仕事の辞め方

2009年 政治・経済 仕事
仕事の辞め方

後輩が、仕事を辞めたがっている。

「だったら辞めれば」で済む話だが、年若い彼は仕事の辞め方がわからないようだ。「迷惑をかけたくない(=きれいに辞めたい)」と思う彼と、「後任が見つかるまで待ってくれ」とねばる経営者との駆け引き(?)がつづいている。

しかし私が見るところ(彼自身も気づいているだろうが)、経営者は後任を見つけるつもりはない。彼の仕事の内容や給与を見直すつもりもない。じつは、その経営者と会ったことがあるのだが、いっしょに仕事をしたいと思うタイプではなかった。そんな経営者からこそ、辛抱強い彼が辞めたいと言い出すわけで、もはや「きれいな別れ」は望めそうにない。

仕事の辞め方は、恋の精算に似ている──。
別れる方は、互いに遺恨を残さず、きれいに別れたいと思う。少なからず一緒に暮らして、未来を夢見ていた時期があれば、なおさらだ。後ろ足で砂をかけるような辞め方は、かつての自分を否定することになる。「無駄な時間を過ごした」と思いたくない。
しかし両方がそう思っていれば、そもそも破綻しない。
組み合わせは下記のとおり。

労働者雇い主展開
誠実誠実破局しない。
不誠実不誠実一瞬で決着がつく。
誠実不誠実だらだら関係がつづく。最悪の結末。

誠実と不誠実の組み合わせは悲劇だ。しかし不誠実サイドから見ると、これほど都合のいい関係もない
たとえば、安月給でもまじめに働く従業員は、従業員には苦しみだが、経営者にはオトクな存在となる。なるべく長く、だらだら関係をつづけたい。
後任を探して、きれいに別れるなんてとんでもない。ありもしない誠意を見せたり、温情にすがってでも、現状維持したい。積極的に別れを考えるのは、より安価なコマが見つかったり、仕事の必要がなくなったときだけ。この組み合わせで、「きれいな別れ」はありえない。

相手(経営者や会社)のことを考えていたら、仕事は辞められない。ますます人生を浪費するだけだ。仕事を辞めるとは、相手の事情を考えるのを止めるという意味。決めた瞬間から自分本位で行動し、一日でも早く辞める。引き継ぎは時間内に留め、完璧を求めない。
強い意志できっぱり関係を絶つことが、経営者の反省をうながし、ひいては後任のためになる。でなければ、苦しみも引き継ぐことになるだろうから。

まぁ、こんなことは誰だってわかってるけど、実行するのは難しい。人はなかなか、自分本位になれない。「不誠実なやつ」「身勝手なやつ」「言ってることが変わるやつ言われたくない。
しかし誠実と馬鹿はちがう
心が通じぬ相手に、心を尽くすのは、馬鹿でしかない。

(注意)
経営者も同じように考えるので、不誠実な従業員に誠意を示すことはない。
ここに相手の誠意を推し量るジレンマが存在する。