2008

夢日記

第25夜:単騎血戦

最近、昼夜が逆転している。 何日も泊まり込みで作業してるから、昼も夜もないんだけど、やっぱり作業効率が悪くなった。大量のファイルを片っ端から書き換えたのに、すべて終わったところでミスに気づいてやり直しとか、もう馬鹿すぎる。 どうせ数日は帰れ...
ショートショート

第62話:蜜の流れる地

「わわっ、なにこれ? すごい!」 なんという甘さ、スーッと溶ける爽やかさ! 爺ちゃんが取り出したハチミツは、たとえるもののない天上の甘露だった。「どうだ、ケイイチ。うまかろう? 下界の連中には内緒だぞ」 "下界"という言葉に戸惑うが、秘密に...
ショートショート

第61話:歴史に残る仕事

「ぼくはこの仕事に向いてないのかもしれません」 昼休み、弁当を食べ終えたタケルは深いため息をつき、遠くを見据えた。 いつもの陽気さは影もない。よくない兆候だった。「なにか悩みでもあるのか?」 私はお茶を飲みながら、話を聞くことにした。 タケ...
ショートショート

第60話:部屋とセーラー服と私

「これって、セーラー服?」 つきあって4年になる彼氏の部屋で、セーラー服を見つけてしまった。 ベッド下の紙袋に入っていた。 きょろきょろ周囲を見渡す。 タクヤは買い物に行ったばかりだから、あと15分は戻ってこない。 窓を閉めて、カーテンをひ...
ショートショート

第59話:本気のしるし

「先生、私、初めてじゃないよ」 放課後の教室で、ミユキはぼくの机に腰掛けた。書類が床に落ちる。「なにが、だだれと、どうして?」 感情が逆流して、うまくしゃべれない。 耳元で少女が囁く。「キスしてくれたら、教えてあげる」 少女は目をつむり、う...
夢日記

第24夜:爆弾劇場

《お配りした指輪は、1分に1個ずつ爆発します》 黒いスクリーンに白い字幕。手書きのような字幕フォント。(どういう意味だろう・・・?) 観客席で私は、次の変化を待った。《現在、全世界に指輪をはめた観客が150万人います》 指を見ると、金色の指...
ショートショート

第58話:吾輩は犬である

吾輩は犬である。 名前はあるかもしれないが、とんと見当がつかぬ。 ご主人様との関係は、おおむね良好。 そう思うのは、散歩の回数が多いからだ。昨年あたりから回数が増えた。ほぼ毎晩である。夜の散歩は味気ないが、鎖につながれた日中を思えばありがた...
ショートショート

第57話:保証された権利

「いつ、だれと結婚するかは、あたしが決めることでしょ!」 怒鳴られて母さんはしょんぼりした。 言いすぎたかもしれないけど、押し切るしかない。 私は絶対にヨシユキと結婚する。「だってリカ。母さんの話を聞きなさい」「聞いてどうするの? もう決め...
ショートショート

第56話:賢い選択

「おまえ、ダイエット中だったのか。そりゃ、悪いなぁ」 高校時代の友人・シゲルは、がははと笑ってジョッキを飲み干した。(ちくしょう、うまそうに飲み喰いしやがって!) メタボリックな私は半年前からダイエットしているが、ぜんぜん成果が出ない。だか...
夢日記

第23夜:タバコを吸う夢

「あたしにも一本、ちょうだい」 私は胸ポケットからタバコを取り出して、差し向けた。細い指がタバコを挟み、火を点ける。ふぅーと紫煙がたなびく。(美人なのに、タバコを吸うなんて残念だな) ふと、自分もタバコを吸っていることに気がついた。 いつ、...
ショートショート

第55話:スタンドアローン

「目が覚めたかい?」 ぼくは、ボクに声をかけた。 ボクは身体を起こして、機械の頭を振る。「ここは宇宙船?」「ぼくの棺桶になるところさ」 機械のボクは、生身のぼくを見て驚いた。「あれ? ぼくが生きてる。どうなってんの?」「説明するよ」 97時...
ショートショート

第54話:ブラック・ウィドー

「ついにブラック・ウィドーを妻に娶ることができた」 きょう、80歳の誕生日を迎えるカツシゲ翁は、微笑みながらグラスを掲げた。「いやだわ、そんな言い方されては」 きょう、結婚したばかりの若い妻ヒトミも、グラスを手に取り乾杯する。 海辺に佇む広...
ショートショート

第53話:アーバンライフ

「あれ? 母さん、どうしたの?」 アパートに帰ると、ドアの前に母さんが立っていた。「なに言ってんの、ミホ。今日、泊まりに来るって言っておいたでしょ」 ヤバ、すっかり忘れてた。 田舎の母が恩師に会うため、上京してくるんだった。 私は母さんに謝...
ショートショート

第52話:呪われた会社

「ユミちゃん、この会社はヤバイよ!」 幼なじみのシロウは、青ざめた顔で訴えた。 霊感の強い人だから、なにか言うとは思っていたけど、こんなに真剣だとシャレにならない。 ここは私が勤める証券会社。ヘッドハンティングされて3年になるかしら。 最初...
ショートショート

第51話:モリアーティ

「今回も解決できましたね、教授!」 ジェーンの賞賛に、教授は不機嫌そうにそっぽ向いた。「ふん」と鼻を鳴らすが下品さはない。すねても英国紳士だった。「個別の事件を解決しても意味ないね。背後の大悪党を捕らえないと」「でも、教授がいなければ数百人...
ショートショート

