アニメ映画『いばらの王 -King of Thorn-』は、出だしはめちゃくちゃ興奮したが、中盤以降は失速してしまった。腑に落ちないから、自分なりに再構築してみる。基本ラインはオリジナル(映画)に準じるので、人物描写やアクションは省略している。映画の映像を思い出しながら、それを補完するように読んでもらえるとさいわいだ。
ストーリー
カプセルで目覚める
「私の分まで生きて… カスミ…」
暗闇に声が響く。空中に浮かぶもう1人の自分。双子の姉、シズクだ。
(どうして泣いてるの? 私、またなにか悪いことをした? ねぇ、シズク……)
手を伸ばすと、指がガラスに当たった。シズクに見えたのは、カプセルに映った自分自身だった。
ふたが開いたので半身を起こす。ここはどこ? CSCCの文字。これはそう、コールドスリープカプセルセンター。
(そうか、私、コールドスリープしたんだ)

回想:石化病の蔓延、終わる世界、CSCC
2012年、人類は謎の石化病《メドゥーサ=ACIS(後天性細胞硬化症候群)》によって、滅亡の危機に瀕していた。30~60日の潜伏期間を経て、発病すると12時間で死に至る。致死率は100%。病気の正体も、感染経路も、原理もわからない。人々はどんどん石になり、社会は麻痺していった。
そんな中、ヴィナスゲート社がコールドスリープによる解決を提案する。コールドスリープ中はメドゥーサの活動が止まるから、治療法が確立される未来に希望を託すことができると。コールドスリープ中に全人類が死に絶えたら治療法も確立されないが、感染者には他に選択肢がなかった。
ただし施設の収容限界は160人。

回想:シズクとカスミ
世界から160人の幸運な感染者が集められた。その中にカスミの姿があった。カスミは日本の女子高生。双子の姉シズクとそろってメドゥーサに感染した。両親は暴動で殺されている。このまま姉妹で死ぬのも悪くない。そう思っていたが、CSCCの抽選にカスミだけ選ばれてしまった。
カスミはシズクに付き添われ、CSCCにやってきた。社長の説明を聞き、検査を受け、最後の自由時間で外を歩く。海を見ながら歩く。
カスミ(妹):神さまは意地悪ね。私たちが双子と知ってて、ひとりしか選んでくれないんだから。
シズク(姉):私はラッキーだと思うよ。私たちは一卵性双生児だから、生物学的には同一人物。どっちにしろ私は生き残れる。
カスミ:そういうことじゃなくて。
シズク:あなたは生き残るのよ。絶対に。私は学者になる。私があなたを目覚めさせてあげる!
あれが最後の会話だった。

カプセルルーム:状況不明、怪物の襲来
カスミはメガネをかけ、カプセルから出ようとした。手に痛み。いばらのトゲ。見るとカプセルルームは、いばらに覆われていた。次々にカプセルが開いて、人々が起きはじめる。困惑が広がる。
「いま何年だ?」「治療法は見つかったの?」「世界はどうなった?」「なぜスタッフがいない?」「電話がつながらないぞ」「なにがどうなってる?」
奇怪なモンスターが出現、人々を襲いはじめた。阿鼻叫喚の地獄絵図。エレベーターに押し寄せるが、そこにもモンスターがいて、いっぺんに食い殺された。

連絡通路:推測
通路まで逃げ延びたのは7人。少女(カスミ)、囚人(マルコ)、警察官(ロン)、子ども(ティム)、看護婦(キャサリン)、技術者(ピーター)、上院議員(ペッチノ)。

警官:状況はわからないが、治療法が確立したわけではなさそうだ。CSCCは人工知能(ALICE)によって運営されている。人類が滅びても100年は大丈夫と言っていたが、いばらやモンスターを見るにもっと長い時間──千年か、一万年は経っているのかも。
囚人:待っていても救助は来ないだろう。自力で脱出しよう。
発電ブロック:ステージ2
移動中、ふたたびモンスターの襲撃を受けた。子どもがモンスターの性質や弱点──攻略法を教える。馬鹿馬鹿しいと思われたが、子どもの指示を無視した議員が殺された。警官は子どもに道案内をたのんだ。
子どもはモンスターだけでなく、脱出ルートも知っていた。ゲームのとおりだと言う。なぜかわからないが、今は従おう。ゲームはハッピーエンドらしいが、現実もそうなってくれるだろうか。
警備室:休息
警備室を見つけた6人は、傷を手当しながら休憩する。子どもと喧嘩する看護婦を見て、警官が指摘する。
警官:生き残ったのはトラウマ持ちばかりだな。
技術者:そのようです。カスミさんもそうでしょう?
カスミ:私? 私は・・・
カスミは、双子の姉を傷つけてしまった過去を明かす。あれ以来、シズクに恐縮してばかり。シズクはいつも笑ってくれたけど、ひょっとしたら、私を疎んでいたかもしれない。
看護婦:そんなことないよ。あんたは内向的に見えない。ちゃんと会話できてるじゃない。
囚人:そうさ!
励まされて赤面するカスミ。技術者がじっと見ている。
カスミ:(シズクにもトラウマがあったのかしら?)

