創作  2005年07月09日(土)に書いた ショートショート

第08話:サトコの決断

第08話:サトコの決断

「お久しぶりね」

 最初、それがサトコだとはわからなかった。着ているものや化粧のせいじゃない。雰囲気がまるでちがう。ハッキリした声、私を見つめる目、背筋の伸びた歩き方。
「……き、きれいになったのね、サトコ……」
「あら、ありがと」
 微笑を浮かべて、サトコは私の前に座った。絶対にちがう。こんなのサトコじゃない。

 サトコは私の幼なじみ。小学から中学、高校、そして大学まで、ずっと一緒だった。ずっと一緒だったけど、私たちの外見や性格は対照的だった。私は美人、サトコはブス。私は行動的、サトコは受動的。私はリーダー、サトコは従者。率直にいえば、このくらいちがっていた。

 サトコは、自分でなにかを決めたことがない。
 習い事、部活動、趣味、進路、服装、髪型、交友関係……。
 細かいことから大きなことまで、すべて他人の指示に従っていた。
「好きな方を選びなよ」と言えば、悲しい顔をされる。
「これがお似合いよ」と決めてやれば、なんであっても喜ぶ。
 そんな性格だった。

 サトコの人生の多くを決めてきたのは、ほかならぬ私だった。なんでも言うことを聞くサトコを、私は疎ましく思いながらも愛していた。ところが、そんなサトコが抵抗するようになった。

 サトコが好きになった男は、私がもっとも嫌いなタイプだった。
 どうにも胡散臭い。軽薄な感じがする。いやらしい。私は、「あんな男とつきあうのはやめなさい!」と命令した。しかしサトコは拒絶した。信じられなかった。サトコは自分の意志で、人を好きになったのだ

 祝福したい気持ちもあったが、それでも私は反対しつづけた。
 ムキになっていた部分もあるけど、辛抱強く説得したつもり。それでも、サトコの意志を変えることはできなかった。サトコは、その男と結婚した。

「それじゃ、そろそろ行くね」
 時間が来たので、私は席を立った。
「そうね、今日は来てくれてありがとう。嬉しかった」
 やっぱりちがう。でも……これでよかったのだ。

 サトコが選んだ相手は、詐欺師だった。搾れるだけ搾ったあと、男は蒸発した。私は怒り、同情し、忘れるように言ったが、サトコは首をふった。そして、消えた男を追いかけたのだ。そして去年、ついに見つけだした。

 刑務所を出たところで、私はふり返ってみた。
「人を殺すと、あんなにもキレイになれるのかしら?」
 私はサトコに、微かな嫉妬心を抱いていた。


(977文字)

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