第50話:シャーロック

「ホームズさんが死んだって、本当ですか?」 真っ青な顔で叫ぶレストレード警部に、ワトソンは静かにうなずいた。「ライヘンバッハの滝で、モリアーティ教授もろとも滝壺に転落しました」「ど、どうなってるんです?」 ワトソンはこれまでの経緯を話した。...
ショートショート

第49話:アレルギー×アレルギー

「えぇ! 自宅で海老を食べてるのー?」 トモミの告白に、素っ頓狂な声をあげてしまった。居酒屋の注目が集まる。「チーちゃん、声が大きい」 私たちは身体をかがめ、小声で話すことにした。女2人で内緒話をしているみたい。 トモミは職場の後輩で、とて...
ショートショート

第48話:あらしのよるに流されて

「男と女の友情は成立するのかしら?」  サヨコの質問に、ぼくは唾を飲み込んだ。 (どうして、いま、そんなことを訊くんだろう?)  ぼくの答えを待たず、サヨコは言葉をつないだ。 「私は無理だと思う。男と女が友だちでいられるのは、欲情してないと...
ショートショート

第47話:無礼講の罠

「今夜は遠慮なく意見を聞きたい。無礼講で話し合おう!」 合宿初日の夜、全従業員を集めたホールで、社長が宣言した。 だが、その言葉を信じる従業員はいない。なにを言おうと変わらないものは変わらないし、変わるものはいずれ変わる。あえて冒険する必要...
ショートショート

第46話:悪魔の弁護

「私、悪魔なんです」 少女は抑揚のない声でつぶやいた。 つややかな黒髪と、白いブラウスの対比が印象的だ。しかし接見に訪れた弁護士は、発言を聞き流した。「きみは無罪だ。ぼくがついてる!」 鼻息の荒さに、少女は肩を落とした。「いいえ、私は有罪で...
夢日記

第22夜:汗をかく死体

気がつくと、地下室に閉じ込められていた。 壁も床も鋼鉄製で、無骨なリベットが打ち込まれている。頑丈なコンテナのようだ。 壁の向こうから、膨大な質量が伝わってくる。鋼鉄製の壁や天井は、地中の圧力からこの空間を守っているのか。(ここはどこだ? ...
ショートショート

第45話:モテモテの代償

「おれをモテモテにしてくれる? なんで?」 トシオの質問に、黒服の男は汗をぬぐいながら答えた。「理由は、その、ご説明できませんが、はい、モテモテになります」 サングラスで男の目は見えないが、怖い印象はない。トシオは状況を整理した。 トシオは...
夢日記

第21夜:味のない人生

夢の中で、私は小学校の先生になっていた。 受け持ちのクラスに、味覚のない少女がいる。外見に変わったところはないし、成績も言動もふつう。しかし集団の中では目を引く存在だった。私の先入観のせいかもしれない。 なぜ味覚がないのか? 理事長の話によ...
夢日記

第20夜:なつかしエール

久しぶりにぐっすり眠れて、目覚めのいい朝だった。 背広に着替えて、会社に向かう。すると駅で昔の友人Mに出会った。「数年ぶり? いや十数年ぶり?」 さいわい向こうも私を覚えていたので、駅のホームで立ち話をする。 気がつくと足下の鞄がない。盗ま...
ショートショート

第44話:夫婦の食卓

「ちょっと! あんた、味がわかってんの?」 ある日、晩飯を食べていたヒデは、嫁さんに注意された。突然だったので、なんに怒っているのかわからない。相づちを打ちつつ、直前の状況を思い出す。えぇと、晩飯を食べていたら「おいしい?」と聞かれて、「う...
ショートショート

第43話:弔問客

「ご主人からお借りしていた本をお返しします……」 主人の先輩にあたる紳士は、袱紗に包まれた本を取り出した。 きょうは主人の告別式。厳格で、口うるさく、殺しても死ななそうだった人だったけど、突然の発作であっけなくこの世を去ってしまった。たくさ...
ショートショート

第42話:ガードレール

「こらっ! 道を外れちゃ駄目じゃないか」 登山コースから外れた子どもを見つけた私は、列に戻るよう注意した。しかし最近の小学生は先生の言うことを素直に聞いてくれない。「立ち入り禁止じゃないのに、どうして行っちゃ駄目なの?」「そんな命令を出す権...
ショートショート

第41話:最果ての戦場

「ちくしょう! 司令部はなにを考えてるんだ?」 レイジ少尉はゴミ箱をけっ飛ばした。おれは肩をすくめ、読書に集中しようとしたが、レイジの怒りは収まりそうにない。やむなく本を閉じて、話を聞いてやることにした。「聞いてくれ! 司令部は能ナシだ!」...
ショートショート

第40話:愛し方、愛され方

「やっぱり別れよう」 ケイスケさんは突然、切り出した。結婚して半年。これからと言うときに信じられない。「やっぱり、ユリ姉さんのことが忘れられないのね」 目を伏せ、ふるふると首を振るケイスケさん。「そうじゃない。ユリは関係ない」「うそっ!」 ...
ショートショート

第39話:予定があると安心する

「お客さんは、フランスの哲学者ジャン・ギトンをご存じですか?」 窓の外をぼんやり見ていた私に、運転手が話しかけてきた。本当に話し好きな運ちゃんだな。浮かない声で「知らない」と返事したが、運ちゃんは気にせず語りはじめた。「戦時中、ギトンは砲火...