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第40話:愛し方、愛され方

「やっぱり別れよう」 ケイスケさんは突然、切り出した。結婚して半年。これからと言うときに信じられない。「やっぱり、ユリ姉さんのことが忘れられないのね」 目を伏せ、ふるふると首を振るケイスケさん。「そうじゃない。ユリは関係ない」「うそっ!」 ...
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第39話:予定があると安心する

「お客さんは、フランスの哲学者ジャン・ギトンをご存じですか?」 窓の外をぼんやり見ていた私に、運転手が話しかけてきた。本当に話し好きな運ちゃんだな。浮かない声で「知らない」と返事したが、運ちゃんは気にせず語りはじめた。「戦時中、ギトンは砲火...
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第38話:恋する心臓

「恋をしてるのは、あたしの心臓かもしれません」 なぜここで恋の相談を? と思ったけど、サトコの表情がこわばっていたので、話を聞くことにした。胸をぎゅっと押さえて、サトコは話しはじめた。 復学したサトコは、高校の美術教師を意識するようになった...
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第37話:ホトケの舌

「どうなさいました? 部長」 ミカに声をかけられ、我に返った。 打ち合わせがてら食事をするため、レストランにやってきた。そこでグラスに入った水を飲んでいたんだ。「なぁ、ここの水はうまいよな?」「え? あぁ、そうですね。 ちゃんと濾過してるみ...
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第36話:壁の向こう側

その国の端っこに、大きな"壁"があった。 壁の向こう側を見たものはいない。 より正確には、壁の向こう側を見たものは例外なく、こちらに戻ってこないのだ。だから壁の向こう側がどうなっているのか、誰も知らなかった。 国民の多くは、壁に興味を示さな...
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第35話:動機

「やっぱりキョウコが犯人ですよ!」 調査結果を見て、おれは断言した。 しかし警部は首をかしげている。納得できてないようだ。「うーん、動機がなぁ……」「明らかじゃないですか、すべて嫉妬ですよ」「嫉妬? なんで実の妹に嫉妬するんだ?」「自分より...
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第34話:同伴者

「あ、今のところ、右です」 ノリコに指摘されて、ハッとなる。 しかしもう遅い。車はそこそこのスピードで走っている。過ぎてしまった交差点を振り返る余裕はない。「いいや。このまま行くよ」 バイパスに入れなかったので、30分くらい遠回りになるけど...
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第33話:裸の女王様

『裸の王様』ってさ、どうしてハダカになっちゃったのかな? いくら王様がバカでも、いきなり透明な服は着ないと思うんだよね。つまり、いくつかの段階を踏んでから、ハダカになったと思うんだ。 はじまりは、ちょっと変な服だったと思う。 王様本人も「ち...
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第32話:恋の呪い

「どうしたらわかってもらえるんだ?」 ぼくは怒鳴った。こうなったらハルカにすべてを話すしかない。「ねぇ、ハルカ。 きみは、ぼくのことを好きだと思っているんだろ?」「えぇ、愛してるわ」「でもね、それは嘘なんだよ」「どうして私の気持ちが嘘になる...
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第31話:読書する力

「カズユキ、今こそおまえの協力が必要なんだ!」 革命志士であるおれは、カズユキの家で机を叩いた。しかしカズユキは動かず、本を読みつづけている。今日という今日は説得してやる。 おれとカズユキは幼なじみ──。 ふたりとも資産家の家に生まれたので...
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第30話:アラン・スミシー

「えぇと、アラン・スミシーをご存じですか?」 私が黙っていると、電話の向こうの担当者はていねいに説明してくれた。「アラン・スミシーは映画監督の名前です。 いくつかの映画のクレジットに、その名を見ることができますが、実在の人物ではありません。...
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第29話:ニートの王様

「おまえ、まだ働いてなかったのかッ!」強い口調で叱咤したのに、アユミはテレビから目を離さず、「んー」とだけ答えた。布団に横たわって、細い足をぶらぶらさせている。なんたる品のなさ。おれが兄でなかったら、幻滅して部屋を出て行くところだ。だがおれ...
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第28話:無言放送

「え? いま、なんておっしゃいました?」 ナミコに詰め寄られ、プロデューサーは汗をかきながら答えた。「き、きみのラジオ番組は今週で終了する。これは局の決定であって……」「そこじゃありませんッ! その前! 番組の聴衆率について」「あぁ、それか...
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第27話:舞踏会の手帖

「で、爺さんはこんな田舎まで、なにしに来たんだい?」 道を尋ねた青年とつい話し込んでしまったが、これもなにかの縁か。 バスが来るまであと1時間。 少し長くなるが、と前置きして私は昔話をはじめた。 私は今年で96歳になるが、若いころは宇宙飛行...
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第26話:浮気の代償

夫が浮気している。それは、信じられないことだった。 夫のシンスケは大学の助教授で、私は元・教え子。プロポーズされたときは、正直迷った。年齢差もあったし、シンスケはその……とても地味な男だったから、ミス・キャンパスでもある私とは不釣り合いだと...
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第25話:告知問題

