第28話:無言放送 ラジオで無声映画を上映する小話がヒントになってます。
2007年 ショートショート「え? いま、なんておっしゃいました?」
ナミコに詰め寄られ、プロデューサーは汗をかきながら答えた。
「き、きみのラジオ番組は今週で終了する。これは局の決定であって……」
「そこじゃありませんッ! その前! 番組の聴衆率について」
「あぁ、それか。
地方の深夜枠だし、ナミコくんが悪いわけじゃない。ぼくも確認したけど、たしかに0だった。
つまり……きみの番組を受信している人はいないんだ」
パーソナリティを務めてきたナミコは、彫像のように硬直した。
◎
誰も聞いてなかった──。
番組が終了することより、そっちの方がショックだった。
(だったら私の2年間はなんだったの?)
この番組が好きだった。
スタッフ含めて3人でやってる番組だけど、自分も企画して、取材して、勉強して、練習して、一生懸命にやってきた。自分でも感動するほど出来がよかった回もある。ナミコにとっては宝石箱のような番組なのに、それが誰の耳にも届いていなかったなんて...。
廊下のベンチに座ったナミコは、ぼんやり天井をながめていた。紙コップのコーヒーはすっかり冷たくなっている。もう飲みたくないけど、捨てるのもおっくうだった。
ちらりと壁の時計に目をやる。もうすぐ最後の放送がはじまる。
(誰も聞いてないラジオ放送に、どんな意味があるの?
泣いても笑っても、黙っていても同じことじゃない……)
なんだか哲学的になってきた。
ナミコは首を振って、まずいコーヒーを一気に飲み干した。立ち上がって、スタジオに向かう。
(ちゃんとした最終回にしよう!)
少なくとも私は、私の番組を聞いているのだから。
◎
「お疲れさまでしたぁ〜」
打ち上げも終わって、ナミコは控え室をあとにした。当番なので、フロアを戸締まりしてまわる。
そして、灯りの消えたスタジオへ。
自分でもヤバイと思ったけど、やっぱり涙がこぼれてしまった。
「誰も聞いてなかったなんて……」
声に出すと、いっそう悲しくなった。
そのとき、コンコン、とノックの音が聞こえた。
奥にあるロッカーからだった。
開けてみたけど、空っぽだった。
(848文字)