祖父と猫
2005年 生活 人と動物 健康 医療私の実家では、祖父を介護している。
記憶と体力は衰えて、ほぼ寝たきりの状態だが、受け答えはハッキリしている。
祖父は医者だったので、この状況(寝たきり)に強い危機感を覚えているようだった。転ぶようになり、階段が怖くなり、ひとりで起きあがれなくなる……。歩けなくなれば、あとは早い。あっという間に衰えてしまう。
祖父は、自分がどうなるかを理解していた。
なので、立ち上がって歩こうとする。しかし無茶をすれば、娘(私の母)に迷惑がかかる。娘に肩を貸してもらうのは、どうにも苦手らしい。
だから、ベッドの中で足を動かす。
もぞもぞと動かすことで、無慈悲な老いに抵抗しているようだった。
どんな経緯があったかはわからない。
誰かの考えだったのか、あるいは偶然だったのか……。
猫が、祖父の相手をするようになっていた。
その猫(チャー)は、好奇心旺盛で、気まぐれだった。
ベッドのまわりを歩きまわったり、不意にいなくなったり。朝が来ればガラス戸を叩き、鳥の音がすれば騒ぎ出す。ふとんの上にも乗っかって、祖父が足を動かすと、その動きに反応した。
「私の友だちだよ。チャーちゃん、おいで」
と祖父が紹介しても、猫は知らんぷり。仕方なく、孫の手をふって呼び寄せようとするが、これも完全無視。あきらめて別のことをしていると、ベッドの上に乗って邪魔をする。
決して従順ではない。
言うことを聞くときもあれば、聞かないときもある。いつもそばにいるようで、いないときもある。しかしそんな猫が、いまの祖父には最適な遊び相手に思えた。
祖父は、自分が同じ話を繰り返すこと、自分の声が聞き取りにくいこと、また耳が遠くなっていることを気にしていた。しかし猫相手になら、いくらでも話しかけられる。いつまでも遊んでいられるらしい。
それは、なんだかホッとする光景だった。
※写真は別の猫。チャーの写真を撮り忘れてた。