武器・弾薬が手に入った。出発する前に警備カメラのモニターログを見ておこうと囚人。技術者がコンソールを操作。カプセルルームのモニターログもあったが、技術者が隠してしまった。一行はCSCC各所のモニターログを見る。日付を見ると、コールドスリープから24時間しか経っていなかった。
警官:1日? たった1日で施設がこれほど荒廃するはずがない!
囚人:とにかく見てみよう。
モニターログ
コールドスリープした直後、アメリカ軍が施設を強襲していた。職員も射殺されている。まるで戦争だ。その後、実験棟から大量のいばらとモンスターがあふれ出す。
警官:軍はモンスター出現を食い止めようとして、失敗したのか?
囚人:わからん。ただ、モンスター退治に適した装備、編成ではないな。
モンスターは、いま城を徘徊しているものとは形状・性質が異なる。燐光を放ち、銃弾が効かず、壁もすり抜ける。子どもが知るゲームにも出てこないタイプだ。
「まるで幽霊(ゴースト)だな」
「見ろ! 職員や兵士がゴーストに変化している」
「ゴーストに接触された人間もゴーストになるのか」
「目に見えるメドゥーサか」
「馬鹿な」
「いや、正鵠を射ていますよ。見てください。ゴーストにならず、物理的に襲われる人もいます。おそらく、メドゥーサの感染者は変化しないのでしょう」
「どういうことだ?」
「感染者は人間のままで、非感染者はモンスターに。正常と異常がひっくり返ったんだよ」
ゴーストは分裂・増殖し、光の矢となって世界中に散っていった。残ったゴーストは、やがてモンスターとなり、徘徊しはじめる。いばらが城を覆い尽くし、外界から閉ざされた。

以上が、彼らが眠っているあいだに起こった出来事だった。
警備室:驚愕
警官は「ありえない」と憤る。看護婦はメドゥーサ宇宙飛来説を引用し、滅びを受け入れる。子どもは脱出ルートを指さす。囚人は実験棟を見たいと言い出す。技術者は沈黙。カスミには意見がなかった。すべてシズクに決めてもらっていたから、なにをしていいのかわからない。死にたくないけど、生きたいとも思えない。
警官が、通路のモニターログに技術者が映っていることに気づく。
看護婦:あなた、ヴィナスゲートの職員だったのね!
警官:感染してないのか?
囚人:いや、感染してるだろう。
警官:職員なのに?
技術者:この地球上に、メドゥーサに対して安全な場所なんてありませんよ。
警官:なぜ患者のふりをしてる? おまえがおれたちを起こしたのか?
技術者:ぼくじゃない。ぼくはスパイと接触するため、カプセルルームに来たんだ。そしたらモンスターが出現して、大混乱になったから、トラブルを避けるため、患者の服に着替えたんだ。
警官:スパイ? なんだそれは?
技術者:それは…
警官:いえよ。
技術者はカスミを人質にとって、ハッチを閉じてしまった。分断された。カスミは抵抗したが、「お姉さんのことを話す」と耳打ちされ、したがった。カスミにとって、シズクの消息は最優先事項だった。警官、囚人、看護婦、子どもはカスミを助けるため、迂回路を探した。
データ室:告白
落ち着いたところで、技術者が告白する。

