[妄想] 零 濡鴉ノ巫女 Fatal Frame: Maiden of Black Water

2014年 妄想リメイク
[妄想] 零 濡鴉ノ巫女

母として生きるか、女として死ぬか──

まえがき

 『濡鴉ノ巫女』の雛咲深紅は、ひどい女だった。
 3歳の娘を捨てて現実逃避。成長した娘に起こされても無言。ふたたび娘を捨てて現実逃避しようとするが、追いつかれると「どこにも行かないわ」とウソをつく。母娘がいっしょになるエンディングも、「男といっしょにいられないから」という印象を拭えない。
 深紅は娘をまったく見ていない。娘は意図せぬ副産物でしかないのだ。
 まぁ、そういう母を描くのもいいが、清純派の深紅にやらせることはないだろう。どうしてもやるなら、女と母のあいだで揺れるところを見たかった。これじゃ育児放棄の色欲ママじゃないか!
 というわけで、妄想をまとめてみた。

  • 主人公は母(深紅)と娘(深羽)。
  • 舞台は過去(深紅)と現在(深羽)。
  • 母の選択が、娘の未来を決める

 ゲーム未プレイの人、ゲーム内容に満足している人は読まないでください。


【深紅】17年前 / 日上山

 雛咲深紅(ひなさき・みく)と黒澤怜(くろさわ・れい)は日上山(ひかみやま)を取材中、濃霧ではぐれてしまう。深紅が山を降りていくと(コースを紹介)、悪霊に追われる青年を見つけ、救出(チュートリアル)。ふたりは手を取り合って山荘に逃げ込んだ。

 鍵を掛け、周囲を警戒する。しばらく安全だろう。
 青年は自分がだれで、どうしてここにいるのか思い出せなかった。百年前の着物をきて、百年前の話をする。しかしふたりは強く惹かれ合った。

「あなた、私の兄さんに似てる」
「そうかい?」
「なんだか安心する」
「ぼくもだ」

 その夜、ふたりは結ばれた。

 目覚めると、青年は消えていた。霧が晴れ、怜と合流できた。
 そして、深紅の妊娠が発覚した──。

濡鴉ノ巫女
深紅は奇妙な青年と出会い、結ばれる。

【深紅】16年前 / 黒澤家

 深紅は女の子を出産し、深羽(みう)と名づけた。
 行きずりの男との情事で産まれた子だが、黒澤怜は母娘を受け入れ、家族とした。

 忙しくも希望に満ちた6年が過ぎた。

【深紅】10年前 / 悪夢

 深紅は日上山の山頂にある社で、あの青年が救いを求めるビジョンを何度も見た。なにか違和感があるものの、真実を確かめるため日上山へ行こうと決心する。
 怜は深紅を止められなかった。
 八年前の事件(刺青の聲)で怜は霊感を喪い、射影機を使えなくなっていた。

「どうしても行くの?」
「あの人が、待ってるような気がするんです。だから......」
「必ず、必ず帰ってくるのよ。深羽と待ってるから!」
「はい」

 しかし深紅は帰ってこなかった。

濡鴉ノ巫女
深紅は日上山に消えた。

【深羽】現在 / 黒澤家

 深羽は16歳になった。美しく成長したが、心を閉ざし、学校でも家庭でも浮いていた。

「深羽、どうしてあなたは......」
「私は《ありえないもの》が見える。見えない人と打ち解けるのは無理よ」
「それはわかるけど......」
「いいえ、怜さんにはわからない。怜さんには見えないから。お母さんがいてくれたら!」
「深羽!」
「ごめんなさい。でも、無理なものは無理よ」
「......」

 不器用なふたりは、互いに傷つけあった。

濡鴉ノ巫女
娘・深羽は心を閉ざしていた。

濡鴉ノ巫女
母になれない怜は苦悩する。

【深羽】現在 / 悪夢

 深羽は見知らぬ山で母が救いを求めるビジョンを繰り返し見た。独自に調べ、そこが日上山であること、10年前に母が行方不明になった場所であることを突き止める。また怜の書斎から母の手記と父の写真を見つける。

