第32話:恋の呪い
2007年 ショートショート「どうしたらわかってもらえるんだ?」
ぼくは怒鳴った。こうなったらハルカにすべてを話すしかない。
「ねぇ、ハルカ。
きみは、ぼくのことを好きだと思っているんだろ?」
「えぇ、愛してるわ」
「でもね、それは嘘なんだよ」
「どうして私の気持ちが嘘になるの?」
ハルカは首をかしげた。そんな仕草もかわいらしい。
「聞いてくれ、ハルカ。
ぼくは入学式できみを見かけて、すぐ好きになった。でもきみは美人だし、みんなの人気者だから、とても声をかけられなかった。ぼくは根暗で、不細工で、身長も低い。きみとは釣り合わない。
それでもぼくはきみを手に入れたかった。
だから"恋の呪い"をかけたんだ」
「呪い?」
「あぁ、呪いだよ。ぼくの家は神社で、蔵には呪術の器具や資料がたくさん保管されている。その中からぼくは、相手の心を支配して、自分を好きにさせる呪術を見つけたんだ」
「へぇ~」
ハルカは目を丸くして、話のつづきを促した。
「ぼくはきみの髪の毛を入手して、人形に封じ、念を込めた。
いま、きみが持っている人形がそれだ!」
「これがねぇ……」
ハルカは自分の人形をもてあそんだ。
返してくれるつもりはなさそうだ。ハルカは身長も運動神経もぼくを上回っているので、力ずくで取り返すのは不可能だった。ぼくは話をつづけた。
「効果はすごかったよ。
呪術が完成した翌朝、きみが告白してきた。ずっと好きだったって。あり得ない話だけど、嬉しかった。ぼくらはキスをして、その日のうちにアレを……」
「エッチしちゃったね!」とハルカ。
「そ、そう、ぼくらは結ばれた。
ぼくは夢中だった。きみはなんでも命令を聞いてくれるから、行為はどんどんエスカレートしていった。きみは別人のように従順で、奔放で……」
「これが本当のあたしだよ」
「ちがう、それは呪いの効果なんだ!
ぼくはもう、きみを騙したくない。その人形を壊すんだ!」
「騙されてないよ」
「騙されてるんだ!」
「……困ったなぁ」ハルカは鼻の頭をぽりぽりかいた。
次の瞬間、ハルカは人形の首をボキッとへし折った。
声をかける間もなかった。
人形をぐちゃぐちゃに踏んづけたハルカは、ぼくをまっすぐ見つめて、いきなりキスしてきた。
「えへ♪ 変わんないね!」
「そ、そんなはずはない。なんで呪いが解けないんだ?」
ハルカは鼻の頭をぽりぽりかいて、つぶやいた。
「あたしはね、あんたのそーゆー陰湿なところが好きなの。
どうしたらわかってもらえるの?」