技術者:ぼくはCSCCの開発者だったんだ。職員はみな、人類の未来のために働いていた。でも会社の目的は逆だった。ヴィナスゲート社が、メドゥーサをまき散らしたんだ。
カスミ:どういうこと?
技術者:ぼくは偶然、会社の機密文書を見てしまった。それによるとメドゥーサは、8年前、社長直属の研究チームがロシアで採取したものだった。いいかい、メドゥーサは細菌でもウイルスでもない。宇宙から飛来した精神寄生体なんだ。メドゥーサには物理法則を書き換える性質がある。夢を現実に変える、と言った方がいいかもしれない。だがメドゥーサに意志はない。宇宙を漂うだけの存在だ。だけど人類との接触によって、メドゥーサは進化したんだ。
技術者:多くの場合、宿主はメドゥーサに堪えきれず、肉体を元素変換されてしまう。ところがごくまれにメドゥーサに同調できる人間がいる。社長はそれを、《適合者》と呼んでいた。最初の適合者は研究スタッフだったそうだよ。メドゥーサの影響は強く、ふつうの精神では堪えきれない。最初の適合者も発狂してしまった。そこで社長は第2の適合者を見つけるとともに、その精神を保護するシステムを開発した。それがCSCCなんだ。
カスミ:どういうことです? コールドスリープはうそなんですか?
技術者:コールドスリープは機能する。でも会社の目的は、世界中から適合者候補を集め、システムに接続することだ。
カスミはヴェガ社長の言葉を思い出した。
《ALICEは夢をも管理します!》
カスミと技術者の会話を、囚人も隠れて聞いていた。
技術者:機密を知ったぼくはアメリカ軍に通報。スパイを潜入させて、証拠をつかもうとした。だけど……なにかトラブルがあったようだ。アメリカ軍はいきなり施設を強襲した。しかし彼らもゴーストとモンスターに駆逐された。おそらく、社長の目的が達成されたんだ。
カスミ:目的って?
技術者:第2の適合者が見つかったんだ。
カスミ:わ、わかりません。この状況は、誰かが望んだことなんですか? どうして? なんのために?
技術者:それは、ぼくにもわからないが、たぶん第2の適合者は、シズクだ。
カスミ:シズクが? どうして?
技術者:ぼくはカプセルルームできみに会った。いばらを従え、燐光を放っていた。きみだと思っていたが、雰囲気がちがう。あれは、きみの姉か?
回想:カプセルルーム
技術者は、スパイを覚醒させようとパネルを操作した。そのときゲートが開いて、いばらを帯びたカスミが出現した。いばらに強打され、技術者は気絶した。

カスミ:シズクが生きてる? ここにいるの?
技術者:きみは、あの連中がおかしいと思わないか?
カスミ:おかしいって?
技術者:彼らはどうして生き残った? エレベーターにモンスターが潜んでいることを知っていたとしか思えない。道案内の子ども、屈強の男2名、看護婦1名? RPGゲームのパーティ編成か? できすぎだよ!
カスミ:なに言ってるんです?
技術者を突き飛ばすカスミ。その背後にモンスターが忍び寄る。技術者は、カスミをかばって殺された。
技術者:こんなデタラメな世界に、生きていたくない。
カスミは逃げて、間一髪のところを囚人に救われた。
貯蔵庫:岐路
貯蔵庫でみんなと合流する。なにがあったか話せないカスミ。不審な点が多い囚人。囚人が正体を明かす。彼がアメリカ軍のスパイだった。しかしアメリカ軍が強襲した理由や、現在の状況はわからない。ただ、アメリカ軍はかなり焦っていたから、なにをキッカケに実力行使に踏み切ったのだろう。
囚人:任務を果たす。おれは実験棟に向かう。
カスミ:私も行きます。シズクの消息を知りたいから。
言い合いの末、全員で城外に出ることで合意した。

脱出路:関わり
歩きながら会話。カスミが囚人に問いかける。囚人には、軍の命令以外にも目的があった。ヴィナスゲート社に勤務する妹を見つけ出すことだ。妹の名前はアリス。CSCCを管理する人工知能と同じ名前。
8年前、妹は社長となにかを発見した。とても重大な、人類史を変える可能性があると言っていたが、詳しいことはわからない。その半年後、会社から妹の事故死が伝えられた。妹は本当に死んだのか? 殺されたのか? 囚われているのか? 確かめないと!
そしてメドゥーサが世界に蔓延した。妹が発見したものと、なにか関係があるにちがいない。カスミが、技術者から聞いた話を伝えようとすると、囚人はわかっていると答えた。
囚人:アリスはもう生きていないだろう。だが、真相は確かめないと。
途中、ピンチに陥るが、警官が助けてくれる。警官死亡。
なんとか城外へ。モニターログで見たとおり、城はいばらに埋もれていた。空中に光が舞っている。奇妙な光景。この世ならざる雰囲気。まるで夢のよう。ヘリコプターを見つけ、脱出の準備をする。カスミは崖でビデオカメラを見つける。
回想:カスミ
カメラには、悶え苦しむカスミが中央ラボに運ばれる様子が撮影されていた。事情を知らない警備の人が騒いでいる。

