第08話:サトコの決断 ss08 しっかりした意志をもつ女性は美しい。
2005年 ショートショート「お久しぶりね」
最初、それがサトコだとはわからなかった。着ているものや化粧のせいじゃない。雰囲気がまるでちがう。ハッキリした声、私を見つめる目、背筋の伸びた歩き方。
「……き、きれいになったのね、サトコ……」
「あら、ありがと」
微笑を浮かべて、サトコは私の前に座った。絶対にちがう。こんなのサトコじゃない。
◎
サトコは私の幼なじみ。小学から中学、高校、そして大学まで、ずっと一緒だった。ずっと一緒だったけど、私たちの外見や性格は対照的だった。私は美人、サトコはブス。私は行動的、サトコは受動的。私はリーダー、サトコは従者。率直にいえば、このくらいちがっていた。
サトコは、自分でなにかを決めたことがない。
習い事、部活動、趣味、進路、服装、髪型、交友関係……。
細かいことから大きなことまで、すべて他人の指示に従っていた。
「好きな方を選びなよ」と言えば、悲しい顔をされる。
「これがお似合いよ」と決めてやれば、なんであっても喜ぶ。
そんな性格だった。
サトコの人生の多くを決めてきたのは、ほかならぬ私だった。なんでも言うことを聞くサトコを、私は疎ましく思いながらも愛していた。ところが、そんなサトコが抵抗するようになった。
サトコが好きになった男は、私がもっとも嫌いなタイプだった。
どうにも胡散臭い。軽薄な感じがする。いやらしい。私は、「あんな男とつきあうのはやめなさい!」と命令した。しかしサトコは拒絶した。信じられなかった。サトコは自分の意志で、人を好きになったのだ
祝福したい気持ちもあったが、それでも私は反対しつづけた。
ムキになっていた部分もあるけど、辛抱強く説得したつもり。それでも、サトコの意志を変えることはできなかった。サトコは、その男と結婚した。
◎
「それじゃ、そろそろ行くね」
時間が来たので、私は席を立った。
「そうね、今日は来てくれてありがとう。嬉しかった」
やっぱりちがう。でも……これでよかったのだ。
サトコが選んだ相手は、詐欺師だった。搾れるだけ搾ったあと、男は蒸発した。私は怒り、同情し、忘れるように言ったが、サトコは首をふった。そして、消えた男を追いかけたのだ。そして去年、ついに見つけだした。
刑務所を出たところで、私はふり返ってみた。
「人を殺すと、あんなにもキレイになれるのかしら?」
私はサトコに、微かな嫉妬心を抱いていた。
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