[妄想] コクリコ坂から / 物語を整理する

[妄想] コクリコ坂から 妄想リメイク
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 『コクリコ坂から』がわかりにくかったので、自分なりに整理してみた。

  • メルの愛称はまぎらわしいのでウミに統一する。
  • ウミによるモノローグを加え、彼女視点の物語であることを明示する。

ストーリー

1963年、横浜──。
翌年に東京オリンピックを控え、世の中は高度経済成長の熱狂に包まれていました。古いものは次々に壊され、新しいものに置き換えられていく。誰も彼もが生き急いでいるような、そんな時代でした。

そのころ、私は高校2年生でした。世の中のことも、明日のことも、自分のことも、よくわかっていませんでした。

コクリコ荘/いつもの朝

早朝。港が見える丘の上にある古びた下宿屋・コクリコ荘。その2階で16歳の少女・松崎ウミが目覚める。まだ寝ている妹と弟を起こさぬよう、そっと布団を畳み、そろりそろりと階段を下りて、朝食の支度をはじめた。

部屋の中を映して、状況説明。
松崎家の家族写真(父、母、ウミ、ソラ、リク)。父の遺影と遺品(父親は元軍人、船乗り、すでに他界)。カレンダーに記された母の帰国予定日(母親はアメリカにいる)。朝食後、祖母がウミに声をかける。

祖母:ウミさん。部活動なり、恋愛なり、もっと若者らしいことをしなさいな。あなたのお母様は好きなことだけやっていましたよ。それがいいとは言えませんが、せっかくの青春なのですから。ウミ:ありがとうございます。でも、私は幸せですから。
ウミは意味をわかってないが、祖母はそれ以上言わなかった。

ウミは庭に立つポールに信号旗を掲揚する。
店子:だれに向けたメッセージ?
ウミ:父さんが無事に帰ってきますように。と願っていたけど、今はもう習慣ね。
店子に問われても、ウミは答えられなかった。

洋上のタグボート/少年の目

コクリコ荘の信号旗を、洋上から見上げる少年がいた。17歳の風間シュンである。水先案内人である父のダグボートで通学していた。

「親父、あの信号旗の意味、わかる?」
「U旗とW旗。《安全な航行を祈る》だ」
シュンの父は旗を見ないで答えた。
「コクリコ荘の女の子が揚げてるそうだ」
「コクリコ荘って、松崎さんの家?」
「詳しいことは知らない。仲間から聞いた話だから」
「だれに向けたメッセージなんだろう?」
「さぁね。でも横浜の船乗りは、みーんな、自分宛てだって思ってるよ。誰も確かめようとはしないがね。へたに確かめて、旗があがらなくなったら困るからな」
「……」

港南学園高等部/広場

そのころ、港南学園高等部では小さな紛争が起こっていました。
文化部部室棟「カルチェラタン」の取り壊しに、一部の生徒が反対運動をはじめたのです。しかし生徒の大半は取り壊しに賛成、もしくは無関心だったので、運動は盛り上がりませんでした。

昼食時、壇上で文化部の生徒たちが熱心に演説している。がなり立てる声に辟易しながら、ウミは友だちと語らう。

「あの人たちはどうして反対するの?
 カルチェラタンは老朽化がひどくて、危ないんでしょう?
 取り壊したあと、新しいクラブハウスを建ててくれるんでしょう?」
「そうなのよ!
 文化部の連中は伝統がどうのと騒いでいるけど、ただ汚くて、危険なお化け屋敷じゃない。あんなのに執着する男どもの気が知れないわ」
「薄暗いところで、なにをやってるのかしらね~」
「やだぁ」
「あ、そういえば」
「なに?」
「これよ、これ」
「どれ?」

友だちが取り出したのは「週刊カルチェラタン」というビラだった。カルチェラタンの保存を訴えている。ウミが文面を読んでいると、
「ちがうちがう、そこじゃなくて、下よ」
 視線を下ろすと、下の欄に詩が書いてあった。

