N氏と犬のしつけ
2009年 哲学 人と動物 N氏N氏の家に遊びに行くと、毛むくじゃらが飛び込んできた。
N氏の飼い犬で、仮にコエヌと呼ぼう。コエヌは室内犬。それはもう、かわいい子犬だった。尻尾をぶんぶん振って、足のまわりを駆けめぐる。手をさしのべると、頭をなでさせ、はぐはぐと甘噛みする。以下、その繰り返し。すごい。なんて高性能なAIBOなんだろう!
娘のため、N氏は犬を飼うことにした。犬のしつけは最初が大事。N氏はコエヌを徹底的にしつけた。ちゃんとトイレを使うこと、キャンキャン鳴かないこと、本気で噛みつかないこと──。
こうしてコエヌは、人間に迷惑をかけない子犬になった。
ところが、N氏の娘さん(と奥さん)は、コエヌに飽きてしまった。あまりにも従順なので、つまらないのかもしれない。気がつけば、コエヌの世話はN氏の役目になっていた。もともと娘のために飼ったのに、どうして? まぁ、手間のかからない犬ではあるけれど……。
予想外の成り行きに、N氏は当惑していた。
リビングに戻ると、コエヌが粗相をしていた。現場でぶんぶん尻尾を振っている。
「あっ! こらっ! めっ!」
N氏は即座に叱りつける。
「反省しなさい!」
指さすと、コエヌはみずからケージに飛び込んだ。そこへN氏がシートをかぶせ、真っ暗にする。こうすると犬は自分の行為を反省するそうだ。
みっちり教育したのに、最近はルールを破ることがあるらしい。
帰り際、ふと気づく。
犬はわざと、粗相をしたのではなかろうか?
◎
この日、N氏は家で留守番していた。そして奥さんと娘さんが帰ってくると、入れ替わりで外食することに。奥さんと娘さんは食事を済ませてきたので、夕食を作る気がなかったらしい。
行儀のいいN氏は、粗相しないのだろうか?