2005年のSF映画『アイランド』。状況設定はおもしろいけど、後半はよくあるアクション映画になってしまった。医療倫理への踏み込みも浅い。悪い奴らをやっつけて、美女とチューして終わり。これが平均的に喜ばれるフォーマットなのか。
そこで、私が期待をシノプシスとして書き出してみた。前半はほぼ同じで、後半が異なる。映画を見た人ならシーンが思い浮かぶかもしれない。
当選を待つ日々
海をわたる夢
リンカーン・6・エコーは、毎晩のように奇妙な夢を見ていた。クルーザーで海をわたる夢なのだが、リンカーンは海もクルーザーも見たことがない。それなのに夢はあまりにもリアル。なぜこんな夢を見るのか?
いつものベッドで目覚め、いつもの日常がはじまる。スクリーンに健康アドバイスが表示され、管理された食事をとって、適切な治療を受ける。ここは《ノア》と呼ばれる地下の医療施設。
20世紀のはじめ、地表は放射能で汚染されてしまった。救助された人々は《ノア》に集められ、適切な治療を受けていた。いつか抽選に当たって、地上最後の楽園、《アイランド》へ行けることを願って。
リンカーンはいつものように美女ジョーダンに声をかけ、いつものように警備に注意される。
「なにしてるんだ?」
「見ての通り、口説こうとして失敗したところさ」
「《ノア》は男女の接触を禁じている」
「わかってるよ」
思うように会話できないが、それでもジョーダンは微笑んでくれる。気持ちは伝わっている。いつか彼女と《アイランド》へ行きたい。

ノア|楽園の真実
ある日、リンカーンは蛾を見つける。外界は放射能で汚染されているはずなのに? 疑問を抱いたリンカーンは施設を探索し、恐るべき事実を目撃する。
ノアの住人は全員クローンだった。保険契約を結んだクライアントに臓器提供するために生かされている。「アイランド行き」とは、「臓器を摘出されて廃棄されること」を意味していた。
次の当選者に決まったのはジョーダンだった。リンカーンはジョーダンを説得し、《ノア》から逃げ出した。

逃避行
地上|戸惑い
リンカーンとジョーダンは地上に脱出し、都市にたどり着いた。外界は汚染されておらず、たくさんの人が生活している。ふたりは身分証明がないため、警察に追われた。
「こんなことなら、《アイランド》を夢見ていた方がしあわせだった」
絶望するジョーダン。一方、リンカーンは精気に満ちあふれていた。
「こんなことを言ったら怒るかもしれないが。ぼくはいま、命を実感している。神経が研ぎ澄まされ、力が湧いてくるようだ。愛する人を守るためなら、なんだってできる!」
社長室|倫理問題
企業《ノア》の社長室。特殊部隊の隊長が呼び出され、リンカーンとジョーダンの捕獲が命じられた。ただし施設やクローンの存在を知られてはならない。
「クローン?」
事情を知らない隊長のため、社長が《ノア》の仕組みを説明する。クローンは、アグネイトという物質から製造される。クローンの製造は禁止されているが、アグネイトの培養なら問題ない。
「実際はクローンと同じものですよね?」
「いや、オリジナルと同じものだ。記憶以外はね」
「世間に知られたら禁止される?」
「馬鹿な話だ。人間を複製できるアグネイトの価値は計り知れない。なのに誰も理解しようとしない。毎日ブタを食べるのに、ブタが殺されるのはかわいそうと言う。人間とはそういうものだ。だから伏せておく。知らなければ、悩まずに恩恵を受けられる」
「一部の金持ちが?」
隊長が突っかかる。
「・・・今はそうだ。しかし技術が進歩すれば、より多くの人に快適な人生を提供できるだろう。そのためにも、きみの働きが必要なのだ」
「了解しました」
敬礼して、隊長が退室する。胸のペンダントに、娘の顔写真が入っていた。
「こんな技術があるなら、娘は死なずに済んだ・・・」
都市|命の選択
道を行き交う人が「あのジョーダン?」と振り返る。ジョーダンのポスターがあった。オリジナルのジョーダンは有名な女優だった。ニュースによると、オリジナルは交通事故に遭ったようだ。軽傷と伝えられているが、臓器移植用のコピーが呼び出されたところを見ると、危篤状態なのだろう。
オリジナルの家に電話すると、娘が出た。シングルマザーだった。娘は、病院にいるはずの母が電話してきたことに驚く。ジョーダンは感極まって、崩れ落ちる。
「私が臓器を提供すれば、オリジナルが助かるのね?」
「駄目だ。きみが死んでしまう」
「自分が生きるために、自分を殺すの? 私にそんな価値がある? 私はそのために作られたんでしょ!」
「あるさ! きみはきみ、彼女は彼女。誰かの犠牲になるなんて馬鹿げてる」
都市|逃避行
警察の連絡を受けて、隊長が現地に到着する。リンカーンとジョーダンを追い詰めるが、事情を知らない警察と衝突してしまう。その隙を突いて2人が逃げる。
社長は隠蔽可能だからと、警官殺害を命じる。隊長は警官を撃ち殺すが、悩む。
「こいつにも、《ノア》の恩恵はないんだな」
特殊部隊は2人を見失ってしまった。