少女よ 君は旗をあげる なぜ
朝風に思いをたくして よびかける彼方
きまぐれな カラスたちを相手に
少女よ 今日も紅と白の 紺に囲まれた色の 旗は翻る

「これって、コクリコ荘のことでしょ?」
「それはウミに捧げる詩?」
「まるで恋文ね!」
「誰が書いたの?」
「えぇと、文芸部の……」
そのとき、シュンが登壇した。かたわらに生徒会長の水沼が立っている。
シュンはカルチェラタンの保存をあれこれ訴えるが、大半の生徒は興味がなく、野次を飛ばすものさえいた。騒然となる中、ウミとシュンの目があった。硬直するふたり。ウミの肩を友だちが叩いた。
「あの人よ」
「え?」
「文芸部部長の、風間シュンくん。
 それに生徒会長の水沼さん。
 あのふたりが週間カルチェラタンを発行しているの」
「ふたりともかっこいいんだけど、近寄りがたいのよねー」
「そうそう。いっつもカルチェラタンにいるからね。カルチェラタンがなくなれば、気軽に会えるかも?」
「そのころにはもう卒業よ」
「そっか」

先生がやってきたことで、演説会は打ち切りになった。三々五々に散っていく生徒たち。その中から妹のソラがやってきた。

「お姉ちゃん。カルチェラタンに連れてって!」
「ど、どうして?」
「水沼さんに会いたいの!」
「どうして?」
「だって、カルチェラタンは怖いんだもん」
「そうじゃなくて……」

屈託なく笑うソラに、ウミは肩をすくめた。

カルチェラタン/一目惚れ

カルチェラタンは魔窟でした。
お化け屋敷のように蜘蛛の巣やホコリまみれで、資料やら機材やらが、雑多に積み重ねられていました。私は、片付けたい気持ちを抑えながら、きしむ階段を上がっていきました。

広瀬さん、吉水さん、芹沢くん……。

ここで知り合った人たちとは、今もお付き合いがあります。カルチェラタンの住人は、とても個性的で、親切で、おもしろい人たちでした。

3階にある文芸部の部室。扉を開けると、シュンと生徒会長がいた。
「おっ、ボトルメールが届いたようだぞ!」
 生徒会長が歓迎する。ふりむいたシュンとウミの目が合った。
 黙ったまま見つめ合うふたり。周囲の音が遠ざかっていく。生徒会長とソラがなにか話しているが、耳に入らない。

…タグボートからコクリコ荘の旗が見えて……
…乱闘でシュンが突き指したんだ…
…ウミさん、手伝ってもらえないだろうか…

「え? あ、はい。やります」
ウミはシュンを手伝うことになった。さっそく席に座って、ガリ版清書をはじめる。ふたりの共同作業を見届けた生徒会長は、
「カルチェラタンを案内しましょう」
と、ソラを連れてどこかへ行ってしまった。

カルチェラタン/シュンと生徒会長

その日からウミはカルチェラタンに通うようになった。そのたび生徒会長は席を外すが、ふたりは必要以上に近づかず、必要以上に言葉を交わさなかった。家事が忙しいときは、原稿を持ち帰る徹底ぶりだ。シュンを手伝うことは、シュンに接近するための口実ではなかった。

ウミが帰った部室で、生徒会長がシュンに語りかける。
「これも一目惚れって言うのかな? きみたちは互いの姿を見る前から恋に落ちていたようだ。ぼくは運命なんて非科学的なものは信じないが、信念が揺らいだよ」
「茶化す」
「いやいや、感動しているんだ。きみたちは知り合ってまだひと月で、でえとっぽいこともしてないのに、長年連れ添った夫婦のような安定感がある。正直、ぼくは恋愛を軽く見ていた。いいもんだな」
「はいはい」
「気づいているか? 近ごろ、カルチェラタンに女生徒が出入りするようになった。彼女たちもカルチェラタンの住人や活動に興味をもっていたが、男やもめの魔窟を敬遠していたようだ。そこに松崎さんが風穴をあけた。いま、カルチェラタンに新しい風が吹いている!」
「へぇ」
「来週の大掃除も成功するだろう!」
「え? ウミが提案したあれを本気でやるのか? おいおい。カルチェラタンの埃は我等の誇り、って言ってたじゃないか。おまえが命令しても、みんな抵抗するぞ!」
「命令なんかしない。松崎さんがカルチェラタンの全住人に了承をもらっている。おまえだって了承しただろう?」
「おれはいいけど、ほかの連中が……」
「だからもう全員が了承したんだよ」
「いつの間に……」
「それだけじゃない。OBから道具や資材も提供してもらうことになった」
「そこまでウミが手配したのか?」
「いや、コクリコ荘に北斗さんというOGがいて、その人が手配してくれた。副生徒会長だった人物で、すごい切れ者だったよ。あとは実行あるのみ」
「……」

