創作

ショートショート

第51話:モリアーティ

「今回も解決できましたね、教授!」 ジェーンの賞賛に、教授は不機嫌そうにそっぽ向いた。「ふん」と鼻を鳴らすが下品さはない。すねても英国紳士だった。「個別の事件を解決しても意味ないね。背後の大悪党を捕らえないと」「でも、教授がいなければ数百人...
ショートショート

第50話:シャーロック

「ホームズさんが死んだって、本当ですか?」 真っ青な顔で叫ぶレストレード警部に、ワトソンは静かにうなずいた。「ライヘンバッハの滝で、モリアーティ教授もろとも滝壺に転落しました」「ど、どうなってるんです?」 ワトソンはこれまでの経緯を話した。...
ショートショート

第49話:アレルギー×アレルギー

「えぇ! 自宅で海老を食べてるのー?」 トモミの告白に、素っ頓狂な声をあげてしまった。居酒屋の注目が集まる。「チーちゃん、声が大きい」 私たちは身体をかがめ、小声で話すことにした。女2人で内緒話をしているみたい。 トモミは職場の後輩で、とて...
ショートショート

第48話:あらしのよるに流されて

「男と女の友情は成立するのかしら?」  サヨコの質問に、ぼくは唾を飲み込んだ。 (どうして、いま、そんなことを訊くんだろう?)  ぼくの答えを待たず、サヨコは言葉をつないだ。 「私は無理だと思う。男と女が友だちでいられるのは、欲情してないと...
ショートショート

第47話:無礼講の罠

「今夜は遠慮なく意見を聞きたい。無礼講で話し合おう!」 合宿初日の夜、全従業員を集めたホールで、社長が宣言した。 だが、その言葉を信じる従業員はいない。なにを言おうと変わらないものは変わらないし、変わるものはいずれ変わる。あえて冒険する必要...
ショートショート

第46話:悪魔の弁護

「私、悪魔なんです」 少女は抑揚のない声でつぶやいた。 つややかな黒髪と、白いブラウスの対比が印象的だ。しかし接見に訪れた弁護士は、発言を聞き流した。「きみは無罪だ。ぼくがついてる!」 鼻息の荒さに、少女は肩を落とした。「いいえ、私は有罪で...
夢日記

第22夜:汗をかく死体

気がつくと、地下室に閉じ込められていた。 壁も床も鋼鉄製で、無骨なリベットが打ち込まれている。頑丈なコンテナのようだ。 壁の向こうから、膨大な質量が伝わってくる。鋼鉄製の壁や天井は、地中の圧力からこの空間を守っているのか。(ここはどこだ? ...
ショートショート

第45話:モテモテの代償

「おれをモテモテにしてくれる? なんで?」 トシオの質問に、黒服の男は汗をぬぐいながら答えた。「理由は、その、ご説明できませんが、はい、モテモテになります」 サングラスで男の目は見えないが、怖い印象はない。トシオは状況を整理した。 トシオは...
夢日記

第21夜:味のない人生

夢の中で、私は小学校の先生になっていた。 受け持ちのクラスに、味覚のない少女がいる。外見に変わったところはないし、成績も言動もふつう。しかし集団の中では目を引く存在だった。私の先入観のせいかもしれない。 なぜ味覚がないのか? 理事長の話によ...
夢日記

第20夜:なつかしエール

久しぶりにぐっすり眠れて、目覚めのいい朝だった。 背広に着替えて、会社に向かう。すると駅で昔の友人Mに出会った。「数年ぶり? いや十数年ぶり?」 さいわい向こうも私を覚えていたので、駅のホームで立ち話をする。 気がつくと足下の鞄がない。盗ま...
ショートショート

第44話:夫婦の食卓

「ちょっと! あんた、味がわかってんの?」 ある日、晩飯を食べていたヒデは、嫁さんに注意された。突然だったので、なんに怒っているのかわからない。相づちを打ちつつ、直前の状況を思い出す。えぇと、晩飯を食べていたら「おいしい?」と聞かれて、「う...
ショートショート

第43話:弔問客

「ご主人からお借りしていた本をお返しします……」 主人の先輩にあたる紳士は、袱紗に包まれた本を取り出した。 きょうは主人の告別式。厳格で、口うるさく、殺しても死ななそうだった人だったけど、突然の発作であっけなくこの世を去ってしまった。たくさ...
ショートショート

第42話:ガードレール

「こらっ! 道を外れちゃ駄目じゃないか」 登山コースから外れた子どもを見つけた私は、列に戻るよう注意した。しかし最近の小学生は先生の言うことを素直に聞いてくれない。「立ち入り禁止じゃないのに、どうして行っちゃ駄目なの?」「そんな命令を出す権...
ショートショート

第41話:最果ての戦場

「ちくしょう! 司令部はなにを考えてるんだ?」 レイジ少尉はゴミ箱をけっ飛ばした。おれは肩をすくめ、読書に集中しようとしたが、レイジの怒りは収まりそうにない。やむなく本を閉じて、話を聞いてやることにした。「聞いてくれ! 司令部は能ナシだ!」...
ショートショート

第40話:愛し方、愛され方

「やっぱり別れよう」 ケイスケさんは突然、切り出した。結婚して半年。これからと言うときに信じられない。「やっぱり、ユリ姉さんのことが忘れられないのね」 目を伏せ、ふるふると首を振るケイスケさん。「そうじゃない。ユリは関係ない」「うそっ!」 ...
ショートショート

