創作

ショートショート

第29話:ニートの王様

「おまえ、まだ働いてなかったのかッ!」強い口調で叱咤したのに、アユミはテレビから目を離さず、「んー」とだけ答えた。布団に横たわって、細い足をぶらぶらさせている。なんたる品のなさ。おれが兄でなかったら、幻滅して部屋を出て行くところだ。だがおれ...
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第28話:無言放送

「え? いま、なんておっしゃいました?」 ナミコに詰め寄られ、プロデューサーは汗をかきながら答えた。「き、きみのラジオ番組は今週で終了する。これは局の決定であって……」「そこじゃありませんッ! その前! 番組の聴衆率について」「あぁ、それか...
夢日記

第14夜:セカンドナース

気がつくと、オンナになっていた。 身体が軽くて、柔らかい! ウエストが細いぃ! ちゃんと内蔵が入っているのか心配になる。すらりと伸びた両足も、美少女フィギュアのように美しい。髪はさらさらロングヘア。鏡はないけど、そーとーな美女にちがいない。...
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第13夜:あざなえる縄のごとし

仕事を辞めて、大学受験することにした。 なにを今さらと思うだろうが、よく考えたことだ。受験に集中するため、私は会社を解散させた。一念発起。人生を再構築するのだ。 勉強していると、中学時代の友人・Mからメッセージが届いた。懐かしい! 何年ぶり...
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第12夜:サソリとアイスの当たり棒

1996年ごろの話。 私は毎週末、友人宅で遊んでいた。そこにはゲームセンターで知り合った十数名の友だちが集まっていた。金曜夜、閉店までゲームセンターで戦って、そのあと友人宅に移動、そのまま日曜日まで遊びほうけるのだ。 とにかく人数が多いので...
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第11夜:蜘蛛の糸

気がつくと、天空のハシゴに引っかかってた。 風がびゅーびゅー吹いてて、夕陽がまぶしい。 眼下には大海原が広がっている。かなり高い。飛行機の窓から見下ろすような高さだ。ハシゴが海に届いてるんだろうか。 上空には巨大な円盤が浮かんでいる。これま...
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第27話:舞踏会の手帖

「で、爺さんはこんな田舎まで、なにしに来たんだい?」 道を尋ねた青年とつい話し込んでしまったが、これもなにかの縁か。 バスが来るまであと1時間。 少し長くなるが、と前置きして私は昔話をはじめた。 私は今年で96歳になるが、若いころは宇宙飛行...
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第26話:浮気の代償

夫が浮気している。それは、信じられないことだった。 夫のシンスケは大学の助教授で、私は元・教え子。プロポーズされたときは、正直迷った。年齢差もあったし、シンスケはその……とても地味な男だったから、ミス・キャンパスでもある私とは不釣り合いだと...
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第25話:告知問題

「ちゃんと余命を告知すべきだよ」 おれの主張は、しかし親族全員に反対された。 親父の危篤を報されたおれは、実家に帰ってきた。救急措置が早かったので親父は一命を取り留めたものの、内臓のダメージはひどく、余命1ヶ月と宣告された。それで親族が集ま...
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第24話:ウサギとカメと

あの2人を見てると、人生について考えてしまう。 タカシとヤスオ──。 2人は同じ年の春にやってきて、同じ仕事に着任した。2人とも若く、背格好も似ていたので、最初は区別されなかった。しかし違いはすぐ明らかになった。 タカシは頭がよかった。 同...
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第23話:乙な関係

「あのスケベ親父、なんて言ったと思う?」 ナミコ社長は息巻いた。「ナミコくんは美人だからオトクだね〜、だって! ふざけんじゃないわよ! あたしの苦労も知らないで!」 だいぶ酔っているし、だいぶ不機嫌だ。 今夜も取引先と衝突したんだろう。いつ...
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第22話:私のヒーロー

「あの夜、ぼくはきみに姿を見せてしまった」 私は黙って、彼の話を聞いていた。「あれはクリスマスパーティーの帰りだった。きみは、酔った男にからまれていた。そこへぼくが割り込んだ。穏便に済ませたかったが、男がきみを侮辱したので、ぼくはカッとなっ...
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第21話:ファインダー越しの愛

「ねぇ、聞かせてちょうだい。どうして離婚しちゃったの?」 意を決し、私はユカに訊ねた。ぶすっとしたまま、ユカは紅茶を飲んだ。私は黙って、ユカの言葉を待った。 ユカは学生時代からの友人。 とびっきりの美人で、10代のころから写真のモデルをやっ...
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第20話:無駄のない仕事

「この世に無駄なものなんてないんだよ」 と課長は言った。だけどぼくはどうしても納得できなかった。 課長とぼくは画期的な新製品を開発した。長年の地道な研究が、ようやく実を結んだんだ。ところが、ボンクラ部長のせいで販売できずにいた。 ボンクラ部...
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第10夜:宴の終わり

「さて、そろそろ帰りましょうか」 彼女はそう言って、席を立つ。そうだねと返事をして、私も店を出た。 てくてく歩く。 これといった話題も思いつかないので、無言のまま歩く。もうすぐ駅だ。駅に着いたらオワカレ。宴(うたげ)が終わる。(もう少し話を...
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第09夜:明晰夢の悪夢