「実際、すごいと思うよ」
ふたりはカルチェラタンの窓から、下校するウミを見送った。

カルチェラタン/大掃除

生徒会長が号令をかけ、カルチェラタンの大掃除がはじまった。多くの女生徒が集まってくれた。彼女たちは嬉々として男どもの巣を暴いた。抵抗する男もいたが、みな取り押さえられた。

埃が払われ、汚れが落とされていく。ゴミが捨てられ、打ち付けられた窓が開く。建物が明るく、きれいになるにつれ、生徒たちの交流も深まっていった。生徒会長は感激した。

「ぼくはまちがっていた。古いものは古いから価値があるんじゃない。カルチェラタンが使えること、愛されていることを訴えるべきだった。守るべきは炎であって、灰じゃない。ありがとう、松崎さん! きみのおかげで、カルチェラタンは新たな命を得た!」

拍手喝采を浴びて困惑するウミ。シュンも遠巻きに拍手していた。嬉しそうだ。

コクリコ荘/北斗さんのお別れパーティ

コクリコ荘の下宿人である北斗さんの就職が決まり、北海道に移り住むことになりました。壮行会には、カルチェラタンを代表して、生徒会長と風間くんが来てくださいました。

当日、男ふたりは大人たちと談笑し、ウミは厨房で宴会を支えた。宴会も終わるころ、ソラは生徒会長を、ウミはシュンを案内した。コクリコ荘の歴史、両親が駆け落ちしたこと、信号旗は父のために揚げていたこと、父が船乗りだったこと。ウミは古い写真を見せた。3人の士官が写っていて、名前が書いてある。

沢村雄一郎、立花洋、小野寺善雄──。

シュンの顔が強張ったことに、ウミは気づかなかった。

洋上のタグボート/風間親子

翌朝、タグボートで登校中のシュンは、「沢村雄一郎」のことを訊ねた。シュンは風間夫婦の子ではなく、沢村雄一郎に託された養子だった。

「おまえはおれの子だ。それがすべてだ」
「わかってる。でも、知りたいんだ。沢村雄一郎はどんな人だったの? どうしておれを捨てたの?」
「捨てたわけじゃない。あのころはみんな余裕がなかったんだ」

父親は話を打ち切ろうとしたが、シュンの様子を見て、もう少し言葉を継いだ。

「沢村雄一郎はいいやつだった。どうして子どもを手放すことになったのか、おれは訊ねなかった。やむにやまれぬ事情があったのだろう。なにがあったにせよ、沢村はいいやつだった。機雷にやられるまで、おまえのミルク代を送ってくれたんだ。成長したおまえを、会わせてやりたかった」
「……」

シュンはそれ以上、追求できなかった。

丘の上に、コクリコ荘の信号旗が見えた。

《安全な航行を祈る》

高波に船が大きく揺れ、シュンはよろけ、倒れてしまった。

港南学園高等部/雨

学校でシュンは、ウミを避けはじめた。ウミは戸惑い、生徒会長は不審がった。放課後、カルチェラタンの部室で生徒会長はシュンを問いただした。

「きのう、松崎さんとなにかあったのか?」
「なにも」
「うそをつくな!」
「……」
「おまえ、彼女になにかしたのか?」
「ちがう。なにもしていない。できない」
「できない?」
「……」

生徒会長はシュンの言葉を待った。

「松崎ウミは、妹だったんだ」
「どういうことだ?」

事情を説明すると、生徒会長はショックを受けた。

「し、しかし、戸籍上は他人だろ。結婚しても法的な問題ないはず」
「そういう話じゃない」
「あ、あぁ、そうだな。すまない。しかしおまえ……。松崎さんには?」
「まだ話してないが、言うよ。きちんと説明せずに、終わらせることはできない」
「終わらせるって……」

そのとき、部室のドアが開いた。ウミが立っていた。

「聞いていたのか?」

シュンより生徒会長がうろたえていた。
シュンはまっすぐウミの目を見た。ウミも見つめ返す。

「……ごめんなさい。でも私……」
シュンが遮った。
「おれとおまえは兄妹だ。初めてあったときから息があったのは、血のせいかもしれない」
「やめて!」
「ウミ。おれはおまえが好きだ。好き、だった。でも、どうしようもない。これからは……友だちで……」

