【ゆっくり文庫】コナン・ドイル「緋色の研究」シャーロック・ホームズより A Study in Scarlet (1887) by Arthur Conan Doyle

2017年 ゆっくり文庫 イギリス文学 ファンタジー ホームズ ミステリー
【ゆっくり文庫】コナン・ドイル「緋色の研究」シャーロック・ホームズより
066 希望を失った男──

傷痍軍人のワトソンは、ホームズという諮問探偵と知り合う。その明瞭な推理に、ワトソンは興味をおぼえる。



原作について

アーサー・コナン・ドイル

アーサー・コナン・ドイル
(1859-1930)

 『シャーロック・ホームズ』シリーズの記念すべき第一作だが、「ここから読め」と薦める人は少ないだろう。ぶっちゃけ、読まなくてもいい。シャーロック・ホームズの登場によって推理小説は文学の一分野として市民権を得たが、その第一作が究極にして至高というわけじゃない。

 『緋色の研究』は、出版された当時(1887年)も注目されなかった。その反省を踏まえて執筆された『4つの署名』(1890年)は、財宝あり、美女あり、怪人あり、チェイスありで、読み応えがある(それでも過去の因縁話が長い。これはコナン・ドイルの芸風だが)。
 『シャーロック・ホームズ』が注目されるのは、さらにそのあと執筆される短編集だから、『緋色の研究』の評価が低くなるのも無理はない。

 しかし駄作というわけじゃない。「相手に触れることなく、毒を飲ませる」とか、「町中で警戒されず、ターゲットを好きなところへ連れていける」といった犯人像は、現代人の視点から見てもおもしろい。ただ、そうした魅力を引き出すノウハウが確立されてなかったため、どうしても地味に見えてしまうのだ。

映像化作品

 例によって先行作品を検証する。こうやって翻案作品を見比べるのは楽しいよね?

A Study in Scarlet (1933)

 戦前のモノクロ映画。レジナルド・オーウェン主演。タイトルは「緋色の研究」だが、ストーリーはオリジナル。

A Study in Scarlet (1968)

A Study in Scarlet (1968)
※ピーター・カッシングのホームズ

 ピーター・カッシング主演のシャーロック・ホームズ。全29話の1本だが、シリーズの第一話ではない。ホームズ&ワトソンはすでに50代だ。
 物語はドレッバーとアリス(宿屋の娘)のラブシーンからはじまるが、ストーリーに大きな変更はない。巡査の聞き取り、老婆の追跡、BSIの召集もある。第二部(犯行の動機)はホープの自白のみ。モルモン教の言及もなし。映像は物足りないが、悲劇性のあるエンディングだった。

Sherlock Holmes and a Study in Scarlet (1983)

A Study in Scarlet (1983)
※ワトソンは中年だが、ホームズは若く見える

 オーストラリアのアニメ映画。「名探偵ホームズ」(1984)に比べ、格段に古めかしい。ぬかるんだ道で水たまりを飛び越えた足あとや、「Rache」が高い位置に書かれたなど、細かいところが再現されている。
 序盤は原作通りだが、中盤以降はスタンガスンが襲撃を警戒したり、ホープがそれを見越して老婆を送り込むなどの翻案が増えていく。第二部もしっかり映像化。アニメだからロケ地の制約がない。
 ホープが赤ら顔でなかったため、酔っぱらいの演技が不自然だった。また鼻血も吹き出さないため、「Rache」は爪で刻んでいるが、わざわざ痕跡を残す意義が失われている。

ピンク色の研究 (A Study in Pink) / SHERLOCK (2010)

ピンク色の研究
※連続自殺事件

 BBCドラマ『SHERLOCK』の第一話は衝撃的だった。馭者→タクシー運転手、復讐→無差別連続殺人、と置き換えたのはうまい。さらにスポンサーをつけたことで、犯人に「子どもに金を残すため」という言い訳を与えている。もちろん言い訳でしかないが、人間味のある殺人鬼は怖い。
 残念なのはシャーロックが毒薬の決闘に応じてしまうこと。あまりにも軽率だ。まぁ、シャーロックの危うさとワトソンの堅実さを描くためだろうけど。

最初の冒険 前-後編 / 人形劇シャーロック ホームズ(2014)

