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[創作] 2010年04月18日(日)に書いたショートショート

第74話:さまよえる生き霊

第74話:さまよえる生き霊

「おまえ、まだ生き霊に悩まされているのか?」

 げっそり痩せた同僚のタカミチを見て、おれは心配になった。大丈夫と答えるが、ぜんぜん大丈夫じゃない。いまも会議中に倒れたので、休憩所に運んできたところだ。

 タカミチはいわゆるプレイボーイで、浮いた話が絶えない。その彼が、数ヶ月前から生き霊に悩まされている。
 夜な夜な枕元に白い女(=霊)が現れ、セックスを求めてくるそうだ。どうしても抵抗できず、また強烈な快楽にのめり込み、精力を使い果たして朝を迎える。
 冗談でないことは、こけた頬を見ればわかる。このままではヤバイ。死んでしまう。

「正体はわかってる。イクコだ」
 イクコも、同じ会社に勤める社員。地味で、物静かな女性だが、一時期、タカミチと交際していた。いや、タカミチが遊び半分で口説いて、捨てたのだ。かなり泣かれたそうだが、それも1年前のこと。イクコは今日も、ふつうに出社している。

 タカミチは霊能者に相談して、事態をあらかた把握していた。
 イクコはタカミチとの逢瀬を忘れられず、その思念が身体を抜け出してしまったのだ。生き霊は潜在意識のようなものだから、彼女自身も気づいていない。

 そういえば、イクコは変わった。
 ふつうに仕事をして、ふつうに会話するんだけど、感情が欠落したような印象を受ける。あれは心の整理がついたわけではなく、整理できない心が外に飛び出していたのか。

「本人が気づいてないものを、どうやって止めればいいんだ?」
 おれは問うたが、タカミチは首を振る。
「いいんだ。このままで。
 じつはおれも、イクコを好きになったんだ。こんなに激しく愛されたことはなかった。このまま呪い殺されても本望だ」
 やつれた笑顔は、鬼気迫るものがあった。

「だが、おまえが死んだら、彼女の生き霊が行き場をなくすんじゃないか?」
「わかっている。考えがある」
 タカミチはそれ以上語らなかった。

 数日後、おれはタカミチの真意を理解した。

 タカミチも、感情が欠落したゾンビのようになってしまったのだ。
 ふつうに仕事をして、ふつうに会話するんだけど、以前の彼じゃない。どうやったか知らないが、タカミチも生き霊を飛ばしている。今日もどこかで、イクコの生き霊と愛しあっているだろう。
 そして心をなくした2人の身体は、機械のように働いて、食べて、生き霊を養っている。

 その方法を聞いておけばよかったと、おれは深く後悔した。


(976文字)

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