[妄想] 人造人間ハカイダー Mechanical Violator Hakaider (1995)
2011年 妄想リメイク「ハカイダーは還ってくる。おれたちが破壊の恐怖を忘れたら...」
まえがき
『人造人間ハカイダー』は1995年の特撮映画。『人造人間キカイダー』に登場した悪役ハカイダーを主役している。リファインされたハカイダーはかっこよかったが、物語はパッとしなかった。ハカイダーの行動に一貫性がなく、よくあるヒーローになっていた。原典の要素もぜんぜん使われてない。これじゃハカイダーを名乗る意味がない。
そこで、自分が見たかった展開をシノプシスにまとめてみた。
覚醒
オープニング
悪の科学者、プロフェッサー・ギルが人類に宣戦布告した。ギルが率いるロボット軍団によって、世界中の都市が蹂躙された。すべての希望が失われたとき、一体のロボットが立ち上がった。光明寺博士が作った人造人間、キカイダーである。完全な良心回路をもったキカイダーは、比類なきパワーでギルのロボット軍団を圧倒した。
大戦後、光明寺博士は生き残った人々のために、理想郷《ジーザスタウン》を設計した。キカイダーは守護神となり、人々は平和に、快適に暮らしていた。
そして100年が経った。
ギルの塔|ハカイダーの覚醒
暗闇に火花が散って、鉄の扉が開いた。反政府ゲリラが入ってきて、灯りをつける。闇の中に浮かび上がったのは、何重もの鎖につながれたハカイダーだった。ハカイダーは大戦末期、ギルがキカイダーを倒すために作った最終兵器である。しかし起動前にギルが殺され、そのまま封印されてしまったのだ。
「これさえあれば、タウンの支配を打ち破れる!」
片っ端から電源を入れていくが、起動しない。エネルギーは十分あるのに?
そこへタウンの警備兵が突入してきた。激しい銃撃戦。その音にハカイダーが反応した。装置に電流がほとばしり、ハカイダーが目覚める。鎖を引きちぎり、タウンの警備兵をなぎ倒す。警備兵は撤収した。
「よくやったぞ」
ゲリラBがハカイダーの肩を叩こうとしたら、ごきり、と音がした。手首が折れている。ハカイダーはゲリラも見境なく攻撃しはじめた。
そのとき、笛が響いてハカイダーの動きが止まった。
「ミツコ、《ギルの笛》は有効だったのか!」
ハカイダーが人間体(サブロウ)に変身する。笛で制御できるか半信半疑だったが、これで証明された。
「本当に大丈夫なのか?」不安がるゲリラたち。
サブロウは返事をしない。しゃべれないのか、しゃべらないのか。しかし頬をつつかれても抵抗しない。リーダーが撤収を宣言する。サブロウの面倒はミツコが見ることになった。ミツコに命じられると、素直についていくサブロウ。
「リーダー、なぜ警備兵にここが? まさか......」
「わかってる。だが、今は口にするな」
「はい」
塔を去るとき、サブロウは風に中にしわがれた男の声を聞いた。
《キカイダーを破壊せよ》
潜伏
市長室|市長とキカイダー
タウンの市長室で、若き市長が都市を見下ろしていた。ヘッドセットをつけた市民が規律正しく行動している。白いキカイダーが入室し、報告する。
「ハカイダーが覚醒しました」
「プロフェッサー・ギルの遺産か......」
「いかがいたしましょう?」
「ハカイダーに用はない。だが、わかっているな」
「はっ、ハカイダーの脳殻は私がもぎ取ってきます」
アジト
アジトにもどったゲリラたち。ハカイダーに弾薬を補充しながら、ミツコが事情を話す。
「大戦後、タウンは限られた資源を効率よく配分した。そして人間が争いを起こさぬよう、徹底的に管理した。その最たるものが、良心回路よ」
そう言って、ヘッドセットを見せる。
「良心回路を装着された市民は、絶対に悪いことができない。つまり自分の意志を失って、奴隷になるの」
「おかげで犯罪発生率は0だがね」と茶々を入れるゲリラA。
「おれたちは良心回路の故障で解放されたってわけだ」とゲリラB。
リーダーがつづける。
