に娶ることができた」 きょう、80歳の誕生日を迎えるカツシゲ翁は、微笑みながらグラスを掲げた。「いやだわ、そんな言い方されては」 きょう、結婚したばかりの若い妻ヒトミも、グラスを手に取り乾杯する。 海辺に佇む広...
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第53話:アーバンライフ

「あれ? 母さん、どうしたの?」 アパートに帰ると、ドアの前に母さんが立っていた。「なに言ってんの、ミホ。今日、泊まりに来るって言っておいたでしょ」 ヤバ、すっかり忘れてた。 田舎の母が恩師に会うため、上京してくるんだった。 私は母さんに謝...
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第52話:呪われた会社

「ユミちゃん、この会社はヤバイよ!」 幼なじみのシロウは、青ざめた顔で訴えた。 霊感の強い人だから、なにか言うとは思っていたけど、こんなに真剣だとシャレにならない。 ここは私が勤める証券会社。ヘッドハンティングされて3年になるかしら。 最初...
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第51話:モリアーティ

「今回も解決できましたね、教授!」 ジェーンの賞賛に、教授は不機嫌そうにそっぽ向いた。「ふん」と鼻を鳴らすが下品さはない。すねても英国紳士だった。「個別の事件を解決しても意味ないね。背後の大悪党を捕らえないと」「でも、教授がいなければ数百人...
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第50話:シャーロック

「ホームズさんが死んだって、本当ですか?」 真っ青な顔で叫ぶレストレード警部に、ワトソンは静かにうなずいた。「ライヘンバッハの滝で、モリアーティ教授もろとも滝壺に転落しました」「ど、どうなってるんです?」 ワトソンはこれまでの経緯を話した。...
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第49話:アレルギー×アレルギー

「えぇ! 自宅で海老を食べてるのー?」 トモミの告白に、素っ頓狂な声をあげてしまった。居酒屋の注目が集まる。「チーちゃん、声が大きい」 私たちは身体をかがめ、小声で話すことにした。女2人で内緒話をしているみたい。 トモミは職場の後輩で、とて...
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第48話:あらしのよるに流されて

「男と女の友情は成立するのかしら?」  サヨコの質問に、ぼくは唾を飲み込んだ。 (どうして、いま、そんなことを訊くんだろう?)  ぼくの答えを待たず、サヨコは言葉をつないだ。 「私は無理だと思う。男と女が友だちでいられるのは、欲情してないと...
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第47話:無礼講の罠

「今夜は遠慮なく意見を聞きたい。無礼講で話し合おう!」 合宿初日の夜、全従業員を集めたホールで、社長が宣言した。 だが、その言葉を信じる従業員はいない。なにを言おうと変わらないものは変わらないし、変わるものはいずれ変わる。あえて冒険する必要...
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第46話:悪魔の弁護

「私、悪魔なんです」 少女は抑揚のない声でつぶやいた。 つややかな黒髪と、白いブラウスの対比が印象的だ。しかし接見に訪れた弁護士は、発言を聞き流した。「きみは無罪だ。ぼくがついてる!」 鼻息の荒さに、少女は肩を落とした。「いいえ、私は有罪で...
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第45話:モテモテの代償

「おれをモテモテにしてくれる? なんで?」 トシオの質問に、黒服の男は汗をぬぐいながら答えた。「理由は、その、ご説明できませんが、はい、モテモテになります」 サングラスで男の目は見えないが、怖い印象はない。トシオは状況を整理した。 トシオは...
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第44話:夫婦の食卓

「ちょっと! あんた、味がわかってんの?」 ある日、晩飯を食べていたヒデは、嫁さんに注意された。突然だったので、なんに怒っているのかわからない。相づちを打ちつつ、直前の状況を思い出す。えぇと、晩飯を食べていたら「おいしい?」と聞かれて、「う...
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第43話:弔問客

「ご主人からお借りしていた本をお返しします……」 主人の先輩にあたる紳士は、袱紗に包まれた本を取り出した。 きょうは主人の告別式。厳格で、口うるさく、殺しても死ななそうだった人だったけど、突然の発作であっけなくこの世を去ってしまった。たくさ...
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第42話:ガードレール

「こらっ! 道を外れちゃ駄目じゃないか」 登山コースから外れた子どもを見つけた私は、列に戻るよう注意した。しかし最近の小学生は先生の言うことを素直に聞いてくれない。「立ち入り禁止じゃないのに、どうして行っちゃ駄目なの?」「そんな命令を出す権...
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第41話:最果ての戦場

「ちくしょう! 司令部はなにを考えてるんだ?」 レイジ少尉はゴミ箱をけっ飛ばした。おれは肩をすくめ、読書に集中しようとしたが、レイジの怒りは収まりそうにない。やむなく本を閉じて、話を聞いてやることにした。「聞いてくれ! 司令部は能ナシだ!」...