最後尾のカレ

2009年 社会 仕事
最後尾のカレ

取引先で、ばったりW君と出くわし、30分ほど立ち話をした。

12年ほど前、私とW君は同じチームで働いていた。当時、私は28歳、W君は23歳だった。W君は研修を終えたばかりの新入社員だったから、雑用としてコキ使われていた。雑用とは、上司の机を拭くとか、飲み会の手配とか、どーでもいーことばかり。その扱われ方は、見ていて痛々しいほどだった。

そして現在、W君は35歳の技術者になっていた──。
「けっこうデキル社員になった」と、うわさを聞いたことがある。性格はあのころと変わらず低姿勢だが、いろんなことを知っていたし、アンテナも高い。いつ辞めるかと思っていたが、よく成長したもんだ。

あの雑用の日々が、成長の礎になったかどうかはわからない。しかし、なにもできない状態でも雇われていたことが、成長する時間をもたらしたことは事実だ。即戦力のみを求め、アウトソーシングが発達した現在では、新人の成長など誰も待ってはくれないからね。

そんなW君の悩みは、いつまでも後輩ができないこと。彼よりあとに採用された社員がいないため、何年経っても「最後尾」のプラカードをもったまま働いている。
たとえば、会社訪問時に入館証の記入、壊れたパソコンの修理、購入ソフトのシリアルナンバー管理などは、いっつもW君の仕事。つまり、今も雑用から解放されていないのだ。

だからスキルが高まると、守備範囲が広がっていく。客先での説明から、設計、作業、検証、ドキュメント作成……そのあいまに雑用。部下はいないが、上司は増えていく。私が言うのもアレだが、守備範囲の広いW君はとても便利な部下だ。私もほしいよ。

レベル1の新人を、時間をかけて育てていく。一人前になったら、次の新人をビシバシ鍛える。連綿と受け継がれてきた社員教育の輪が、今まさに断ち切られようとしている。35歳になって、さすがのW君もいろいろ気づきはじめていた。

「最後尾」にいることのメリット、デメリットはなんだろう?