第76話:ストーカー被害 「ストーカーが被害を受ける」というネタ。 独身女性に差出人不明のプレゼントが届くという状況設定は、一度使ってみたかった。 もうちょっとプレゼントとの葛藤を描きたかったが、字数が足らず。 いつか、短編として書き起こしたい。
2010年 ショートショート「最初は、配達ミスだと思いました」
語りはじめたクミコは、30代半ばのOL。仕事一筋に打ち込んできたので、独身・独り暮らし・彼氏ナシ。「女性の社会進出」の最前線で戦って、気づいたら孤立していたってタイプだ。
そこそこ整った顔立ちだが、なんとなく声をかけにくい雰囲気がある。硬そうな、脆そうな......。
そんなクミコに、プレゼントが届くようになった。
大したものではない。人形とか、コップとか、ストラップとか、女の子っぽい品ばかり。
(いったい誰が? 配達ミス?)
差出人不明。消印もないので、誰かが直接ポストに投函しているらしい。ポストの上に乗せておくが、翌日またポストの中に戻されてしまう。送り主の正体や意図は不明だが、自分あてに届けられていることはまちがいない。
◎
気持ち悪かったが、プレゼントの数が増えると、興味がわいてきた。
(少女趣味すぎて、自分には合わない)
と思いつつも、小物を使ったり、アクセサリーを身につけてみたり。
かわいい品を使うと、気持ちが華やぐ。ずっと実用性ばかり追求してきたので、こういった品でよろこぶ自分自身に戸惑う。
誰かが見ている──。
そう思うと、自室でも背筋が伸びるようになった。
◎
やがて、ポストに投函していた人物が判明する。
同じアパートの住人だった。クミコが理由を問いただすと、
「ち、ちがう。おれは仲介しただけだ。
ずいぶん前に、バイトを頼まれたんだ。好きな女性がいるけど、直接会えないからって。ストーカーかもしれないけど、ほら、あんたの昔の同級生かもしれないだろ?」
小銭はほしいが、犯罪に関わりたくない男は、ぺらぺら告白した。
(このまま送り主に会わない方がいいかもしれない)
そう思ったが、そのときのプレゼントは手紙だった。封を切ると、こう書いてあった。
「会いたい。会いに行く」
◎
「その夜、送り主が部屋に侵入してきたので、殺してしまったと?」
「はい。急に襲ってきたので」
取調室で、被疑者のクミコが淡々と答える。
送り主がクミコの部屋に忍び込んだことは事実だ。揉み合った痕跡もある。そしてクミコは、侵入者を包丁で刺してしまった。スジは通る。
刑事であるぼくは、そこで追求をやめた。
送り主が狙っていたのはクミコではなく、あの部屋に以前住んでいた別の女性だったのだ。送り主は、相手が引っ越したことを知らなかったようだ。
暗い部屋で対面したとき、2人は気づいただろうか?
馬鹿なストーカーと、愚かな女だと。
(999文字)