ウミは駆け去った。
生徒会長はシュンの胸ぐらをつかんで殴ろうとしたが、やめた。

「ちくしょう!」

生徒会長は吠えて、ゴミ箱を蹴った。

「おまえが怒れない分、おれが怒る! ちくしょーーーー!」

ウミの夢

コクリコ荘に帰ったウミは、いつものように食事の用意する。しかし上の空だったから料理はめちゃくちゃになった。店子たちはウミを強引に休ませ、家事を替わった。することがなくなり、さらに困惑するウミ。

深夜、布団の中でウミは泣いて、そのまま眠り、夢を見た。船乗りだった父親が帰ってきた。

「ただいま、ウミ」
「お父さん!」
抱きつくウミを、やさしく抱いていくれる。
「どうしたんだい?」
「お父さん、お父さん、お父さんがよそで子どもを……」
違和感があって顔を上げると、それはシュンだった。
「どうしたんだい?」
父の声でしゃべるシュンを、ウミは突き飛ばした。
「愛しているよ、ウミ」
「うそ!」
見ると、シュンが赤ちゃんを抱いていた。
「この子を預かってくれないか? 良子と結婚するんだ」
「やめてやめてやめて!」

ウミは暗がりで目を覚ました。
(お父さんが好き。だから、風間くんを好きになったの?)
布団の中に潜り込んだ。弟と妹はすやすや寝ている。

コクリコ荘/いつもとちがう朝

翌朝、祖母が古くなった茶碗を捨てた。
「ずっと大切にしてたけど、もう買い替えないと駄目かしら」
「そうですよ。古いものをありがたがる時代じゃないです。新しい方が安くて、便利ですから!」店子たちが同意する。
「そういうものかしら」
「そうですよ」
「あれ、ウミちゃん」
「え?」
ウミは無意識に泣いていた。

港南学園高等部/カルチェラタンの取り壊しが決定

数日後、登校すると学校が騒然となっていました。
カルチェラタンの取り壊しが決まったのです。
多くの生徒がカルチェラタンに集まって、はげしく議論していました。

「学校の横暴を許すな!」
「理事長の決定だから、校長に談判しても無駄だ」
「理事長に直訴するしかない」
「水沼! おまえが行ってくれ!」
「理事長は桜木町にいる」
「わかった。ぼくが代表で直訴してくる!」
生徒会長が席を立った。

「風間、それに松崎さん、いっしょにに来てもらいたい」

シュンとウミがうなずくと、生徒たちはエールを送った。

「たのむぞ!」
「ウミ! お願い! 私たちの思いを伝えて!」

桜木町/戦前の決意

「桜木町って、こんなに変わっちゃったの?」
ウミは桜木町の様変わりに驚いた。駅が修繕され、道路が広くなって、人通りが増えている。
「わずか数年で、ここまで変わってしまうなんて」
今、こうしているあいだも古い建物が壊され、新しい建物に置き換えられている。まるで巨大な生物がどんどん成長しているようだ。生徒会長がつぶやく。
「以前の僕なら、変化は悪と決めつけていただろう。古い町並みを残せ、なにも壊すな、なにも動かすなとね。でもちがう。そういう視点でカルチェラタンを残したいわけじゃない。そうだよな?」
「あぁ」と同意するシュン。
「そのことを教えてくれたのは松崎さん。あなただ」
「私が?」
「今のうちに言わせてほしい。松崎さんがカルチェラタンとぼくらを変えてくれた。だから今日、ついてきてもらった。今日の直訴でカルチェラタンがなくなったとしても、 あなたがしてくれたことは無意味じゃない」
「おい、水沼」
「わかってる。カルチェラタンをあきらめるつもりはない。ただ、見届けてほしいんだ」
徳丸理事長のビルに到着した三人は、ぐっと気を引き締めて入っていった。

