2009

ショートショート

第73話:青雲の志

「先生! 今こそ起ち上がるときではありませんか!」 どえらい剣幕でヤマダ秘書が詰め寄ってきた。 いつも物静かな分だけ、激高するとおっかない。才能ある秘書なのだが、この青臭さはどうしようもない。「先生はおっしゃいました! この国を根本から変え...
ショートショート

第72話:彼女をコントロール

「やめて、今夜はそんな気分じゃないの」 そう言ってマリコはそっぽを向いた。毅然とした口調だが、おれは強引にベッドに押し倒す。「いや! よして!」 強い力で抵抗しても、しょせん女の細腕。組み伏せて、胸元から首筋をなぞると、熱い息が漏れる。「あ...
ショートショート

第71話:変質者の均衡

「かわいすぎる娘をもった父親の苦悩が、おまえにわかるか!」 おれはなにも言わず、ただうなずいた。ここで機嫌を損ねるわけにはいかない。 お父さんも話を聞いてもらいたかったらしく、ひと息にまくし立てた。「アリサはかわいい。本当にかわいい。 父親...
ショートショート

第70話:作品と作家は同一ではない

「ジロウさん、あたし、スタジオを辞めようと思うの」 ユミちゃんが突然ヘンなことを言うので、ぼくはコーヒーを噴いてしまった。 原稿をもっていたので、あわてて2人でコーヒーを拭き取る。間一髪セーフ。 なんだか気が抜けたので、休憩を入れよう。スタ...
ショートショート

第69話:名女優の素顔

「ねぇ、まだ私の素顔を見たい?」 意識を取り戻したチヨコさんは、唐突に切り出した。 枕元の夫のゲンゾウ氏も戸惑っていたが、ハッキリした声で答えた。「あぁ、見たいとも。そのために結婚したのだから!」 チヨコさんの手を、強く握りしめる。いのちを...
ショートショート

第68話:国産の癒しツール

『きみがこの手紙を読むころ、ぼくはこの世にいないだろう。 ぼくは政府の秘密を知ってしまった。そのことを、きみに伝えておきたい。 いや、きみは知っているはずだ。きみは真理省の長官であり、ムードオルガンの開発にも携わっていたのだから。 それでも...
夢日記

第31夜:滅指

友だち4人で、「メッシ」という双六をやることになった。 知らないゲームだが、友人は「やりながら覚えられる」という。それはいいけど、こいつら、誰だっけ? 向こうは私を知ってるみたいだから、ま、いっか。 初手が透明なサイコロを盤上に投げた。出た...
夢日記

第30夜:箪笥めぐり

あわい期待が無かったと言えば、ウソになる。 仕事に疲れた私は、遠く丹波の山にやってきた。 一里塚で足を休めていると、あとから来た男がとなりに腰掛けた。登山客ではない。東京から私を追いかけてきた新聞記者である。「絵が動かなくなったワケを教えて...
ショートショート

第67話:回帰日蝕

46年ぶりの皆既日食が明けた。 みるみる周囲が明るくなっていく。まるで天空の穴から、昼間が広がっていくみたい。夜明けとはちがう変化に、私は興奮した。この震えを、感動と呼ぶのかしら? 私たちは日食観測のため、太平洋上の船に"来て"いた。 小一...
ショートショート

第66話:殺人罪

「これはどうしたことだ!」  久しぶりに研究室を訪れた私は、驚きを隠せなかった。  アルジャーノンが、研究スタッフと談笑している!  もちろん、アルが言葉をしゃべっているわけではないが、そう見えてしまった。 「あ、教授。いらしたんですか」 ...
ショートショート

第65話:作品づくり

「くだらない仕事はやりたくない!」 タカユキはぷいっと顔をそむけ、ゲームを再開した。その幼稚な態度に、私はむっとした。「くだらない仕事かどうか、書類を見なさいよ!」 書類の束を突きつけるが、タカユキはゲーム画面から目を離さない。私も意地にな...
ショートショート

第64話:過去を捨てた女

「お母さん、なんで今ごろ?」 カスミの声は震えているが、強い非難が込められていた。無理もない。幼少時に自分を捨てた母親が突然、現れたのだ。恨み言もあるだろう。 私はカスミの親代わりとして、この再会を見届けなければ。「ごめんね、ごめんね」 母...
ショートショート

第63話:死んだ主人が日記を書いています

死んだ主人が日記を書いています。 もちろん主人でないことはわかっていますが、そう思えてなりません。 この気持ちを、どう整理すればいいでしょう? 主人の趣味は、ブログでした。 小学生のころから毎日欠かさず、どこへ行った、なにを見た、なにを食べ...
夢日記

第29夜:台風と犬小屋

風が強い。もうすぐ台風がやってくる。 家に帰る途中の坂道で、犬小屋を見かけた。 よく見ると、それは、わが家の飼い犬「ワン太郎」の小屋だった。(ま、まさか?) ワン太郎は、犬小屋の裏に隠れていた。地面を少し掘っているのは、風を避けるためだろう...
夢日記

第28夜:同情しないで

久々にダイナミックな夢を見た。 夢の中で《私》は、中世ヨーロッパのどこかの町にいた。大群衆が押し寄せた石畳の通りを、若い女が引きずられていく。忌まわしい《魔女》が処刑されるのだ。苛烈な拷問で狂ってしまったらしく、魔女はケタケタ笑いながら指を...
夢日記

第27夜:コン・バトラーV 対 ボルテスV

コン・バトラーVとボルテスVが戦う夢を見た。 夢の中で、私は「役」を与えられておらず、ただ成り行きを見守るだけだった。 ひょっとすると、テレビを見ていたのかもしれない。 ドラマは、コン・バトラーV側で展開した。 同時にボルテスV側でもドラマ...
夢日記

第26夜:縄文時代のバロック建築

遺跡を掘り当ててしまった。 山奥で大学校舎を建てているときのこと。巨大な講堂(天主堂?)である。荘厳な造りはヨーロッパを彷彿させるが、古代日本人の手によるものと判明した。(これは世界遺産どころじゃない。歴史をひっくり返す大発見だ!) 私たち...