踏み込み上手

2005年 社会
踏み込み上手

「誰とでも仲良くなれけど、深く付き合うことには馴れてない。」
F子はそう言った。

転校が多かったことに起因しているらしい。
親しくなれたと思ったら、もう転校。新しい土地で、また友だちを作る。
そこで、ふと考えてしまう。
(この子とも、すぐに別れてしまうだろう。だったら……)
具体的にどことは言えない“一線”で、F子は立ち止まる。

F子が立ち止まったことに、相手も気づく。
(あれ? F子は私のこと、キライなのかな?)
相手はF子を誘いにくくなる。“一線”を挟んで向かい合う2人。
その距離が狭まることはないが、遠ざかることはある。
それは寂しいことだけど、もう馴れたとF子は言う。

誘われて断るのは好ましくない。だから、誘われないようにする。F子は、“一線”の手前で相手が立ち止まるような雰囲気をまとうようになる。
雰囲気を察して、相手は言葉にする前にあきらめる。
(こんな話をしても、F子は乗ってこないだろう……)
誰も“一線”を踏み越えてこないので、安心して暮らすことができる。
それは寂しいことだけど、もう馴れたとF子は言う。

たまに、“一線”を踏み越えようとする人に巡り会う。
信じられないほど鈍感で、失礼な人間である。
ノックもせずにドアを開ける人、立ち入り禁止の札が読めない人、こっちの都合を聞かず、勝手に行動してしまう人……。
彼らには、“一線”が見えていないようだ。
(こういう人とは、どう接すればいいだろう?)
F子は混乱する。
そして、おかしな行動をとりはじめる。

私は「踏み込み上手」ではない。
だから、「踏み込まれ上手」でない相手には踏み込まない。

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