犬が哭く夜
2007年 生活 人と動物 日常
犬が哭いている。この世の終わりを惜しむような声で。
あんな哀しい声を聞かされちゃ、寝られやしない。
吠えることはあっても、哭かない犬だったのに……。
雨風が強いのだから、飼い主は家に入れてやれよ。それがいやなら、せめて鎖をはずしてやれ。どこにも隠れることができない状態で、この台風はきついよ。
他人が飼っている犬だから、どうこうクチを挟めない。しかし抵抗できない動物への暴力(無関心を含む)は許せない。昔飼っていた犬のことを思い出す。
(もしかしたら、飼い主は留守かもしれない。
あるいは……これはお仕置きなのか?
哭き声が聞こえなくなるときは、犬が死んだときかも……)
悶々として、さらに眠れない。
ついに我慢できなくなって、犬の鎖をはずすことにした。
(どうなろうと知ったことかッ!)と思ったら、家の灯りがついて飼い主が出てきた。懐中電灯の光が動いているのを、暗がりから観察することを数分。懐中電灯が戻って、犬の哭き声がやんだ。
家に入れてもらえたのだろうか。とにかく状況は解決したようだ。
ふぅ、これで眠れる。