人形劇シャーロック ホームズ
※学園が舞台で、殺人を扱わないが、ドロドロした物語

 人形劇『シャーロック ホームズ』の第一話。ホームズがワトソンを励まし、ワトソンが犯人を励ます構図はおもしろい。緋色の糸を「真実」になぞらえたのもよろし。ただミステリーとして見ると、被害者(ドレッバーとスタンガスン)が死んでないため、話を聞けば謎が解けてしまうことが弱い。そのため先生の横暴も目に余るが、これはシリーズ全体の特徴でもある。
 本作は学園を舞台にしておきながら、正しいことが報われないエピソードばかり。たまにじゃなくて、ずっと後味が悪いから、どうにも好きになれない。

新潮CD シャーロック・ホームズ 緋色の研究 (1998)

声の出演=ワトソン(永井一郎)、ホームズ(小川真司)

 前後編で2時間20分。原作をほぼそのまま朗読している。第二部はワトソン視点でなくなるため戸惑うが、これも原作通り。モルモン教徒も記述もそのまま。新たな発見はないが、文章を読むのが億劫な人におすすめ。

緋色の研究 / アクトワンレコーズ (2006)

声の出演=ホームズ(小杉十郎太)、ワトソン(堀内賢雄)、レストレード(屋良有作)、ホープ(藤原啓治)

 前後編で54分。原作の要素を残しつつ、簡潔かつドラマティックに翻案している。こーゆーの、好き♪
 ワトソンは主体性が強く、ドラマをぐいぐい牽引してくれる。一方、ホームズは完成された人格者なので、ちょっと物足りない。グレグスンとレストレード両警部は、凸凹コンビを好演。ウィギンズが活躍する代わりに、ハドソン夫人が登場しない。フロンティアワークスの『ドラマCD シャーロック・ホームズ』(2014)でも少年たちが強調されたから、やはりベイカー・ストリート・イレギュラーズの需要は高いようだ。
 推理パートはだいぶ整理されており、説明の順序もうまい。いくらか飛躍した推理もあるが、そのへんはご愛嬌。レイチェル最後の一文字は「L=エル」なのに、「I=アイ」と読んじゃってるのもご愛嬌(台本に小文字で書いてあったのだろう)。第二部(犯行の動機)も駆け足だが、必要な情報が揃っていた。ここまで刈り込むなら告白だけで十分な気もする。
 そしてエンディング、ホームズとワトソンが最初の挨拶からやり直すシーンは微笑ましい。いいねいいね♪

コナン・ドイル「ホームズ・緋色の研究」(ラジオドラマ) / きくドラ(2014)

声の出演=ホームズ(出先拓也)、ワトソン(柏士文)、グレグスン(小林貴祐)、タイトルコール(尼子真理)

 前後編で22分しかないため、第二の殺人(スタンガン殺害)も、犯行の動機(第二部)もカット。ホームズの推理も飛躍してるが、「きくドラ」はそういうシリーズなので不満はない。ただ、まぁ、面白味は欠ける。

翻案について

 【ゆっくり文庫】シリーズでたびたび言及されたベイカー・ストリート・イレギュラーズを、ちゃんと描いておきたくなった。といっても彼らが登場するエピソードは「四つの署名」と「緋色の研究」の2作だけ。まず「四つの署名」の脚本を書いたが、ボリュームがあるため制作を放棄。「緋色の研究」を手がけることにした。

 例によって今回もがっつり翻案している。簡潔にして、論理的な矛盾をなくすだけでなく、「ワトソンが希望を取り戻す物語」というテーマを掲げた。
 やっぱり「ピンク色の研究」へのリスペクトと対抗心がある。あれは見事な翻案だった。だからこそ「私なりの解釈」に挑戦してみたい。「緋色の研究」のプロットは、ワトソンがホームズと出会って、いっしょに事件を解決し、パートナーになること。その骨子を保ったまま、ちがった演出をしてみたい。

 コメンタリー風に各シーンのポイントをのべていく。

ワトソンの戦場

 ワトソンが帰国したのは1880年11月。ホームズと同居を始めたのが翌年1月。ドレッバー毒殺事件は1881年3月4-7日の出来事だが、今回はいっさい日時を明記しなかった。地図も省略した。「赤毛連盟」や「グリム童話について語ろう」に誤記が見つかって、萎縮している。
 ワトソンの経歴も説明せず、戦場の回想シーンからスタートした。「ピンク色の研究」へのリスペクトを明示すべく、音源をそのまま使った。フリー効果音とゆっくりボイスでも再現できたが、小細工に見えたのでやめた。しかしやっぱり自作すべきだっただろうか? 悩ましい。

緋色の研究
※ワトソンの戦場

 英国には知り合いも親類もいなかったから、私は空気のように自由だった。いや、一日11シリング6ペンスの収入が許すかぎり自由だった。おのずと私はロンドンに──帝国の怠け者や愚か者どもが否応なく流れ込む巨大な汚水曹に──引き寄せられた。

I had neither kith nor kin in England, and was therefore as free as air--or as free as an income of eleven shillings and sixpence a day will permit a man to be. Under such circumstances, I naturally gravitated to London, that great cesspool into which all the loungers and idlers of the Empire are irresistibly drained.