「良心回路がないと、市民としてのサービスは受けられない。おれたちは居場所を失って、ゲリラになった。だが、もう市民に戻るつもりはない。タウンを破壊して、市民を解放するんだ!」
サブロウは返事をしない。
「こいつ、話を聞いているのか?」
じろりと睨まれ、たじろぐゲリラA。
「まぁ、ロボットには興味のない話か。
とにかく最大の障害は、タウンの守護神であるキカイダーだ」
その名に反応するサブロウ。顔を上げる。
「キカイダーを破壊してくれ」とリーダー。
一瞬、ギルの顔が見えた。
100年前のギルの塔|フラッシュバック
気がつくと、サブロウはギルの塔に座っていた。周囲が新しい。これは大戦末期の記憶だ。
「おのれ、光明寺。わしのロボット軍団をよくも!」
「良心回路が、わしの支配を拒絶するとは...」
「このままギルが敗北すると思うなよ...」
ギルの声がこだまする。
そこへキカイダーが突入してくる。キカイダーに腹を貫かれるギル。大量の血を吐いて倒れる。とどめを刺そうとするが、光明寺から通信で脱出が命じられる。
キカイダーが去ったあと、血まみれのギルがハカイダーにすり寄る。
「破壊だ。キカイダーを破壊せよ......」
狂気の目だ。
意識が現実に戻って、サブロウはリーダーに頷いた。
急変
アジト|急襲
見張りが世間話に興じていると、いきなり首が落ちた。タウンの警備兵が急襲したのだ。
「どうしてここが?」
戦闘。サブロウもハカイダーに変身して、警備兵をやっつける。ハカイダーは警備兵より強いが、キカイダーの乱入によって立場が逆転する。キカイダーはさらに強い。パワーで圧倒される。
《キカイダーを破壊せよ......》
頭の中で声が大きくなる。声がうるさくて、戦いに集中できないようだ。
「哀れだな、ハカイダー。ギルの呪縛に囚われたままか?」
キカイダーが嗤う。
そのとき、ゲリラBが閃光弾を投げて、キカイダーを攪乱。そのすきに地下に逃れた。
しかしキカイダーは追わない。ゲリラの位置はモニターされていた。
下水道|内輪もめ、自由の弊害
下水道を走りながら、ゲリラはもめていた。
「裏切り者がいるんだ!」「仲間同士でもめてどうする?」
「良心回路があれば、裏切り者は出ない」
「バカいうな。奴隷に戻れっていうのか?」
「それを願っているヤツもいるんじゃないか?」
「よせ!」
「しかし、これからどうする?」
「アジトがなくなった以上、これ以上の潜伏は無理だ。このままタウンに突入しよう」
「わかった」
核心
タウン地下|裏切り者
下水道を出たところで、ふたたび警備兵に取り囲まれる。
「やっぱり行動が筒抜けだ! 誰が裏切ったんだ?」
サブロウが変身しようとすると、ミツコが笛を吹いて止めた。頭を抱え、行動できないサブロウ。
「ミツコ?」
我に返って、驚くミツコ。
「ち、ちがう。私じゃない。私は!」
頭上からキカイダーが声をかける。
「ご苦労だった。MK340号。任務を解除する」
ミツコが絶叫をあげると、表情が変わった。瞳の色がちがう。
「ミツコ、おまえ......」
「私はMK340号。ミツコは仮想人格だ。
おまえたちにギルの塔を見つけさせるため、潜入していた」
ショックを受けるゲリラたち。サブロウが攻撃しようとするが、あっさりミツコに転ばされる。思うように動けないサブロウ。そこへキカイダーが降りてきた。警備兵がサブロウを拘束する。
「ハカイダーよ。おまえの頭蓋にはギルの脳殻が入っている。おまえはギルの人形なのだ」
その言葉で、記憶がフラッシュバックする。
100年前のギルの塔|フラッシュバック
《100年前、ギルは自分の脳をおまえに移植したんだ》
キカイダーの説明で記憶がよみがえる。
血まみれのギルが、自動手術椅子に座っている。
「キカイダーを破壊しろ。そして光明寺博士を殺すんだ! 我がボディ」
ギルがスイッチを押す。手術がはじまる。塔が崩れていく。
《おまえは人形だ。ギルの乗り物でしかない》
