第25話:告知問題 ss25 今回はオーソドックスなSFでした。 これで連続6話目だけど、どうなもんですかね。 なんか一人芝居している気分になってきたヨ。

2007年 ショートショート
第25話:告知問題

「ちゃんと余命を告知すべきだよ」

 おれの主張は、しかし親族全員に反対された。
 親父の危篤を報されたおれは、実家に帰ってきた。救急措置が早かったので親父は一命を取り留めたものの、内臓のダメージはひどく、余命1ヶ月と宣告された。それで親族が集まって会議がはじまった。
 つまり、なにも知らない親父に告知するかどうかだ。

「ヒロシ! あんたはお父さんの気持ちを考えないの!」
 お袋は叫んだ。兄弟も親戚も同意見らしい。
「親父のことを本当に考えるなら、事実を伝えた方がいい」
 会議は長引いた。

 会議を中座して、おれは台所で麦茶を飲んだ。
 ぼんやり天井を見ていると、叔父さんが声をかけてきた。

「ヒロシ、こっそり兄貴に伝えるのは駄目だぞ」
 叔父さんはおれの考えを見抜いていた。
「どうしてさ?
 おれが勝手に話せば、誰の負担にもならないだろ?」
 叔父さんも麦茶を飲んでから答えた。
「駄目だ。
 義姉さんがヒロシを恨むことになる。なんで勝手に伝えたんだと。
 告知ってのは死にゆく本人の問題じゃない。
 それを見送る家族の問題なんだ」

 おれは言葉につまった。

「それに、兄貴は自分の死を受け入れられないだろう。
 まだ若いし、やり残したこともある。
 余命1ヶ月と告知されたら、大騒動になるぞ。
 もう手の施しようがないのに、高額な治療を要求されたらどうする?
 アレをやりたい、コレを喰いたいと無茶を言い出したら?
 告知しなければ、そうしたトラブルは避けられるんだ」

 残酷だけど、たしかに真理を含んでいた。

 おれは親族の決定を受け入れた。
 親父はなにも知らないまま、死んでいくだろう。
 しかしそれが、親父のためでもあるのだ。

 ひと段落ついたので、おれは職場に戻ってきた。
 自分の机に座って、1枚の天体写真をながめる。真っ黒な星空に小さな点が浮かんでいた。

 それは1ヶ月後、地球に衝突して、人類を滅亡させる小惑星だった──。

 おれは宇宙観測センターの所長だが、この事実を公表する義務はない。
 公表したところで、もう手の施しようがない。
 それにセンターの望遠鏡でも見えるのだから、もう世界中で観測されているはず。にもかかわらずニュースが流れていないのは……つまり、そういうことだ。

 おれも告知は控えておこう。
 それが人類のためでもあるのだ。


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