出口アリ
2004年 哲学 人と動物 日常「彼」はいつも抗っていた。
ケージでの暮らしは、そんなに悪くない。
むしろ安楽だ。こんな厳しい時代に、ケージの中にいられるだけでもシアワセというものだ。
しかし「彼」は脱出を試みていた。
周囲の仲間たちは、そんな「彼」を疎んじていた。
脱出なんて夢また夢。なぜ、それがわからない?
騒ぐだけ店員に目を付けられ、今じゃ《危険人物》という張り紙までされている。これじゃ引き取り手も見つからない。
「彼」の行動は、本人にも、周囲にも迷惑だ。
しかし「彼」は省みない。ガジガジと歯を突き立てる。
ある日、「彼」は脱出に成功した。
やってしまえば、アッケナイ。
「彼」は自由になった。
これで終わりじゃない。
まだペットショップの中にいる。ここを抜けだして、さらに広い世界に飛び出すんだ。リスクはむしろこれからの方が大きい。
だが、これも自分が選んだ道だと思えば、失敗さえも納得できる。
不自由を選ぶ自由を得たのだから……。
──ふと、「彼」は視線に気づく。
いまだケージの中にいる仲間たちの視線だ。
脱出した「彼」を、しずかに見つめている。
(独りだけ助かって、それでシアワセか?)
「彼」の足が止まった。