「第2適合者だ! ラボに運べ!」「な、なんだ、これ? 人間がモンスターに?」「警備は下がれ! 撮影するな!」
シズクが運ばれたあと、誰かが叫んでいる。
「だ、駄目だ。この施設は人間を怪物にするところなんだ。突入だ。軍を突入させろ!」
これが、アメリカ軍強襲のキッカケだった。カスミは城に向かって走った。シズクを助けないと!
城外:囚人
囚人は後を追おうとするが、看護婦に妨害される。看護婦が問う。
看護婦:あの子を守ってくれる? 自分より? 妹さんより?
囚人:あぁ!
看護婦と子どもは抱き合いながら石化。ヘリコプターは落下し、囚人は城の中に放り込まれた。カスミと合流する。
悪夢:決意
闇の中、カスミは過去を思い返していた。
シズクと過ごした日々。シズクに怪我させたことの負い目。コールドスリープの権利をゆずるため、手首を切った。シズクが怒った。シズクが泣いた。シズクが笑った。シズクは私をどう見ていたの?
囚人の声で目を覚ます。カスミはいばらに包まれ、気を失っていたのだ。囚人の手がいばらのトゲで血まみれ。その手に感謝する。
囚人:シズクがいま、どんな状態なのか、さっぱりわからない。軍は実験棟に到達できていない。しかしヴィナスゲート社が機能しているとも思えない。
カスミ:私、シズクに会うのが怖い。
囚人:なら、会わなければいい。
カスミ:でも行かなくちゃ。シズクは夢を見ている。私が起こしてあげないと。
囚人:そうだな。
カスミの目に強い意志が宿っていた。囚人がほほえむ。
実験棟:管理室
囚人とカスミは実験棟に入る。中央研究室で、ヴェガ社長が待っていた。囚人が銃で威嚇し、カスミを研究室に行かせる。囚人と社長が対峙する。
社長:きみはアメリカ軍のスパイで、アリスのお兄さんだね。銃を向ける相手をまちがっていないか? あの少女がシズクに会えば、シズクは発狂する。それは世界の終わりを意味する。
囚人:そうかもしれん。だが、いばら姫は目を覚ますべきなんだ。
社長:姫は目覚めたくないと言っているがな。
肩をすくめる社長。
囚人:なにがあったか、しゃべってもらおうか!
社長:いいだろう。銃をおろしたまえ。ここに至り、私にできることはおしゃべりだけだ。役目を終えた者同士、最後の語らいをしよう。
社長:最初から話そう。8年前、私とアリスはメドゥーサを発見した。メドゥーサは宇宙から飛来し、人類を進化させるタネだ。
囚人:宇宙からの侵略じゃないのか?
社長:見方によるよ。メドゥーサの飛来は、今回がはじめてじゃない。我々人類も、猿の適合者が作り出したものかもしれない。
囚人:作り出したもの?
社長:オルタナティブ、と故障している。宿主のイメージが具現化したものだ。キリンは、首を伸ばそうと思ったから伸びた。進化は、淘汰による緩やかな変化じゃなかった。
社長:メドゥーサはトラウマと共鳴する。たいてい宿主を歪めてしまうが、まれに適合する人間がいる。最初の適合者は私の助手であり、きみの妹──アリスだった。
社長:メドゥーサで世界を変える。それが私とアリスの願いだった。きみは信じないだろうが、彼女は自発的に実験に協力してくれた。しかしヴィナスゲート社の技術が足りず、アリスは死んでしまった。
囚人:おまえが殺したんだ!
社長:そうさ。だが、きみに責められる謂われはない。彼女は望むものを手に入れた。彼女が不幸だったなんて、誰にも言わせない!
囚人:きさま!
銃口を向けるが、社長はたじろがない。気圧される囚人。ちらりと研究室を見る。カスミはどうなった?

実験棟:中央研究室
研究室はいばらの巣となっていた。中央に誰かが横たわっている。
カスミ:(あそこにシズクがいる!)
駆け寄るカスミを止めたのは、シズクだった。裸身をいばらで覆っている。
シズク:こんなところにいちゃ駄目よ。
カスミ:あなたはオルタナティブ。シズクの心が作った偽物ね!
シズク:私がわからないの?
カスミ:邪魔しないで!
シズク:あなたはここに来ちゃいけない。
実験棟:管理室
囚人:話をつづけろ。
社長:アリスを失った私は、第2の適合者を探すべく、コールドスリープカプセルセンターを開設した。コールドスリープ中は、人工知能で意識を制御できる。これで適合者への負担は軽減されるはずだ。システムの名称には、第1適合者の名を冠した。アリスが、第2適合者を守ってくれるだろう。
囚人:……