桜木町/徳丸理事長との面会

三人は徳丸理事長と面会し、カルチェラタンの存続を訴えた。生徒会長とシュンが熱弁をふるう。理事長は思っていた以上に理知的な人物だった。

「結論ありきの意見をぶつけられると思っていたが、きちんとスジが通っている。
 そのとおりだ。
 やみくもに古いものを切り捨てるのはおかしい。残すべきものはある」
「では!」
「だが、カルチェラタンはあまりに古い。
 ふたたび震災が起きたら建物はぺちゃんこだ。
 それで生徒が何人死んでもかまわないと言えるか?」
「……」
「私もカルチェラタンの住人だった。
 あそこを潰すのは忍びない。
 だがそれ以上に、生徒の安全が優先される。そうだろう?」
「ですが!」
そのとき、ウミが提案した。
「理事長。カルチェラタンの調査は、いつ、されたのでしょうか?」
「昨年の春だ」
「では、現在のカルチェラタンをご存じないのですね?」
「そうだ」
「過日、カルチェラタンは大掃除をしました。積み重なっていた古道具や紙の束は廃棄され、手すりや窓枠は修繕されました。風通しもよくなっています。
私は建築のことはよくわかりませんが、以前より安全になっていると思います」
「そ、そうです! 閣下、もう一度! もう一度、調査をお願いしたい! カルチェラタンは変わったのです!」

熟考の末、理事長はいった。
「わかった。では明日、調査員を派遣しよう」
「明日? あまりに急な」
「準備する間がないというのかね? きみたちは試験前だけ勉強すればいいと思っているのか?」
「いえ。そういうわけでは」
「追加調査は午前中に終わる。放課後、私もお伺いして、結果をみなに伝えよう。しかし調査の結果、危険な建物と判明したときは、取り壊しに賛成してくれるね?」

「は、はい」
承知するしかなかった。

桜木町/路上のわかれ

会談後、生徒会長は方方に電話して、カルチェラタンの危険物は今夜中に撤去されることになった。しかし予断はできない。追加調査の結果が駄目なら、もう反対する理由がなかった。

「ごめんなさい。私がよけいなことを言ったばかりに」
「いや、松崎さんはまちがっていない。チャンスができたんだ。これ以上は望むべくもない。明日の調査結果がどうなろうと、素直に受け入れよう。科学と法律をおざなりにしたら、ぼくらの立つ瀬はない」
「だが、大人たちがズルをする可能性もある!」
「それはズルを確認してから考えるべきことだ」

桜木町/上を向いて歩こう

生徒会長が去って、シュンとウミが残された。
ふたりで歩いていると、シュンが沈黙を破った。
「今日はありがとう。助かったよ」
「いえ……」
「謙遜しなくていい。あんな偉い人相手に、きちっと話してくれたんだ。ありがとう」
「ちがうの」
「なにが?」
「みんな、私のことを褒めてくれるけど、ちがうの。私はただ、できることをやってるだけ。なにも考えてないの。カルチェラタンも、伝統も、文化も、学校も、みんなのことも、どうでもいい。私は、なにも考えてない」
「ウミ……」
「私、風間さんが好き。たとえ血がつながっていても、兄妹でも、あなたが好き。あなたと一緒にいたい」
「……おれもだ」

「まだ混乱して、よくわからないけど、私のこと、きらいにならないで。そばにいられなくてもいいから……。私、好きなの。お父さんとか、お母さんとか、関係なくて、私……」

ウミはぽろぽろ泣き出した。
シュンは周囲を警戒してから、ウミをぎゅっと抱きしめた。ウミはびっくりするが、そのままシュンの背に手を回し、しがみつくように泣いた。

「私ね、私ね……」
「なにも言うな。言わないでくれ」

(間)2人がセックスしたかもしれない時間。

ほどなく、ふたりはわかれた。
しばらく歩くと、また涙がこぼれそうになった。なのでウミは、上を向いて歩いた。

(曲)上を向いて歩こう

コクリコ荘/母親の帰国

コクリコ荘に帰ると、母親がもどっていた。アメリカから一時帰国したのだ。再会を喜ぶ母と娘。

その夜、ウミは母親の部屋を訊ねて、シュンのことを問うた。
「そうね。ちょっとややこしい話かもしれないわね」
母の話によると、シュンは雄一郎の子ではなく、立花夫妻の子だった。古い写真の中央に映っていた人物である。立花夫妻は事故で亡くなり、赤ん坊だけ助かった。放っておけば孤児院に入れられてしまうため、雄一郎は自分の子として役所に届け出た。しかし雄一郎は船乗りだし、良子は妊娠中だったから、赤ん坊を育てる余裕はない。そこで風間夫妻にあずけることにした。