オリジナルとクローン
都市|記憶の共鳴
リンカーンは都市を駆け抜け、乗り物も操縦している。不審に思った隊長が問い合わせる。
「クローンに記憶も転写されているのでは?」
「ありえない。する意味がない。だがもし事実なら、アグネイトが共鳴したことになる……」
「サンプルとして捕獲しますか?」
「いや、駄目だ。クローンの存在を知られるわけにはいかない。必ず殺せ」
「了解しました」
「次はどうする?」
「リンカーンの家に行ってみます。クローンが立ち寄るかもしれません」
オリジナル・リンカーンの家|もう1つのストーリー
オリジナルのリンカーンが帰宅すると、部屋に不審者がいた。リンカーンとジョーダンだった。
「遺伝子認証をどうやって突破した?」
「同一人物だからね」
事情を説明すると、オリジナルは2人を匿うと言い出した。実際、隊長が訪ねてきても追い返してくれた。
「ぼくには関係ない。今度はぼくのストーリーを聞いてもらおうか」
オリジナル・リンカーンは、大富豪の子息だった。自分で作ったものがほしくてデザイナーになった。それなりに成功したが、人生に飽きていた。《ノア》の保険は、一族が勝手にかけたもので、詳細は知らなかった。
「ぼくはガンだ。長くは生きられない」
オリジナルは臓器移植を拒否していた。長生きに執着しないと言う。
「顔は同じなのに、性格はちがうのね」
ジョーダンは戸惑う。
疲れたジョーダンとリンカーンは眠った。
オリジナルも夢を見ていた
深夜、ジョーダンが目覚める。オリジナル・リンカーンはテラスで酒を飲んでいた。ジョーダンが出てきたので、あわてて部屋にもどる。
「きみは有名人なんだぜ。脱走したクローンって意味じゃなく、大女優なんだから」
自室に案内される。そこにはジョーダンのポスターが貼られていた。
「かくいうぼくも、きみのファンだ」
「オリジナル・ジョーダンの、でしょ?」
オリジナル・リンカーンは肩をすくめる。
「ぼくのクローンが、あのジョーダンと恋仲だったとは。光栄に思うべきか、嫉妬すべきかね」
「恋仲ってほどじゃ。《ノア》ではあまり会話できなかったし」
「本当に? それじゃ、ぼくにもチャンスはあるかな?」
ジョーダンは距離をとる。
「あなたは、彼じゃない」
オリジナルはスケッチブックを取り出した。そこに描かれていたのは、《ノア》施設だった。
「どうして? あなたは施設を知らないはず」
「ぼくも夢を見てたんだ。共鳴は双方向らしい。ぼくとあいつは、それほどちがわない。それとも、余命わずかな人間は愛せないか?」
ふたたび迫られ、唇を許してしまうジョーダン。
「や、やめて。頭がおかしくなる!」
突き飛ばされるオリジナル。そこへクローンがやってくる。
「なにしてるんだ?」
「見ての通り、口説こうとして失敗したところさ」
共食い
夕方、リンカーンの別荘に移動することになった。車庫に出たところで特殊部隊に襲撃される。
「おまえが通報したのか?」
「まさか。」
「おまえは信用できない」
「自分を信用できないのか?」
特殊部隊の銃撃で、オリジナル・リンカーンが殺された。クローンはオリジナルになりすまし、クライアントとして説明を求めた。隊長も社長も、クライアントを口封じすることはできず、《ノア》に連れて行くことになった。回収したジョーダンとともに。
隊長はなにかに気づく。