夢と自覚できる夢を、明晰夢(メイセキむ:Lucid Dream)と呼ぶ。または自覚夢、覚醒夢。明晰夢の内容は、みている本人がある程度コントロールできる。自分が思い描くことを体験したり、悪夢を回避できる。明晰夢は特殊な才能ではなく、訓練次第で...
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第08夜:長電話する夢

「ご無沙汰です。最近、どうですか?」 昔の仕事仲間から電話がかかってきた。この声を聞くのは何年ぶりだろう? 20世紀から電話がかかってきたようなもんだ。なつかしい。積もる話がいっぱいある。「あれから、いろんなことがあったよ。○×さん、覚えて...
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第07夜:タイムスキップ

数年ぶりに再会した友人は、驚くほど老けていた。 「老けた」という形容では足りない。モジャモジャに伸びた髪とヒゲは浮浪者のようだし、落ちくぼんだ眼窩やシワの深さは末期の病人を彷彿させた。彼はまさに老人になっていた。人は……たった数年でこれほど...
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第06夜:親父が見た夢

親父から聞いた話。 ある日、親父は地方に出張していた。取引先との打ち合わせが終わり、同僚と旅館に泊まることになった。そこで親父は、夢を見た。 夢の中で親父は、露天風呂につかっていた。すると、野生のクマが湯船に入ってきた。びっくりした親父は、...
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第05夜:最後の1本

寝ていると、足がツった。 強烈だった。ビキビキと足の健が引きつる。しかも4本ある足のうち、3本までツってしまった。痛くて、とても寝ていられない。 悶え苦しんでいると、足元に誰かが立っていた。うちの妻だった。真っ白なネグリジェを着て、手になに...
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第04夜:顔色吐息

ゾンビになる病気が蔓延した。 ゾンビになると顔色が悪くなる。「あー、コイツ、死んでるよ」と一発でわかるほどだ。ところが当の本人は気づかない。自分だけじゃなく、ほかのゾンビ(の顔色)もわからないようだ。 この病気(?)にどう対応するかで、政府...
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第03夜:進路相談

進路指導室に行くと、海原雄山が座っていた。 「弟子にするから、卒業したら美食倶楽部に入れ」と言う。 とても素晴らしい話だと、先生は大喜びだ。なんだか気にくわない。「弟子になったら、師匠を越えられないじゃないか。 私は自分の店を出す。私の美食...
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第19話:閉じこめられた2人

「私はイヤよ! こんなところで死ねない!」 リツコは叫んだ。叫ばずにはいられなかった。その声は地下道に反響して消えた。先を歩いているカズミは無視した。ずっと無視している。返事をしても、ますますリツコを怒らせるだけだとわかったからだ。 しかし...
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第18話:魔性

「どうしてママは、パパと結婚したの?」娘のリエが訊ねてきた。いつかは話さなければと思っていたけど、今がそのときかもしれない。洗濯物をたたむ手を止めて、私は娘と向き合った。「そのためには、ママの母さんの話をしないとね」「おばあちゃんのこと?」...
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第17話:とりこ

「カズオさんって、非常識なんです」 アユミはしずかに話しはじめた。 アユミはふつうのOLだった。そんな彼女がある日、道ばたでナンパされた。真っ赤な高級車から声をかけてきたのは、大富豪の御曹司・カズオだった。どこを気に入ったのか、カズオはアユ...
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第16話:わかってない

「兄貴! ちょっと聞いてくれよ」 といって弟のノブヒコが部屋に入ってきた。(コイツはまったくわかってない……) 兄とはいえ、他人の部屋に入るときはまずノックしろと、何度言えばわかるのか。 で、なんの話かというと、失恋したらしい。 結婚を前提...
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第15話:危険な行為

「あなた! どうしたの?」 家に帰ってきた主人の背広は破れ、顔には青アザができていた。「いや、ちょっとね……」 心配させまいと、にっこり笑ってくれる。私は濡れタオルと救急箱をとってきて、傷の手当てをはじめた。出血はないし、頭を強打されたわけ...
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第14話:内助の功

雨上がりの駅前で、私はコウイチさんと再会した。 3年ぶりにみる彼は、まるで浮浪者のようにみすぼらしかった。薄汚れたコート、もさもさの髪、落ちくぼんだ目。でも、目だけはちがう。優しかったころのコウイチさんの目だった。「メグミ。お、おれは……」...
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第13話:最高の死

(死んだ。死んでしまった……) 心臓が止まった亡骸から、霊魂が浮かび上がっていく。家族や友人たちが泣いている。私は愛されていた。(苦痛もなかったし、死後の手配は済んでいる。まぁ、上出来な死に方だったかもしれない。) 目をつむると、周囲の存在...
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第12話:滅私奉公

ノックの音がして、次の患者が入ってきた。 気の弱そうな男だ。資料には34歳とあるが、50歳くらい見える。目は落ちくぼみ、肌に生気がない。係員にうながされて、彼は対面に座った。「トシアキさん、ですね?」「は、はい」 見てて痛くなるほど、肩に力...