[妄想] 仄暗い水の底から / 怪異と母親を逆転させる

[妄想] 仄暗い水の底から 妄想リメイク
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『仄暗い水の底から』は、いいホラー映画だった。怪奇現象より、だれにも頼れず追い込まれていく母親の境遇がこわかった。細身でふんばる母親を、黒木瞳が好演している。私が知るかぎり、黒木瞳のベストフィルムではなかろうか。
しかしラストは釈然としない。貯水タンクの疑惑はあいまいで、水量攻撃は唐突。母親の決断も受け入れがたい。10年後のエピローグは蛇足に思える。母親も、娘も、そして幽霊さえ救われてない。

そこで、ラストを再構築してみることにした。

ストーリー

引っ越し、たよれる人がいない母と娘

松原淑美(よしみ)は離婚調停中。5歳になる娘・郁子(いくこ)の親権を勝ち取るため、仕事と住まいを早急に見つけなければならない。転がり込んだ団地は安普請が目立つ。ひどい雨漏り、階上の足音、まずい水道水、広がる天井のシミ……。そして、なにかが居る気配。

淑美:あと少しの辛抱だから。ね。
郁子:うん。

支え合う母と娘。ふたりとも雨に震えていた。

母の消耗、娘の奇行

仕事と家事の両立は困難を極めた。管理人は雨漏りを修繕してくれない。就職先の扱いは劣悪。保育園の先生も高圧的。さらに夫が弁護士を立て、争う姿勢を示してきた。淑美に精神疾患の病歴があることを強調し、揺さぶりをかける。淑美はさらに消耗した。

郁子の世話が行き届かなくなる。郁子は「大丈夫」と言ってくれるが、淑美はつらい。淑美は母親の愛情を受けずに育ったため、よい母親になりたいと願っていた。どんなことがあっても、娘を守らなければ。

そんな中、郁子の奇行が目立ちはじめる。どこかで拾ってきた赤いバッグに固執したり、姿の見えない友だちと会話したり・・・。孤独をまぎらわすため、ごっこ遊びをしているのか?

行方不明の少女、自殺した母親

淑美は郁子の保育園で、園児が行方不明になっていたことを知る。行方不明者を探すチラシ。そこに映る少女は赤いバッグを持ち、屋上で見かけた人影に似ていた。

淑美:このチラシの女の子は?
保育士:河合美津子ちゃんね。2年前、家に帰ってこなくなったんです。母親がこうして町中にチラシを貼ったんだけど、結局、見つからなかった。
淑美:見つからなかったって、どういうことです?
保育士:事故にあったのか、誘拐されたのか。河合さんは身持ちがよくなくって。つまり、夜の商売をしてて、交際相手が連れ出した可能性もあったんです。興奮して、話もよくわからない。ところが3ヶ月後に、母親が自殺しましてね。
淑美:自殺?
保育士:自室で首を吊ったそうです。
淑美:このチラシの連絡先は?
保育士:河合さんの住所ですね。

それは、淑美が住む部屋の直上だった。今は無人なのに、なぜ足音がするのか? 写真に写っている赤いバッグ。行方不明だった美津子ちゃんが、帰ってきているのか?

幽霊が娘に干渉している

淑美は意を決し、元・河合家のドアを開けた。そこは荒廃して、水道の水があふれていた。これが雨漏りの原因か。部屋の奥に美津子ちゃんがいた・・・ような気がした。

こんなところで、子どもがひとりで生活できるはずがない。そう、美津子ちゃんは死んでいる。つまり幽霊が、郁子を連れ去ろうとしている。

「なにが望みなの? 郁子に関わらないで!」

淑美は訴えるが、応える声はない。たまらず逃げ出した。

好転

淑美は引っ越しを決意する。離婚調停に悪影響が出るからと、弁護士が引き止める。団地の管理人と不動産屋を呼び出し、部屋の修繕を指示する。貯水タンクも近似中に点検・清掃することになった。天井が張り替えられると、部屋が明るくなった。

弁護士:消耗すると、ないものが見えたりします。落ち着いて対処すれば乗り越えられます。なにかあっても、決してひとりで行動しないで。私に連絡してください。
淑美:ありがとうございます。

暗転

郁美は職場で大失態をやらかす。消沈していると夫と出くわす。
夫:これで親権はおれのものだな。
嘲笑う夫。そうだったのか。すべて夫が細工したこと。郁子を取り上げるために。過去の精神疾患も注目され、育児能力なしと判定される。もう、おしまいだ。眼の前が暗くなった。

