創作  2009年12月30日(水)に書いた ショートショート

第72話:彼女をコントロール

第72話:彼女をコントロール

「やめて、今夜はそんな気分じゃないの」

 そう言ってマリコはそっぽを向いた。毅然とした口調だが、おれは強引にベッドに押し倒す。
「いや! よして!」
 強い力で抵抗しても、しょせん女の細腕。組み伏せて、胸元から首筋をなぞると、熱い息が漏れる。
「あ、明日は、朝から会議が......6時には起きないと......」
「わかってる。ちゃんと起こすよ」
 約束すると、マリコは完全にとろけた。

 マリコと付き合って2年半。
 彼女はエリート官僚で、国家戦略に関わる仕事をしている。おまけに美人だ。そんな才媛が、なぜ5歳も年下の小学教諭と交際しているのは、世界七不思議の1つと言える。

 マリコはあまりに完璧なので、劣等感にさいなまれる夜もある。
 ひょんなことで知り合って、ぞんざいに口説いたらOKされて、あっという間に男女の仲になったけど、本来ならおれごときが声をかけていい相手じゃない。
 しかし今さらあとには退けない。
 おれはマリコを呼び捨てにして、主導権を掌握した。彼女の都合は尊重するが、会うも会わぬも、抱くも抱かぬも、すべておれが決めている。

 マリコに欠点があるとすれば、セックスだ。
 過去の遍歴は知らないが、ベッドの彼女はまるっきり別人。獣のように求め、悦び、乱れ、そして果てる。愛しあった翌日は自分で起き上がれない。ふだんのマリコを知る人には、想像もつかないだろう。
 マリコも欠点を自覚しており、仕事があるときは緊張し、おれが近づくと静電気のように警戒する。そんなマリコがかわいくて、いじめてしまうけど、困らせはしない。愛してるからね。

 不意に、マリコが泣きはじめた。
 痛いことをしちゃったかと焦ったけど、ちがった。

「私、自分をコントロールできてない。こんなんじゃ駄目なのに」

 めそめそ泣くマリコは少女のようだった。
 何事もきっちり管理してきたマリコにとって、おれは致命的な存在らしい。
 今がその時と察したおれは、強い口調で言った。

「結婚しよう。おれがマリコをコントロールしてやる」

 その後のことは恥ずかしいから伏せておく。

 こうして、おれたちは結婚した。
 結婚生活は順調で、もうすぐ第一子を授かる。ふと気になったのは、マリコの姉さんがつぶやいた話。

「マリコって、本当にきっちりしてるわ。
 昇進だけでなく結婚や出産の年齢まで、むかし立てた計画通りなのよ」

 どっちがプロポーズしたのと問われれば、おれだ。
 しかしどっちがどっちなんて、どうでもいいことだろう。

(994文字)

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