第25話:告知問題 ss25 今回はオーソドックスなSFでした。 これで連続6話目だけど、どうなもんですかね。 なんか一人芝居している気分になってきたヨ。
2007年 ショートショート「ちゃんと余命を告知すべきだよ」
おれの主張は、しかし親族全員に反対された。
親父の危篤を報されたおれは、実家に帰ってきた。救急措置が早かったので親父は一命を取り留めたものの、内臓のダメージはひどく、余命1ヶ月と宣告された。それで親族が集まって会議がはじまった。
つまり、なにも知らない親父に告知するかどうかだ。
「ヒロシ! あんたはお父さんの気持ちを考えないの!」
お袋は叫んだ。兄弟も親戚も同意見らしい。
「親父のことを本当に考えるなら、事実を伝えた方がいい」
会議は長引いた。
◎
会議を中座して、おれは台所で麦茶を飲んだ。
ぼんやり天井を見ていると、叔父さんが声をかけてきた。
「ヒロシ、こっそり兄貴に伝えるのは駄目だぞ」
叔父さんはおれの考えを見抜いていた。
「どうしてさ?
おれが勝手に話せば、誰の負担にもならないだろ?」
叔父さんも麦茶を飲んでから答えた。
「駄目だ。
義姉さんがヒロシを恨むことになる。なんで勝手に伝えたんだと。
告知ってのは死にゆく本人の問題じゃない。
それを見送る家族の問題なんだ」
おれは言葉につまった。
「それに、兄貴は自分の死を受け入れられないだろう。
まだ若いし、やり残したこともある。
余命1ヶ月と告知されたら、大騒動になるぞ。
もう手の施しようがないのに、高額な治療を要求されたらどうする?
アレをやりたい、コレを喰いたいと無茶を言い出したら?
告知しなければ、そうしたトラブルは避けられるんだ」
残酷だけど、たしかに真理を含んでいた。
おれは親族の決定を受け入れた。
親父はなにも知らないまま、死んでいくだろう。
しかしそれが、親父のためでもあるのだ。
◎
ひと段落ついたので、おれは職場に戻ってきた。
自分の机に座って、1枚の天体写真をながめる。真っ黒な星空に小さな点が浮かんでいた。
それは1ヶ月後、地球に衝突して、人類を滅亡させる小惑星だった──。
おれは宇宙観測センターの所長だが、この事実を公表する義務はない。
公表したところで、もう手の施しようがない。
それにセンターの望遠鏡でも見えるのだから、もう世界中で観測されているはず。にもかかわらずニュースが流れていないのは……つまり、そういうことだ。
おれも告知は控えておこう。
それが人類のためでもあるのだ。
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