創作  2008年06月24日(火)に書いた ショートショート

第42話:ガードレール

第42話:ガードレール

「こらっ! 道を外れちゃ駄目じゃないか」

 登山コースから外れた子どもを見つけた私は、列に戻るよう注意した。しかし最近の小学生は先生の言うことを素直に聞いてくれない。
「立ち入り禁止じゃないのに、どうして行っちゃ駄目なの?」
「そんな命令を出す権利があるの?」
 やれやれ。私は脇道の危険性や、遠足時における先生の権限について、ていねいに説明した。納得すると、子どもたちは列に戻っていった。これで遠足のステイタスがブルーに変わる。ひと安心だ。

 子どもたちの腕にはICチップが埋め込まれている。
 このICチップによって、子どもの体調や位置情報をつぶさに知ることができる。非常に便利だ。6年前から個人情報もICチップで管理されている。今どきの先生は子どもの名前やプロフィールを覚えない。ICチップで識別するからだ。へたに子どもの出自や成績を知ってしまうと、差別を起こしかねない。私にとって子どもたちは「子どもたち」という集団であって、顔も名前もない。だからこそ完全に平等な教育ができている。

 だがしかし……本当にこれでよいのだろうか?

 都市は電子化され、子どもは危険なところに近づけない。有害情報があれば感覚も遮断される。見えないガードレールというわけだ。素晴らしく安全だが、なにが危険かを考える能力は衰えてしまった。子どもは禁止されていることは絶対にしないが、禁止されてないことは安易に手を出してしまう。それで事故を起こし、また禁止指定が増える。愚かないたちごっこだ。

「先生、川だよ。入ってもいい?」
 初めて見る水の流れに、子どもが興奮している。山の中は電子化もおよばず、見えないガードレールも少ない。だからさっきのように道を外れることもある。それを注意するのが先生の仕事だ。いや、そうじゃない!

「よし、先生といっしょに川で……アヅ!」
 頭の中で火花が散った。
《教育倫理規定、2015条B-12項ニ違反シマス》
 視界に警告メッセージが表示される。そうだった。親権者の許可なく水遊びをしてはいけない決まりだった。禁止指定があまりにも多いので、先生は電脳チップを脳幹に埋め込むことが就業規則で決まっていた。

「先生、あたま、いたいの?」
 子どもが心配そうにのぞき込む。無垢な子どもはかわいい。大丈夫だよと、頭をなでようとしたら……
「イデデ!」

《教育倫理規定、15307条ニ違反シマス》


(978文字)

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