第19夜:クローズド・サークル

2008年 夢日記
第19夜:クローズド・サークル

(犯人がわかったッ!)

 私は心の中で叫んだ。
 と同時に、それが顔に出なかったか不安になった。心臓がバクバク鳴っている。へ、平静を装わなければ。なぜって、その犯人が目の前にいるからだ

「なにかわかりましたか?」
 私は首を振って、彼(仮にAとする)にブックマッチを返した。重要な証拠品を犯人に返すなんて馬鹿げてるけど、返さなければ、私が"なにか"に気づいたことを気づかれる。そうなったら私も殺されかねない。

「吹雪、やみそうにありませんね」
 窓の外を見ながら、Aはつぶやいた。なにやら意図を感じるが、つっこむのは危険だ。適当に相づちを打って、ここは寒いからロビーに帰ろうと提案。私とAは死体のある部屋に鍵をかけ、みんなが待つロビーに降りていった。

 状況は『かまいたちの夜』にそっくり。
 スキー旅行で泊まったペンションで、殺人事件が発生する。ところが吹雪がひどくなって、警察を呼ぶことができない。誰も出られない、誰も入れない。ゆえに犯人は、この中にいる!
 ペンションは「クローズド・サークル」になっていた。

 ロビーに集まった宿泊客は、部屋ごとにチームを作って、互いに距離をとっていた。そりゃそうだ。犯人がいるとしたら、別の部屋の人間だと思う。だがより厳密には、自分以外の誰かなのだ。

 あろうことか犯人は、同じ部屋にいる友人Aだった。
 私たち4人は、高校時代からの友人同士。しかしAがなぜ犯行に及んだのか、殺された宿泊客とどんな関係だったのかはわからない(それを調べるのは警察の役目だ)。わかったのは、Aのアリバイを証明するために私たちが配置されたと言うこと。Aはこの旅行の発案者であり、幹事だった。

 推理小説では、犯人は最後に判明する。なのに私は、序盤で気づいてしまった。どうしよう? 吹雪がやむには数日かかる。それまで沈黙を守れるだろうか? Aは、私がよくしゃべる相手なので、急に距離を置くことはできない。「問うに落ちず語るに落ちる」というが、どこかでボロを出すかもしれない。

 こんなことなら、トリックに気づかなければよかった
 Aの目的は私たちにアリバイを証言させることだから、おとなしくしていれば殺されることはないのだから。

 と思っていたら、友人Cが殺されてしまった。
「だ、誰がこんなことを!」と絶句するAに、(おまえが殺したんだよ!)と内心つっこむ私。ヤバイ。おそらくCもトリックに気づいたのだ。だから殺された。ヤバイ。ものすごくヤバイ。Aは昔から「やるときはやる男」だった。

 Cが死んだので、私たちの部屋は3人になった。
 私とA(犯人)、そして友人B。
 Bは自分なりの推理を披露しはじめた。しかし急に口ごもって、私の方をちらちら観るようになる。どうやらBも犯人に気づいたようだ。そして私が気づいていることに、気づいていない。
(や、やめろ。こっちを見んな! サインを送るな!
 私が気づかないふりをしていることに、なぜ気づかない!
 空気を緊張させないでくれ~)

 ふとAの表情が変わった。Bが気づいたことに気づいたようだ。しかしBは私に気をとられ、Aに気づかれたことに気づいていない。このままだとBもAに殺されてしまう。

 トイレに行きたくなった。
 私だけ部屋を出れば、たちまちBは殺されるだろう。しかしBを連れていけば、私も気づいたとみなされ襲われる。生き残るためには、つねにA(犯人)と一緒に行動しなければならない。殺人犯と連れションか? それはイヤすぎる。

 ヤバイ、動けない。このままでは漏れちゃう
 まじでどうする?

 ……という夢を見た。
 犯人のトリックが秀逸で、小説のネタになると思っていたけど、目が覚めると忘れてた。「左利きに見せかけた右利きの犯行」というトリックを、私はどうやって解いたのだろう?

 後半パート、部屋での葛藤はひどかった。
 Bが殺されて、私とAが二人きりになった場合、私はAに「トリックを解けないボンクラ」「Bより馬鹿」と思われたことになる。それは我慢できないので、自分から「わかった!」と手を挙げそうになった。
 秘密は手に入れるより、手に入れたあとの管理が難しい。