「怜さん、教えて! お母さんはどうして日上山に行ったの? 私のお父さんは誰なの? どうしてお母さんのことを秘密にするの?」
「そんなこと、知らなくていいッ!」

 怜は怒って、深羽を部屋に閉じ込めてしまった。深紅を止められなかった後悔ゆえの行動だったが、裏目に出た。深羽は部屋を抜け出し、軽装のまま日上山に向かってしまった。
 怜も後を追うが、濃霧のため入山できなくなっていた。

「あのときと同じ霧......。もう霊能力者しか入れない。
 深羽、どうか無事に帰ってきて!」

濡鴉ノ巫女
娘は母を救うべく、日上山に入っていった。

【深紅】10年前 / 度会邸

 深紅が山に入ると、霧が立ち込めた。射影機で悪霊たちを祓いつつ、山頂を目指す。
 休憩のため、6年前に訪れた山荘に立ち寄った。彼と愛し合ったベッドに身を横たえていると、美女に声をかけられた。山荘の所有者で、密花(ひそか)と名乗った。

「すみません。勝手に上がり込んでしまって」
「いいのよ。廃屋同然だし。珈琲でもいかが?」
「あ、はい」
「あなた、きれいな人ね」

 語らいのひととき。
 密花は神隠しにあった夫を探していた。密花は強い霊能力者で、悪霊も見えているが、呪符のおかげで悪霊から自分は見えないと言う(戦闘に不参加。ダメージ回復などの支援あり)。
 こうして密花は、深紅の探索に同行することになった。

濡鴉ノ巫女
密花は深紅を誘導してくれる

【深羽】現在 / 度会邸

 深羽が山に入ると、霧が立ち込めた。射影機がないため、悪霊から逃げるしかない(深紅パートで通った道を駆け抜ける)。
 休憩のため、山荘に立ち寄った。ベッドで休息していると、美女に声をかけられた。
 密花だった。10年前と同じ容姿で、10年前と同じことを話しているが、深羽にはわからない。

「すみません。勝手に上がり込んでしまって」
「いいのよ。廃墟同然だし。珈琲でもいかが?」
「あ、はい」
「あなた、かわいいわね」

 語らいのひととき。
 密花は神隠しにあった夫を探していると言う。しかし夫が自分を愛してくれていたのか、自信がないとこぼす。密花は霊能力をもつため、友だちがいなかった。夫は幼なじみで、唯一心を開ける相手だった。自分と結婚してくれたのは、同情だったのではないか。そんな思いに悩まされ続けていると言う。
 母に捨てられたかもしれないと思っている深羽は、密花に共感し、姉のように慕うのだった。

 密花は、山頂の社で見つけた射影機を手渡す(密花は悪霊に攻撃されないため、射影機は必要ない)。受け取った深羽は、これが母の持ち物であることに気づいた。そして母が悪霊に敗北し、箱に閉じ込められるビジョンを見た
「お母さんを助けないと!」
 こうして密花は、深羽の探索に同行することになった。

濡鴉ノ巫女
密花から射影機をもらう。

濡鴉ノ巫女
お母さんは箱に閉じ込められている!

【深紅】10年前 / 形代神社→ケーブルカー→幽ノ宮→山頂

 深紅は夢で見た山頂の社へ向かう。
 道中、密花の話や探索によって得られた文献から、日上山の歴史がわかってきた。

  • 日上山には隠世に通じる《夜泉:よみ》があって、放っておくと災厄を招いてしまう。人々はこれを人柱によって封じてきたが、村が衰退したことで儀式を継続できなくなった。
  • 格段に霊能力が強い少女が産まれたので、最後の人柱にすべく、特別な儀式が準備された。彼女は《濡鴉ノ巫女:ぬれがらすのみこ》と呼ばれ、大切に育てられた。村が飢えても巫女の食事は十分にふるまわれた。ある日、幼なじみの麻生邦彦が病気になったので、巫女は食べ物を分け与えてしまう。
  • その後、封印を永続させるため、伴侶をいっしょに沈めることが決まり、邦彦が選ばれた。
  • 邦彦は巫女を愛していなかったが、同情と恩から受け入れた。ふたりは結婚し、いっしょに人柱になった。
  • しかし心の不一致のため封印がゆるみ、百年を経て《夜泉》が漏れだしてしまった。近ごろ自殺者や失踪者が増えているのはそのせいである。