タウン地下|呪縛からの解放
ゲリラAがミツコに飛びかかるが、あえなく殺される。
「すべてを! すべてを破壊してくれ! ハカイダー!」
サブロウが変身し、ハカイダーになる。警備兵をなぎ倒すが、ミツコの笛に勝てない。
ハカイダーは自分の頭を撃ち抜いた。
脳漿が飛び散る。死んだかと思われたハカイダーだが、目がらんらんと輝いていた。ギルの呪縛から解き放たれ、パワー全開になった。
一撃目でキカイダーの腕を切り落とす。キカイダーは地下に落ちていった。
そのままミツコの首をつかむ。力がこもっていく。
「ま、待って! 殺さないで!」
MK340号がミツコの人格を復活させる。が、ハカイダーは無視して、ミツコの首をへし折った。
「サブロウ...」
涙を流すミツコが機能停止する。
ハカイダーが雄叫びを上げた。
「勝ちどきなのか? 啼いているのか?」
ゲリラBがつぶやく。
暴虐
タウン武器庫|キカイダーの執念
瀕死のキカイダーは、新たな武器を探していた。
「私が負ける? 負けるはずがない。負けてはならない!」
パワードスーツをまとって、体躯が数倍になる。警備兵をなぎ倒しながら、ハカイダーを探す。
タウン市長室|創造者
タウン市長室に突入したハカイダー。中央良心回路を破壊すれば、タウンは崩壊する。だが、操作盤の前には市長が立っていた。ハカイダーを見ても動揺していない。
「来たか、ハカイダー。いや、プロフェッサー・ギル。
わしじゃ、わしじゃ、光明寺じゃ」
市長も、ミツコと同じくロボットだった。その頭蓋には、光明寺博士の脳殻が入っている。
「ギルよ、あれから100年だ。タウンは快適に運用されているが、さらなる高みを目指すため、おまえの協力が必要だ。だからミツコを送り込んで、おまえの封印を解いたのだ。わしと世界を統治しないか?」
市長(光明寺)は気がついた。ハカイダーの頭蓋が破壊されていた。
「の、脳がない! ギ、ギ、ギルは? おまえはダレだ!」
ハカイダーのショットガンが、市長の頭を吹き飛ばした。
タウン市長室|決戦・人造人間
制御板の前に立つと、壁をぶち抜いてキカイダーが乱入してきた。パワーアップしたキカイダーは強かったが、ハカイダーはもっと強かった。しかしハカイダーはとどめを刺さない。
「なぜだ? なぜ私を破壊しない?」
ゲリラたちが動揺する。
「おい、見ろ!」
「あの色」
白かったキカイダーは、赤と青に分離していた。自分の姿に気づき、絶叫するキカイダー。
「良心回路が不完全になって、善と悪の狭間に落ちたんだ...」
キカイダーはいつまでも泣きつづけた。
終章
エピローグ
良心回路を手にしたゲリラがもめている。
「これで市民を解放できる!」
「いや、急激な変化はよくない」
「この装置を使えば、おれたちが新たな支配者になれるんだ」
結論を待たず、ハカイダーが制御板を破壊する。去っていくハカイダーに、ゲリラBがつぶやく。
「ハカイダーは還ってくる。おれたちが破壊の恐怖を忘れたら...」
バイクで疾走するハカイダー。ヘッドセットを捨てて、自由になる市民。傷ついたキカイダーを、市民が助けてくれる。夜が明ける。ハカイダーは去っていった。
《おわり》
あとがき
とまぁ、こんな映画を見たかった。
ハカイダーは、キカイダーを破壊するために造られた人造人間。キカイダーを圧倒する戦闘力を持ちながら、決してとどめを刺さない。キカイダーを破壊すると、自分の存在意義が失われるからだ。誰にも支配されないが、根本的なところでは囚人と変わらない。そんなハカイダーが好きだった。
劇中の扱いはいい加減で、潜在的な魅力をが引き出せたとは言いがたい。だからこそ雨宮監督が目をつけたのだろうが、映画もまた不完全燃焼だった。
(ハカイダーはもっとかっこいいはず)
そんな思いがS.I.G.シリーズや、のちのアニメーション作品を作らせたのかもしれない。私がいま、シノプシスを書き出したのも同じ理由による。
※S.I.C. ハカイダー(脳がある)