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[創作] 2007年02月26日(月)に書いたショートショート

第24話:ウサギとカメと

第24話:ウサギとカメと

 あの2人を見てると、人生について考えてしまう。

 タカシとヤスオ──。
 2人は同じ年の春にやってきて、同じ仕事に着任した。2人とも若く、背格好も似ていたので、最初は区別されなかった。しかし違いはすぐ明らかになった。

 タカシは頭がよかった。
 同じことの繰り返しや無駄が大嫌いで、仕事をどんどん効率化していった。独創的なアイデアで、5日かかっていた仕事を1日に短縮するなど、辣腕を発揮した。

 一方、ヤスオは実直だった。
 同じことの繰り返しや無駄を気にしない。要領はよくないが、怠けることもない。仕事の手順は覚えるが、それを改善することはなかった。

 数年後、2人の差は歴然となった。
 タカシはチームリーダーに、ヤスオはその部下になっていた。しかしこのころから、タカシのため息をつくようになった。
「なんだか最近、疲れるんですよ」とタカシはこぼしていた。
 そりゃそうだ。仕事に終わりはない。5日分の仕事を1日で片付けても、4日遊べるわけじゃない。肉体労働から頭脳労働に切り替わっても、労働そのものはなくならない。要するにタカシは、行き詰まっていたわけだ。

 一方、ヤスオは相変わらずのペースで働いていた。
 ヤスオは効率を求めない。淡々と自分の仕事をこなすだけ。なにも考えない代わりに、なにも悩まなかった。

 今年の冬、タカシは自殺を図った。一命は取り留めたが、意識不明の重体で、まだ病院で昏っている。なんのために働くのか、なんのために生きるのか? いろいろ考えて、堪えきれなくなったようだ。もう目覚めない方が本人のためかもしれない。

 こういう結末が出ちゃうと、ヤスオの方がむしろ賢かったと言える。どのみち2人は終身刑だ。刑務所の労働で成果を上げたところで、仮出所できるわけでもない。生きているかぎり、仕事は終わらないのだから。
 今日もヤスオは働いている。この寒い中、ご苦労なこった。

 おれは、看守という仕事に感謝した。
 あの2人に比べれば、おれはずっと自由なのだから。


(814文字)

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