 深紅は、あのときの青年が麻生邦彦であることに気づく。邦彦は封印からこぼれ落ち、記憶を失い、深紅と出会った。しかし悪霊たちに連れ戻されたのだ。

濡鴉ノ巫女
麻生邦彦は意図せず深紅と浮気したことになる。

濡鴉ノ巫女
深紅パートでは、《濡鴉の巫女》の狂気が描かれる。

【深羽】現在 / 形代神社→不知ノ森→幽ノ宮→山頂

 深紅は夢で見た山頂の社へ向かう。
 地形は同じだが、建物が朽ちたり、ケーブルカーが動かない、自殺者の霊が増えたなどの差がある。深紅パートより難しい。
 道中、見つけた文献や残されたヴィジョンから、10年前に深紅に起こったことが見えてくる。

  • 深紅が愛した男──深羽の父親──の正体は、《濡鴉ノ巫女》といっしょに沈められた麻生邦彦だった。
  • 邦彦と深紅が契ったことに巫女は激怒し、夫を連れ戻した。しかし怒りは収まらず深紅も呼び寄せ、ふたりとも《黒キ澤》に閉じ込めてしまった。
  • 《黒キ澤》は時間が止まった牢獄のようなところらしい。
  • このとき日上山の各所が崩落して、観光施設が閉鎖された。

 深羽と密花は忌谷に寄り道して、《御神鏡》を見つけた。これがあれば深紅の二の舞にならない。
 準備万端だが、深羽は疑問に思う。

邦彦(お父さん)は深紅(お母さん)を愛しているのか?

[ビジョン] 17年前、邦彦は眠る深紅を置いて、自分の意志で山荘を出ていった。
お父さんは悪霊に連れ戻されたのではなく、役目を果たすため(巫女と添い遂げるため)、封印に戻った。だとしたら、私たち(深紅や深羽)が口を挟む筋合いじゃない。

お母さんは本当に閉じ込められているのか?

[ビジョン] 10年前、深紅は巫女と話をして、自分で自分の箱を開けた。
お母さんは愛する人といっしょになるため、娘を捨て、みずから封印に身を投じたかもしもしれない。だとしたら、娘の救出を望まないだろう。

残された巫女はどうなる?

[ビジョン] 百年前、巫女はひたむきに邦彦を愛していた。
愛する人に捨て置かれる悲しみを、私(深羽)はよく知っている。巫女はみんなのため、人柱になってくれた。そんな彼女から愛する人を取り上げていいのか?

「深羽はやさしいのね。
 でも悪霊に同情しちゃ駄目。同情だけは絶対にダメ
 必ずご両親を救い出すの。いいわね」

 振り向くと密花は消えていた。

濡鴉ノ巫女
深羽は巫女の心に触れる。

濡鴉ノ巫女
深羽パートでは、《濡鴉の巫女》の純真さが描かれる。

【深紅】10年前 / 山頂

 山頂の社にたどりついた。
 悪霊を蹴散らし、邦彦が閉じ込めらた箱も見つかった。あとは目覚めさせるだけ。しかし深紅はためらう。

「深紅、どうしたの?」
「私たちは、同じ人を、愛してしまった」
「え?」
「密花さん、あなたは《濡鴉ノ巫女》ね」

 邦彦の記憶を消して、外へ逃がしたのは、ほかならぬ《濡鴉ノ巫女》だった。新たな人生、新たな伴侶、新たな幸福を見つけてもらうために......。そして邦彦は深紅と出会い、結ばれた。望んだ結果だったが、悲しみで巫女の心が砕けてしまう。