「ちゃんと余命を告知すべきだよ」 おれの主張は、しかし親族全員に反対された。 親父の危篤を報されたおれは、実家に帰ってきた。救急措置が早かったので親父は一命を取り留めたものの、内臓のダメージはひどく、余命1ヶ月と宣告された。それで親族が集ま...
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第24話:ウサギとカメと

あの2人を見てると、人生について考えてしまう。 タカシとヤスオ──。 2人は同じ年の春にやってきて、同じ仕事に着任した。2人とも若く、背格好も似ていたので、最初は区別されなかった。しかし違いはすぐ明らかになった。 タカシは頭がよかった。 同...
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第23話:乙な関係

「あのスケベ親父、なんて言ったと思う?」 ナミコ社長は息巻いた。「ナミコくんは美人だからオトクだね〜、だって! ふざけんじゃないわよ! あたしの苦労も知らないで!」 だいぶ酔っているし、だいぶ不機嫌だ。 今夜も取引先と衝突したんだろう。いつ...
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第22話:私のヒーロー

「あの夜、ぼくはきみに姿を見せてしまった」 私は黙って、彼の話を聞いていた。「あれはクリスマスパーティーの帰りだった。きみは、酔った男にからまれていた。そこへぼくが割り込んだ。穏便に済ませたかったが、男がきみを侮辱したので、ぼくはカッとなっ...
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第21話:ファインダー越しの愛

「ねぇ、聞かせてちょうだい。どうして離婚しちゃったの?」 意を決し、私はユカに訊ねた。ぶすっとしたまま、ユカは紅茶を飲んだ。私は黙って、ユカの言葉を待った。 ユカは学生時代からの友人。 とびっきりの美人で、10代のころから写真のモデルをやっ...
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第20話:無駄のない仕事

「この世に無駄なものなんてないんだよ」 と課長は言った。だけどぼくはどうしても納得できなかった。 課長とぼくは画期的な新製品を開発した。長年の地道な研究が、ようやく実を結んだんだ。ところが、ボンクラ部長のせいで販売できずにいた。 ボンクラ部...
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第19話:閉じこめられた2人

「私はイヤよ! こんなところで死ねない!」 リツコは叫んだ。叫ばずにはいられなかった。その声は地下道に反響して消えた。先を歩いているカズミは無視した。ずっと無視している。返事をしても、ますますリツコを怒らせるだけだとわかったからだ。 しかし...
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第18話:魔性

「どうしてママは、パパと結婚したの?」娘のリエが訊ねてきた。いつかは話さなければと思っていたけど、今がそのときかもしれない。洗濯物をたたむ手を止めて、私は娘と向き合った。「そのためには、ママの母さんの話をしないとね」「おばあちゃんのこと?」...
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第17話:とりこ

「カズオさんって、非常識なんです」 アユミはしずかに話しはじめた。 アユミはふつうのOLだった。そんな彼女がある日、道ばたでナンパされた。真っ赤な高級車から声をかけてきたのは、大富豪の御曹司・カズオだった。どこを気に入ったのか、カズオはアユ...
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第16話:わかってない

「兄貴! ちょっと聞いてくれよ」 といって弟のノブヒコが部屋に入ってきた。(コイツはまったくわかってない……) 兄とはいえ、他人の部屋に入るときはまずノックしろと、何度言えばわかるのか。 で、なんの話かというと、失恋したらしい。 結婚を前提...
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第15話:危険な行為

「あなた! どうしたの?」 家に帰ってきた主人の背広は破れ、顔には青アザができていた。「いや、ちょっとね……」 心配させまいと、にっこり笑ってくれる。私は濡れタオルと救急箱をとってきて、傷の手当てをはじめた。出血はないし、頭を強打されたわけ...
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第14話:内助の功

雨上がりの駅前で、私はコウイチさんと再会した。 3年ぶりにみる彼は、まるで浮浪者のようにみすぼらしかった。薄汚れたコート、もさもさの髪、落ちくぼんだ目。でも、目だけはちがう。優しかったころのコウイチさんの目だった。「メグミ。お、おれは……」...
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第13話:最高の死

(死んだ。死んでしまった……) 心臓が止まった亡骸から、霊魂が浮かび上がっていく。家族や友人たちが泣いている。私は愛されていた。(苦痛もなかったし、死後の手配は済んでいる。まぁ、上出来な死に方だったかもしれない。) 目をつむると、周囲の存在...
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第12話:滅私奉公

ノックの音がして、次の患者が入ってきた。 気の弱そうな男だ。資料には34歳とあるが、50歳くらい見える。目は落ちくぼみ、肌に生気がない。係員にうながされて、彼は対面に座った。「トシアキさん、ですね?」「は、はい」 見てて痛くなるほど、肩に力...
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第11話:隠し味

「本当のことを言って、シンイチさん。おねがいだから……」 うるんだ瞳で、カズネは詰め寄ってきた。腕をつかむ指に、ぎゅーっと力がこもる。カズネは疑っている。ぼくがハツネと……彼女の姉と浮気していると疑っている。 それは事実だった。 ぼくはハツ...