海外脱出のリアル

2010年 社会 仕事 住まい 海外
海外脱出のリアル

 若いころは本気で海外脱出を考えていた。

 日本はもうすぐ国家破産して、あらゆる資産が外国に差し押さえられてしまうだろう。日本人は、ただ借金を返すためだけに働くようになる。近代は戦争をせずとも、他国を支配できるのだ。
 そうなるまえに、日本を脱出する準備を進めておこう。
 べつに、外国が素晴らしいとは思わない。そう思うなら、移住すればいい。そうじゃない。私は日本人であり、日本の文化や風土は大好きだ。できれば、このまま日本で死にたい。ただ、なにか起こったときに飛び出せる準備はしておきたい

 恐いのは、身動きがとれなくなることだ。
 備えあれば憂いなし──。
 どこにでも行ける自分であれば、心安らかに過ごせるだろう。

 しかし29歳で会社を興すと、それどころじゃなくなった。とにかく目の前の仕事を片付けるのに無我夢中だった。さいわい、インターネットが普及したおかげで海外のニュースに触れたり、外国語の勉強はやりやすくなったが、本気で準備していたとは言い難い。

 そして39歳になった今、ふたたび考える。海外脱出はリアルだろうか?
 私の英語力は乏しく、日常会話もおぼつかない。仮に、英語ペラペラになったとしても、それは現地の子どもと同じで、なんのアドバンテージもない。私が修得した仕事のスキルは日本文化にどっぷり浸かっており、海外に通じるとは思えない
 かたや友人のN氏は、海外からも仕事を受注している。彼は英語ペラペラだが、それ以上にプログラマーという職能が大きく影響していると思う。
 もう若くないから、外国で下働きをする気はない。そのためには英語力+アルファが4つくらい必要だ。歳をとればとるほど、生活基盤を変えづらくなる。つまり……身動きがとれなくなったわけだ。ぎゃー。

 私が外国へ行く準備にまごついていると、外国の方から近づいてきた。「グローバル化」というやつだ。より安価で、より高品質な仕事を、より大量にこなせる外国人労働者が、じわじわ周囲を埋めつつある。同じホモ・サピエンスだから、日本人にできることは外国人にもできる。
「この仕事は心が通じる日本人同士でないと駄目だ」
「いいや、日本で満足です」
「外国人と競争したくない」
 とか言ってる場合じゃない。
 海外脱出なんかせずとも、国内残留がすでに戦いになってしまった

 さて、49歳になったときは、どんな日記を書いてるだろう。