 嫉妬は怪物となり、深紅を殺そうとした。
 理性は密花となり、深紅を導いた。
 純真さは幼女となり、イタズラを繰り返した。

 3つの感情が統合され、《濡鴉ノ巫女》が顕現した。
 おどろおどろしい姿だが、深紅は怖れない。
 すると巫女は、三つ指をついて申し出た。

「邦彦さんをお願いします。
 私では彼を幸せにできない。
 彼の記憶は消してあります。私に出会う前の、まっさらな彼です。
 どうぞ、よろしくお願いします」

 《濡鴉ノ巫女》の輪郭がゆがむ。呪符が消えていく。もう時間がない。
 どうする?

エンディング

  • A.自分も箱に入る。
  • B.愛する男を連れ帰る。
  • C.そのままにして帰る。

 どれを選んでも神官との戦闘で深紅は敗北、箱に詰められ《黒キ澤》に沈められる。
 そして10年の歳月が流れた。

濡鴉ノ巫女
深紅は選択した

【深羽】現在 / 黒キ澤

 山頂には《黒キ澤》が広がっていた。
 ハイパー神官、《濡鴉ノ巫女》の分身、本体と戦闘になる。《御神鏡》があれば勝利。
 浮かんできた箱を開けると、深紅と邦彦が眠っていた。あとは目覚めさせるだけ。しかし深羽はためらった。

 エンディングは母親(深紅)の選択によって決まる。

A.自分も箱に入る

10年前、深紅は自分の意志で箱に入っていた。

 目覚めた深紅は娘を拒絶する。

「私はここに残ります。
 深羽、あなたはあなたの幸福を掴んでください」

 3つの箱が閉じて、沈んでいく。もうどうすることもできない。
 ひとり残された深羽はわんわん泣いた。

生還者:深羽

濡鴉ノ巫女
母は娘より、愛する男を選んだ。

B.愛する男を連れ帰る

10年前、深紅は邦彦と生きると決めていた。

 目覚めた邦彦は巫女と結婚したことを、深紅は娘を産んだことを忘れていた。はじめて出逢った日のつづきがはじまった。ふたりは手を取り合って、山を降りていった。
 隠れていた深羽が出てきて、密花のために泣いた。

「お母さん、お父さん。私はここに残ります。
 さようなら。幸せになってください」

 深羽と密花の箱が沈んでいった。

生還者:深紅、邦彦

濡鴉ノ巫女
深羽は居場所を得た。

C.そのままにして帰る

10年前、深紅は邦彦を残して帰るところだった。

 目覚めた深紅は娘を抱きしめ、邦彦の箱を閉じてしまう。

「深羽、帰りましょう」
「え?」
「お父さんにはお役目があります。
 私には、あなたがいる」
「お母さん!」

 霧が晴れた。母娘はいっしょに山を降りていった。
 深羽が振り向くと、《濡鴉ノ巫女》と麻生邦彦の霊が深々と頭を垂れていた。しかし深紅は振り返らず、前だけ見ていた。涙も見せなかった

 黒澤怜が登ってきて、無事を喜ぶ。
 三人は町に帰っていった。

生還者:深羽、深紅、怜

濡鴉ノ巫女
深紅は母として生きる。

《おわり》

あとがき

 《濡鴉ノ巫女》を霧絵に、邦彦を真冬に置き換えれば、近親相姦が成立するが、あまり必要でないだろう。兄妹で愛しあい、セックスするのはいいが、子を産んじゃ駄目だ。コルトー家のような遺伝的退廃を招く。

 エンディングに上下はなく、どれを選んでも正解としたい。
 女として死ぬか、母として生きるか。
女として生きることと、母として生きることは、必ずしも対立しないが、対立させ、選択させることに、テーマがあると思う。