(回想)
風間氏は、詳しい事情を聞こうとしなかった。
「なにも言うな。言わなくていい。今日からおれの子だ。おれがしっかり育てる」
風間夫婦が赤ん坊を抱きしめる。

「もしその子が、本当にお父さんの子どもだったら?」
「その子が? 考えもしなかったわ。そうねぇ、あの人がよそで子どもを作っていたとしたら? ふふ、会ってみたいかしら?」
冗談めかして答えたが、ウミが泣き出したのを見て、良子はまじめになった。娘を抱き寄せ、髪を撫でる。
「その子のことが好きなのね?」
「うん」
「兄妹じゃないかって、不安だったのね?」
「うん」
「大丈夫よ。あなたのお父様はそんなに器用じゃない。でも、やさしい人だった」
「うん」

ウミを寝かしたあと、良子は電話をかけた。

「あ、風間昭雄さんですか?
 私、沢村雄一郎の妻、良子です」

カルチェラタン/調査結果

翌日の放課後、徳丸理事長を乗せた車が港南学園にやってきた。カルチェラタンを視察したあと、壇上でマイクを受け取った。

「私は港南学園の卒業生であり、カルチェラタンの住人だった。しかし私の在校時より、今のカルチェラタンの方が新しい! この建物がいかに愛されているか、よくわかった。だが! 安全性の判断は厳格に行われた!」

生徒たちの顔が強張る。

「調査の結果、カルチェラタンの劣化は見た目より進んでおり、このまま使用しつづけることはできないとわかった!」

「り、理事長!」
「そんな!」
「ま、ま、まってください!」
生徒たちが声を荒げるが、理事長は手で制する。

「だが、補修工事をすれば安全性を確保できることもわかった。よって取り壊しは撤回する!」

「お、お、おおおおーーーー!」
理事長は拍手喝采を浴びた。次いで生徒会長に拍手が送られたが、
「すべて松崎さんとシュンの功績だよ」
と躱す。

生徒たちはふたりを取り囲み、歓声を上げた。困り果てるウミを見かねて、シュンが壇上に立って、音頭を取った。三三七拍子で、場を仕切る。もみくちゃにされながら、ウミはうれし涙を浮かべた。女生徒たちに、もらい涙が伝染していく。カルチェラタンは熱狂に包まれていた。

校門、桟橋、洋上/真実へ

ウミとシュンが校門を出ると、風間昭雄が待っていた。
「父さん? どうして?」
「おまえの父親を知る人物が港に来ている。いまを逃すと、外国航路で何年も帰らない。タグボートを寄せてある。会っておけ」

シュンは身を乗り出したが、立ち止まり、ウミに手を差し伸べた。

「行こう」
ウミは躊躇するが、その手を取った。
「はい」
桟橋からタグボートに乗って、洋上へ。

「怖いか?」
「……怖い」

震える肩に、シュンが手を重なる。

「あれを見て」
シュンが指さした方向に、コクリコ荘の信号旗が見えた。はじめて海から見た。

《安全な航行を祈る》

高波に船が大きく揺れたが、ふたりは支えあい、倒れなかった。

航洋丸/真実を知る人

航洋丸に接舷して、艦橋へ。そこにいたのは船長・小野寺善雄だった。古い写真に写っていた3人目の人物。

「きみの父親は立花洋だ。その写真に写っている。隣に沢村もいる。私たちは親友だった。きみのご両親が亡くなった時、私は海に出ていた。そうでなかったら、私だって沢村と同じことをしていたと思う」

「立花も沢村も逝ってしまったが、いまここに、あいつらの息子と娘がいる。こんなにうれしいことはない。ありがとう」

シュンとウミは、小野寺と握手を交わして、船を下りた。

航洋丸は錨を上げて、横浜港から旅立っていった。

コクリコ荘/いつもの朝、エンディング

今日もウミは、コクリコ荘の庭から信号旗を揚げる。起きてきた店子がたずねる。

「シュンくんにメッセージを送っているのね」
「ちがうわ」
「それじゃ誰に?」
「誰かに」
「誰かって?」
「誰かよ」

ウミが笑顔を見せた。

《おわり》

雑記

整理しただけ。

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