創作  2010年11月02日(火)に書いた 夢日記

第39夜:夢の中では早く走れない

第39夜:夢の中では早く走れない

 夢の中では早く走れない。

 ふつうに歩くことはできるが、いざ走ろうとすると、ベルトコンベアを逆送するようにスピードが出ない。あるいは、海の底のような強い抵抗がかかる。身体はどんどん前傾し、果ては四つん這いになって地面をかきむしっても、ちっとも早くならない。これじゃ、「脅威」から逃れられない。
 「脅威」に捕まったら、死すら生ぬるい地獄に堕とされる。逃げようとすると、「捕まったらどうなるか」のビジョンが見えてしまうから、そりゃもう必死だ。しかしビジョンを見過ぎると、捕まるシーンがスキップされてしまうから、注意。
 とにかく逃げることに集中しているあいだは捕まらないのだ。

 どうしたら夢の中で早く走れるか?
 その答えとして、「剣」を拾った。まっすぐの刀身に十字をなす鍔。ロングソードというやつだ。
 この剣は、なんと人を乗せて飛ぶことができるのだ。剣を投げて、その上に飛び乗る瞬間が難しいけど、乗ってしまえば自由自在。サーフボードのように空中を飛び回れる。これなら「脅威」から逃げ切れる。

 次なる問題は、どうやってこの剣を夢の中にもっていくかだ。おそらく剣に触れたまま眠れば大丈夫だろうが、さすがに金属を布団に入れるのは抵抗がある。なにより刀身で身体を切っちゃうかもしれない。夢の中で助かっても、現実の自分が致命傷を負っては意味がない。
 そこで、剣を棒に変えることにした。
 よくわからない素材のステッキ。軽いし、肌触りもいい。これなら一緒に眠れそうだ。

 安心した私は、ファミレスで食事をすることにした。
「お待たせしました。いつもの、でございます」
 パンケーキを注文したのに、タンドリーチキン&メキシカンピラフが運ばれてきた。なんじゃこりゃ? 「いつもの」って、いつも注文してるわけじゃないぞ。
「あっ」
 中年ウェイターが棒に触れようとしたので、ぱっと取り上げる。ウェイターはバツが悪そうにきょろきょろした。なにか言い訳を考えているようだ。私は「けっこうです」と言ってウェイターを追っ払った。
 なにかおかしい。
 店内をよく見ると、昼間なのにぜんぜん客がいない。レジのところに、ウェイターとウェイトレス、それにコックが私を見ている。なぜだ? なにを見てるんだ?

(……この料理……やばいかも……)

 私はテーブルに千円札を置いて、トイレに行くふりをして逃げ出した。やばい。あれは本物の店員じゃない。「脅威」が化けているんだ。この棒を──剣を奪おうとしている!
 ぶんと棒を振るが、剣に戻らない。
 あれれ? ぶんぶんぶん! 棒のまま。これじゃ飛べない。
「お客様ぁー」
 背後から店員が追ってくる。
「お釣りぃー」
 やばいやばいやばい。早く走れない。どどど、どうしよう?

 という夢を見た。
 布団の中を探し回ったが、棒は見つからなかった。

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