第39話:予定があると安心する

「お客さんは、フランスの哲学者ジャン・ギトンをご存じですか?」 窓の外をぼんやり見ていた私に、運転手が話しかけてきた。本当に話し好きな運ちゃんだな。浮かない声で「知らない」と返事したが、運ちゃんは気にせず語りはじめた。「戦時中、ギトンは砲火...
ショートショート

第38話:恋する心臓

「恋をしてるのは、あたしの心臓かもしれません」 なぜここで恋の相談を? と思ったけど、サトコの表情がこわばっていたので、話を聞くことにした。胸をぎゅっと押さえて、サトコは話しはじめた。 復学したサトコは、高校の美術教師を意識するようになった...
夢日記

第19夜:クローズド・サークル

(犯人がわかったッ!) 私は心の中で叫んだ。 と同時に、それが顔に出なかったか不安になった。心臓がバクバク鳴っている。へ、平静を装わなければ。なぜって、その犯人が目の前にいるからだ。「なにかわかりましたか?」 私は首を振って、彼(仮にAとす...
夢日記

第18夜:飛行船の秘密

「この飛行船は墜ちる!」 初めて乗った飛行船(ヒコーキではない)。興奮して、船内を探検していたら、とんでもないものを見つけてしまった。気嚢に新型兵器が隠されていたのも衝撃だったが、その護衛隊(自衛官?)が全滅して、テロリストの手に渡っていた...
夢日記

第17夜:悪魔の手錠

「強盗の現行犯でおまえを逮捕するッ!」 逃走する若者を羽交い締めにして、手錠をかけた。死にものぐるいで抵抗する若者に、死にものぐるいでヘッドロックする。ぐきりと音がして、動かなくなった。首の骨が折れたらしい。(ま、また殺してしまった!) こ...
ショートショート

第37話:ホトケの舌

「どうなさいました? 部長」 ミカに声をかけられ、我に返った。 打ち合わせがてら食事をするため、レストランにやってきた。そこでグラスに入った水を飲んでいたんだ。「なぁ、ここの水はうまいよな?」「え? あぁ、そうですね。 ちゃんと濾過してるみ...
ショートショート

第36話:壁の向こう側

その国の端っこに、大きな"壁"があった。 壁の向こう側を見たものはいない。 より正確には、壁の向こう側を見たものは例外なく、こちらに戻ってこないのだ。だから壁の向こう側がどうなっているのか、誰も知らなかった。 国民の多くは、壁に興味を示さな...
ショートショート

第35話:動機

「やっぱりキョウコが犯人ですよ!」 調査結果を見て、おれは断言した。 しかし警部は首をかしげている。納得できてないようだ。「うーん、動機がなぁ……」「明らかじゃないですか、すべて嫉妬ですよ」「嫉妬? なんで実の妹に嫉妬するんだ?」「自分より...
ショートショート

第34話:同伴者

「あ、今のところ、右です」 ノリコに指摘されて、ハッとなる。 しかしもう遅い。車はそこそこのスピードで走っている。過ぎてしまった交差点を振り返る余裕はない。「いいや。このまま行くよ」 バイパスに入れなかったので、30分くらい遠回りになるけど...
夢日記

第16夜:食の安全

食品の"自然度"表示が義務化された。 "自然度"とは、その食品がどのくらい自然かを示す値。なにも手を加えず、野生の近い状態で収穫されると高く、農薬を使ったり、窮屈な厩舎で育てると低くなる。 食の安全を考えるとき、自然度はトレーサビリティ以上...
ショートショート

第33話:裸の女王様

『裸の王様』ってさ、どうしてハダカになっちゃったのかな? いくら王様がバカでも、いきなり透明な服は着ないと思うんだよね。つまり、いくつかの段階を踏んでから、ハダカになったと思うんだ。 はじまりは、ちょっと変な服だったと思う。 王様本人も「ち...
夢日記

第15夜:ウルトラマンの甘露煮

海エルフと陸エルフの猛攻によって、城は陥落寸前だった。 いろいろ不備もあったが、海エルフの強靱さは計算外だった。海の生物を地上に出すと、すごいパワーを発揮するんだな。あなどっていた。 しかも城下町ではウルトラマンが暴れていた。ビガーッとスペ...
ショートショート

第32話:恋の呪い

「どうしたらわかってもらえるんだ?」 ぼくは怒鳴った。こうなったらハルカにすべてを話すしかない。「ねぇ、ハルカ。 きみは、ぼくのことを好きだと思っているんだろ?」「えぇ、愛してるわ」「でもね、それは嘘なんだよ」「どうして私の気持ちが嘘になる...
ショートショート

第31話:読書する力

「カズユキ、今こそおまえの協力が必要なんだ!」 革命志士であるおれは、カズユキの家で机を叩いた。しかしカズユキは動かず、本を読みつづけている。今日という今日は説得してやる。 おれとカズユキは幼なじみ──。 ふたりとも資産家の家に生まれたので...
ショートショート

第30話:アラン・スミシー

「えぇと、アラン・スミシーをご存じですか?」 私が黙っていると、電話の向こうの担当者はていねいに説明してくれた。「アラン・スミシーは映画監督の名前です。 いくつかの映画のクレジットに、その名を見ることができますが、実在の人物ではありません。...