気がつくとひとり。
絶望のあまり気絶していたようだ。

帰らないと。

夜逃げ、屋上の異変

淑美は夜逃げすると決めた。郁子を失ったら生きていられない。いやがる郁子を、淑美は叩いてしまう。愕然となり、抱きしめて何度も何度も詫びる。
郁子の腕に傷があった。よく見ると肩や背中にも。郁子は「知らない」と首を振るばかり。そして「お母さん、ここにいよう」と繰り返す。

美津子ちゃんの幽霊の仕業だ。もうここには居られない。

荷物をまとめたが、郁子の姿が見えない。まさかと思いエレベータで屋上へ。郁子は、貯水タンクに入ろうとしていた。駆け上り、しっかり抱きしめる。高所と強風でめまいを起こす。気が遠くなる。だれかの声がする。

弁護士が叫んでいる。なにを言ってるか聞こえない。弁護士のかたわらに郁子がいる。どうして郁子がそこに? それじゃ抱きしめているのは・・・

美津子の遺体だった。

(暗転)

エピローグ|翌朝

警察署で、弁護士と刑事が話している。

弁護士:死体が見つかったんですか。
刑事:えぇ。美津子ちゃんの遺体は、貯水タンクの底に沈んでいました。業者が点検を怠っていたんです。正しくは、タンクを交換したくない不動産屋の依頼で、検査を偽装していた。だから、見つからなかった・・・
弁護士:ひどい話だ。それで死因は?
刑事:わかりませんが、殺害の可能性が高い。タンクの内側に傷はなかった。落っこちたとは考えにくい。母親は美津子ちゃんを虐待し、殺してしまった。その死体をタンクに投げ込んだ。首を吊ったのは、罪の意識でしょうな。
弁護士:むごい。

夫が顔を見せた。怪我した腕を吊っている。弁護士と刑事に会釈すると、郁子を連れて去っていった。これまでと雰囲気が違う。郁子もいやがっていない。

刑事:奥さんに刺された傷、大丈夫そうですな。
弁護士:ええ。
刑事:離婚調停はどうなったんです?
弁護士:この事件の前に決着しました。郁子ちゃんは父親が引き取ります。心神耗弱の淑美さんは、とても育児ができる状態じゃなかった。

真相

あの日、淑美は夫を刺していた。怪我した夫が逃げると、淑美はその場に倒れた。目覚めると、直前の行動を覚えていなかった。

淑美は逆上すると、理性を失って暴れる気質があった。それが離婚の原因であり、また夫が娘の親権にこだわる理由だった。夫は、淑美と郁子を心配していた。淑美には、そう見えていなかった。

淑美は郁子を虐待していた。身体の傷は、淑美が殴ったもの。郁子はいい子になろうと振る舞っていたが、内心は怯えていた。淑美は郁子の笑顔だけを見て、怯えを幽霊のせいにした。部屋で起こった霊障も、淑美が暴れた結果だったかもしれない。

淑美の最後

警察の質問に答えながら、弁護士はあの夜を振り返る。

弁護士:あの日、団地を訪ねると、郁子ちゃんが下に降りてきました。
どうしてもコンビニで買いたいものがあると言われて、やむなく行きました。30分ほどで団地に戻ると、取り乱した淑美さんがエレベータで屋上へ。何事かと登ってみたら・・・

刑事:淑美さんが、屋上から身を投げたと。

弁護士:はい。ただ・・・
刑事:ただ?
弁護士:ぼくは見てしまった。たぶん郁子ちゃんも見たはず。見たのに、なにも答えようとしない。郁子ちゃんはずっと以前から見えていた。考えたくないけど、示し合わせたのかもしれない。だからぼくを、団地から遠ざけたのか。

刑事:なんの話です? なにが見えたんです?
弁護士:淑美さんは子どもを抱きかかえていました。
美津子ちゃんです。
淑美さんは、美津子ちゃんといっしょに落ちたんです。
でも見つかったのは淑美さんの死体だけ。
1人で飛び降りたように見えますが、ちがうんです。

刑事:つまり幽霊に、殺されたと?
弁護士:いえ。

美津子ちゃんの霊が、郁子ちゃんを守ったんです。

《おわり》

あとがき

危険な母親から、幽霊が娘を守っていた。というヒネリを加えればおもしろくなる、と思ったけど、書き出してみるとしっくり来ない。してみるとオリジナルの「母親の自己犠牲」「純真な娘」「傲慢な夫」は、わかりやすかった。ホラー映画にヒネリはいらないか。

でも自分がすっきりしたので、よしとしよう。

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