第28話:無言放送

第28話:無言放送 ショートショート
第28話:無言放送
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「え? いま、なんておっしゃいました?」

 ナミコに詰め寄られ、プロデューサーは汗をかきながら答えた。
「き、きみのラジオ番組は今週で終了する。これは局の決定であって……」
「そこじゃありませんッ! その前! 番組の聴衆率について」
「あぁ、それか。
 地方の深夜枠だし、ナミコくんが悪いわけじゃない。ぼくも確認したけど、たしかに0だった。
 つまり……きみの番組を受信している人はいないんだ」
 パーソナリティを務めてきたナミコは、彫像のように硬直した。


 誰も聞いてなかった──。
 番組が終了することより、そっちの方がショックだった。
(だったら私の2年間はなんだったの?)
 この番組が好きだった。
 スタッフ含めて3人でやってる番組だけど、自分も企画して、取材して、勉強して、練習して、一生懸命にやってきた。自分でも感動するほど出来がよかった回もある。ナミコにとっては宝石箱のような番組なのに、それが誰の耳にも届いていなかったなんて…。
 廊下のベンチに座ったナミコは、ぼんやり天井をながめていた。紙コップのコーヒーはすっかり冷たくなっている。もう飲みたくないけど、捨てるのもおっくうだった。
 ちらりと壁の時計に目をやる。もうすぐ最後の放送がはじまる。
(誰も聞いてないラジオ放送に、どんな意味があるの?
 泣いても笑っても、黙っていても同じことじゃない……)
 なんだか哲学的になってきた。
 ナミコは首を振って、まずいコーヒーを一気に飲み干した。立ち上がって、スタジオに向かう。
(ちゃんとした最終回にしよう!)
 少なくとも私は、私の番組を聞いているのだから。


「お疲れさまでしたぁ〜」
 打ち上げも終わって、ナミコは控え室をあとにした。当番なので、フロアを戸締まりしてまわる。
 そして、灯りの消えたスタジオへ。
 自分でもヤバイと思ったけど、やっぱり涙がこぼれてしまった。
「誰も聞いてなかったなんて……」
 声に出すと、いっそう悲しくなった。
 そのとき、コンコン、とノックの音が聞こえた。
 奥にあるロッカーからだった。
 開けてみたけど、空っぽだった。

(848文字)
ラジオで無声映画を上映する小話がヒントになってます。

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