社長:コールドスリープ稼働直後、1人の少女が実験棟に運ばれてきた。なんという偶然か。資格者リストにない少女が、第2適合者だった。さいわいシステムへ接続は間に合った。シズクは安定した状態で開花した。
社長:ところがアメリカ軍が妨害した。愚かなことに、システムの電源を落としたのだ。ALICEの加護を失ったシズクは暴走。攻撃的なイメージを具現化し、世界と融合した。施設も、私たちも、《彼女》に掌握されてしまった。
囚人:掌握された?
社長:神はお隠れになった。いばらの奧に。現実と向き合うことを恐れている。だから彼女を外に出すことにしたのだ。
囚人:彼女? 誰のことだ? なにを話している?
実験棟:中央研究室
要領を得ないシズクを押しのけ、カスミは繭の中を見た。シズクが横たわっている。その手首に包帯。包帯があるのはカスミ。これは誰? 私は誰?
私は……あのとき……
回想:崖の上で
コールドスリープ稼働直前。崖の上でカスミは、シズクと無理心中を図った。
カスミ:ひとりで生きたくない。いっしょに死んで!
シズク:やめて!
押し合いの末、崖から転落したのはカスミだった。
シズクが絶叫し、メドゥーサが発現した。

回想:シズクの過去
シズクの記憶。
シズクの怪我はカスミのせいじゃなかった。コールドスリープの当選者も、本当はシズクだったのをカスミにゆずっていた。シズクにとってカスミは、かけがえのない人だった。世界中の誰より大切に思っている。だから、生きてほしかった。たとえ自分が死んでも。
しかし崖の上でシズクは理解した。ひとりで生き残ることは、身を犠牲にすることよりつらい。
回想:カプセルルーム
暴走後、シズクはカスミのオルタナティブを作りだし、それをカプセルに運び入れた。すべてをなかったことにするために。ドアを開けたり、カプセルの操作をしていたのは社長だった。
社長の下半身はいばらに変わっていた。

実験棟:管理室
囚人:あんたは…
社長:そう、私もオルタナティブだ。本当の私は死んでいる。
囚人:カスミを遠ざけようとしたのはシズクの指示か? あんたの意思か?
社長:さぁね。私は自分の意志で動いているつもりだよ。きみと同じく。
囚人:どういうことだ?
社長:案内役、戦士、リーダー、看護婦、古い常識。私が選んだパーティだ。あの技術者がまぎれ込んだのは偶然だがね。東洋人の小柄な少女を守り、外へ導くよう、暗示をかけておいた。
囚人:暗示? おれにも?
きみの行動もシステムに干渉されている。あの少女への恋心さえ。
囚人:うそだ!
社長:きみはアリスの顔を覚えているか?
囚人:当たり前だ!
社長:ははは。そこに写真がある。見てみたまえ。
写真を見て愕然とする囚人。
囚人:これがアリス? おれの妹? ち、ちがう! これは!
社長:だから言ったろう。メドゥーサは現実を書き換えると。きみは6年前に死んでいるんだ!
脱出
シズクとカスミが会話する。ふたりの声は同調し、自問自答しているようだ。
「「自分はどうなってもいい。あなたに生きていてほしかった」」
「「でもそれは、身勝手な押しつけだった」」
「「ひとりで生き残る勇気がなかった」」
「「世界を変えてしまいたかった」」
ふたりは解け合い、そして分離した。
「「でも、今なら言える」」
「「あなたは私、私はあなた」」
「「だから生きて」」
「「だから生きる」」
実験棟:管理室
カスミが研究室から出てきた。メガネをしていないが、きちんと見えているようだ。社長と囚人をみて、静かに告げる。
女性:城が崩れるわ。ここを出ましょう。
囚人:いいのか? カスミ…
こくんと頷くカスミ。納得する囚人。
社長:私は見送らせてもらうよ。動けないし、動きたくないからね。
社長の脚を見てカスミは驚くが、無理強いはしなかった。
カスミ:ありがとう。
社長:さようなら。世界を託す。
城から離れた崖
ふたりが城の外に出ると、タンクが爆発し、炎上した。
カスミ:世界はどうなったのかしら?
囚人:さぁね。ただ、もうメドゥーサの治療法を探す必要はないだろう。メドゥーサに感染しなかった人々をどう救うか。まだ救えるのか……
カスミ:……
囚人:怖いか?
カスミ:いいえ。だって、ひとりじゃないから…
カスミが笑顔を見せた。
囚人はなにか言いかけたが、言葉を飲み込んだ。
囚人:行こう。

《おわり》
あとがき
あいまいな表現を避け、情報を段階的に明かすよう心がけた。最大のテーマは、カスミの成長を描くこと。少年・少女を主人公とする映画は、やっぱりラストで成長を感じたい。


