第25話:告知問題

第25話:告知問題 ショートショート
第25話:告知問題
この記事は約2分で読めます。

「ちゃんと余命を告知すべきだよ」
 おれの主張は、しかし親族全員に反対された。
 親父の危篤を報されたおれは、実家に帰ってきた。救急措置が早かったので親父は一命を取り留めたものの、内臓のダメージはひどく、余命1ヶ月と宣告された。それで親族が集まって会議がはじまった。
 つまり、なにも知らない親父に告知するかどうかだ。
「ヒロシ! あんたはお父さんの気持ちを考えないの!」
 お袋は叫んだ。兄弟も親戚も同意見らしい。
「親父のことを本当に考えるなら、事実を伝えた方がいい」
 会議は長引いた。


 会議を中座して、おれは台所で麦茶を飲んだ。
 ぼんやり天井を見ていると、叔父さんが声をかけてきた。
「ヒロシ、こっそり兄貴に伝えるのは駄目だぞ」
 叔父さんはおれの考えを見抜いていた。
「どうしてさ?
 おれが勝手に話せば、誰の負担にもならないだろ?」
 叔父さんも麦茶を飲んでから答えた。
「駄目だ。
 義姉さんがヒロシを恨むことになる。なんで勝手に伝えたんだと。
 告知ってのは死にゆく本人の問題じゃない。
 それを見送る家族の問題なんだ」
 おれは言葉につまった。
「それに、兄貴は自分の死を受け入れられないだろう。
 まだ若いし、やり残したこともある。
 余命1ヶ月と告知されたら、大騒動になるぞ。
 もう手の施しようがないのに、高額な治療を要求されたらどうする?
 アレをやりたい、コレを喰いたいと無茶を言い出したら?
 告知しなければ、そうしたトラブルは避けられるんだ」
 残酷だけど、たしかに真理を含んでいた。
 おれは親族の決定を受け入れた。
 親父はなにも知らないまま、死んでいくだろう。
 しかしそれが、親父のためでもあるのだ。


 ひと段落ついたので、おれは職場に戻ってきた。
 自分の机に座って、1枚の天体写真をながめる。真っ黒な星空に小さな点が浮かんでいた。
 それは1ヶ月後、地球に衝突して、人類を滅亡させる小惑星だった──。
 おれは宇宙観測センターの所長だが、この事実を公表する義務はない。
 公表したところで、もう手の施しようがない。
 それにセンターの望遠鏡でも見えるのだから、もう世界中で観測されているはず。にもかかわらずニュースが流れていないのは……つまり、そういうことだ。
 おれも告知は控えておこう。
 それが人類のためでもあるのだ。

(922文字)
今回はオーソドックスなSF。これで連続6話目だけど、どうなもんですかね。なんか一人芝居している気分になってきた。

タイトルとURLをコピーしました