 こんな独白をしておきながら、正典のワトソンはあっさり更生する。戦争で受けた傷が痛むことはあっても、思い悩むことはなかったようだ。それが当時のリアルなんだろうけど、やっぱり物足りないから、「ワトソンは戦争でストレス障害になった」という設定を加えた。といっても深刻な病気ではない。

 「マイワンドの戦い(1880)」は第二次アフガン戦争(1878-80)のみならず、19世紀のイギリス軍における唯一の敗北だった。つまり、それまで出征した兵士はみんな勝利を味わい、栄誉や褒章を得てるのに、ワトソンはただ失うばかりだった。
 ロンドンに帰ったワトソンは、無力感に囚われる。なにをしても無駄で、無意味で、無価値に思えてしまう。だれにも影響を与えず、だれにも心配されない。破滅寸前だった。

緋色の研究
※前編はずっと疲労状態

 そんなときホームズと出会い、希望を見出す。ホームズが天才だからではなく、ホームズほど才能があっても苦労して、それでも前に進んでいることに感動したのだ。まだやるべきことがある。そう思えたワトソンは、明日のため眠ることができた。
 ワトソンが戦場でどんな悲劇に見舞われたかは、詳しく述べない。そのあたりを描くのは本作の主旨じゃない。またワトソンが希望を取り戻すことがテーマでありながら、心情変化も説明しない。なんとなくでいい。

スタンフォード / 共通の友人

 正典のマイク・スタンフォードはワトソンの助手をしていた青年で、ホームズを紹介したきり出番はない。しかしホームズとワトソン双方と友達だったことから、スタンフォードも特異な人物だったと思われる。そこでスタンフォードは医師として、友人として、ホームズとのルームシェアを薦めるという演出を加えた。双方によい効果があると期待したのだろう。私はこういう、友だちが救いになる話が好きだ。
 この役は紅美鈴がぴったり。美鈴は受容体が広いキャラクターで、だれともペアになれる。

Mike Stanford
※BBC「SHERLOCK」に登場する Mike Stanford

 正典でワトソンとスタンフォードが会うのはクライテリオン・バーだが、【ゆっくり文庫】版「6つのナポレオン」で言及したシンプソンズに変更した。シンプソンズは「高名の依頼人」と「瀕死の探偵」に登場するレストランで、シャーロキアンに「ホームズたちのお気に入り」と認識されている。
 こうやって世界観が描かれていくのは楽しい。いま「ボヘミアの醜聞」をリメイクしたら、シンプソンズで食事をしながらベイカー・ストリート・イレギュラーズに指示するシーンを挿入するだろう。

 余談。スタンフォードが「バイト」という言葉を使っているが、19世紀のロンドンにそんな言葉がないことは百も承知だ。私は言葉遣いを気にする人間だが、厳密に求めるつもりはない。このあたりのさじ加減、理解してもらえるだろうか。

ベイカー街221Bにて / ホームズが選ぶ同居人

 翌朝、ワトソンはホームズを訪ねる。ストランドから直行すると、ドレッバー殺害の時刻と合わなくなるからだ。本作のみ、ベイカー街221Bの背景を、BBC「SHERLOCK」のセットに差し替えているが、深い意味はない。最初はちゃんと見せるが、あとは簡略化されたと思ってほしい。

 本作はワトソンが変人ホームズを受け入れる話だが、同時にホームズが変人ワトソンを受け入れる話でもある。このあたりを強調すべく、ワトソンの前に7人の同居人がいたことにした。スタンフォードの認識と食い違っているのは、ホームズが正直だから。

 7人の同居人が、みなホームズと喧嘩したわけじゃない。むしろホームズの能力を絶賛する人が多かっただろう。しかし共同生活となれば、劣等感に苛まれたり、理想の押し付けと言った摩擦が生じる。
 ホームズはベイカー街221Bを借りていたい(ハドソン夫人と暮らしたい)。そのためには同居人が必要だが、我慢の限界に達すると、嫌がらせをして追い出していたのだ。だから短期間で7人もの同居人が「出ていった」わけだ。
 ラスト、ウィギンズがワトソンについて「すぐ出ていくさ」ではなく、「すぐ追い出されるさ」と言っているのは、ホームズが少年たちを使って嫌がらせをしていたことを示している。