4. 救出
ノア|魂の継承
《ノア》に輸送されてきたジョーダン。しかしオリジナル・ジョーダンの容体が急変し、移植どころではなくなる。クローンが手術室に乱入すると、チューブにつながれたオリジナルがいた。クローンとオリジナルが、互いを見つめ合う。手を取り合うと、ショックを受ける。
オリジナルが息を引き取った。言葉は交わさなかったが、なにかが伝わったようだ。クローンが涙を流す。

社長室|提案
社長室で説明を聞いていたリンカーン。そこへオリジナル・ジョーダン死亡の知らせが入る。リンカーンは、クローンとのすり替えを提案する。
「ぼくなら彼女を説得できる。ジョーダンは手術で一命を取り留めるが、思うところあって引退する。そのあとで彼女がなにを言っても、世間は相手にしないさ。ぼくが監視する」
「しかし……」
「まぁ、本音を言えば、ぼくは彼女のファンでね。これを機にいっしょにいたいのさ」
「……」
「今は、あんたらの失敗を隠す方が先決じゃないか?」
社長は気になって、5年前の大リーグの勝敗を質問する。クローンなら知らないはずだが、リンカーンはすらすら答えた。社長は提案を受け入れた。
ノア|脱出
監禁されていたジョーダンを、リンカーンが説得する。
「ぼくはクローンだ。ここを脱出するため、オリジナルをふりをしてほしい」
「わかったわ」
堂々と施設を出て行こうとする2人を、隊長が呼び止める。
「あなたのクローンを殺してしまって、申し訳ない」
「気にしてないよ」
「しかしあなたは、ガンを患っているはずでは……」
「え? あぁ、そうだね。しかしそれはきみ、新しいクローンを作ってくれるんだろう?」
「もちろんです」
2人が出て行った。
社長室|後始末
「どうだった?」と社長。
「わかりません。同一人物ですから」と隊長。
社長はリンカーンがクローンではないかと疑っていた。
「まぁ、いい。しばらく監視して、落ち着いたら殺そう。オリジナルにせよ、クローンにせよ、生きていてもらっては不安が残る。憂いは断っておいた方がいい」
「そうですね」
いきなり隊長が社長を撃ち殺した。その場で連絡する。
「はい。いま始末しました。死体は片付けますが、よろしいのですか?」
電話の向こうで、資本家が答える。
「問題ない。代わりは用意してある」
社長のクローンが立っていた。
エピローグ
アイランドへ
半年後、海にクルーザーが浮かんでいた。夢と同じ光景だが、娘がいるところが異なる。娘はジョーダンを母親と信じている。
「またその記事を読んでるの?」
リンカーンは、ジョーダンの電撃引退の記事を読んでいた。冷たい飲み物をもってきたジョーダンの腕を引き寄せ、口づけする。
「幸せかい?」
「えぇ」
「《ノア》に残してきた仲間たちは気にならないか?」
「気になるけど、なにもできないわ。いまは娘もいるし……」
「そうだね。妙なことをしなければ、彼らはなにもしない。手は打ってある」
「そうなの?」
「やれることはやった」
「えぇ」
「もう、思い残すことはない」
「?」
ジョーダンの表情が凍り付く。
「そう。ぼくはオリジナル・リンカーンだ」
「そんな・・・」
「死んだ方がクローン。あのときは、ああするしかなかった」
「でも、あなたは……」
「わかるだろ? ぼくはいま、命を実感している」
「あの人と同じ言葉」
「共感は双方向。きみ、触れ合っただろ?」
「私にもオリジナル・ジョーダンの記憶がある…」
背後で娘が呼んでいる。「ママー、ママー」「ちょっと、待ってて」
ふたりを眺めながら、リンカーンは眠った。
「リンカーン? リンカーン?」
画面が暗転する。
「ママー、島(アイランド)だよ-」

《おわり》
雑記
とまぁ、こんな展開を期待していた。派手なチェイスシーンを省けば、尺におさまるはず。
The Island (2005)