フランダースの負け犬

2007年 政治・経済 人と動物 死生観
フランダースの負け犬

『フランダースの犬』で泣くのは日本人だけらしい。

ネロは放火の濡れ衣を着せられ、村を追われ、吹雪の中をさまよったあげく、大聖堂でルーベンスの絵を見上げながら、誰を恨むことなく死んでいく。容疑が晴れたとき、ネロはすでに天に召されていた。

多くの日本人は、その死に涙する。
しかし欧州人にとっては「負け犬の死」でしかなく、ネロのために泣ける日本人が奇妙に見えるそうだ。『フランダースの犬』の舞台となったベルギー・フランドル地方に住む映画監督が、この謎を検証するドキュメンタリー映画を作成。それによると、日本人の心には「滅びの美学」が潜んでいるという。

言われてみれば、たしかにネロは負け犬だ。
一生懸命がんばっても、報われなければ意味がない。彼の不器用を「純朴」となぐさめ、彼を死に追いやった環境を無視するのは、美化しているからに他ならない。

合理的に考えれば、ハッピーこそが目的であり、一生懸命がんばることは手段にすぎない。しかし日本人は、一生懸命がんばることが至上であり、結果は問わない。むしろ結果がアンハッピーであればこそ、一生懸命さがきわだつ。裏を返せば、ハッピーエンド(見返りをもらうこと)はひたむきな努力を汚すものと言えるかもしれない。

忠臣蔵、新撰組、白虎隊、野菊の墓、ある愛の詩、ビルマの竪琴、ひめゆりの塔、八甲田山死の彷徨、義経記、島原の乱、火垂の墓……。
どれも結末の悲惨さが、生き様の純粋性を高めている。

『フランダースの犬』を滅びの美学と考えたことはなかったが、なるほど正鵠を射ているかもしれない。ネロの死を、
「負け犬でもいい。正しく、優しく、一生懸命に生きたのだから」
と許容するのが日本人だけというのは、複雑な気分だ。


■「フランダースの犬」日本人だけ共感…ベルギーで検証映画(読売新聞 - 12月25日 09:14)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?id=370225&media_id=20

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