 7人がいかなる理由で失敗したかは、あまり重要でない。ホームズは理想の押しつけを嫌うが、ワトソンにヒーロー像を押し付けられても怒らなかった。それどころかワトソンが求めるヒーローになりたいと願うようになる。人間関係は理屈じゃない。

 余談。本作の犯人はホープという名前なので、「友達がいなかったホームズの末路」という対比も考えたが、脱線がすぎるので見合わせた。使わなかったアイデアだけど、メモしておく。

探偵が手札を明かすスタイル:改

緋色の研究
※ホームズの推理だけでなく、心象も明かされる

 本作も探偵が手札(推理)を明かすスタイルを採用したが、「6つのナポレオン」の高速推理とはちがった演出を試している。
 また応用として、ホームズの心象も明かしてみた。ホームズがしゃべりながら別のことを考えていたり、意外と周囲のことを気にかけていることが表現できたと思う。
 表現方法をいくつか試してみたが、AviUtlの「表示速度」を使ってみた。ゆっくりMovieMakerの字幕領域に<r14>とか<r18>と書いておくと、AviUtlに読み込んだときコマンドとして処理される。この方法だとAviUtlでの編集作業を省けるのだ。文字数と表示時間、速度の兼ね合いもわかったから、今後も使っていきたい。

 本番公開すると、画面上部の文字はコメントで読めなくなるだろうが、初見の人はコメントオフで見てほしいから、これでいいはず。たぶん。

有能なワトソンとの対比

 ホームズが興味を示すよう、ワトソンの賢さを強調した。いささか前に出過ぎるのは、ホームズとの役割分担が確立されていないから。ホームズがいないとワトソンは、ホームズっぽくなる。ホームズと出会うことでワトソンは一歩退いて支援できるようになり、ホームズはいっそう尖ったままでいられるようになる。

 キャラクターの賢さを演出するのに、馬鹿なキャラクターと対比させるのは弱い。賢いワトソンがいてこそ、さらに賢いホームズが際立つ。ホームズの賢さが特殊であることもわかる。「ポケットにライ麦を」で、メアリー・ダブが賢いからこそ、ルーシーがより賢く、ミス・マープルが飛び抜けて賢いことがわかるのと同じだ。

ハドソン夫人 / 希望することをやめなかった人

緋色の研究
※ハドソン夫人は期待しつづけた

 お察しのとおり、ハドソン夫人がルームシェアの条件を課しているのは、ホームズを孤立させないための措置である。7人も失敗したのに、ハドソン夫人はあきらめていない。ワトソンという逸材とめぐりあえた奇跡は、ハドソン夫人が期待を捨てなかったから起こったといえる。

 正典におけるハドソン夫人の描写は少なく、年齢、出身、容姿、経歴、結婚相手、親戚、ファーストネーム、すべて不明。「最後の挨拶」に登場する家政婦マーサが同一人物と解釈され、それゆえマーサ・ハドソンと呼ばれることもある。【ゆっくり文庫】の「最後の事件」で、マイクロフトがハドソン夫人を「マーサ」と呼ぶのはこれにちなむ。
 ホームズは財産を築いても、ベイカー街221Bを出ようとしなかった(例:「プライオリ・スクール」の報酬は6,000ポンド(=約1億2千万円)だった)。ハドソン夫人もこの変人によく仕えた。その関係がホームズの晩年までつづくとしたら、もっと深いドラマがあっていいはず、と思って妄想をふくらませた次第。
 【ゆっくり文庫】ハドソン夫人について、ここで裏設定を述べるのは控えよう。すでにいくつか伏線が織り交ぜられているから、各自で想像してほしい。

ホームズの駆け出し時代

緋色の研究:レストレード巡査部長
※タメ口のレストレード巡査部長

 シャーロキアンの研究によればホームズは1854年生まれ、ワトソンは1852年生まれ(諸説あり)。「緋色の研究」は1881年だからホームズ27歳、ワトソン29歳で、ホームズが探偵業をはじめて3-4年が経過している。
 具体的な年齢はともかく、「緋色の研究」時点のホームズは若造だったはずだが、すでに警察から絶大な信頼を寄せられている。捜査の緒についたばかりで現場検証に喚ばれ、警部たちに尊大な態度を取り、大した推理も述べないまま去ってしまうなど、ちと、ありえない。
 私は等身大のホームズを描きたいので、27歳の若造らしい扱いを受けることにした。

  • レストレードがタメ口で話す。
  • グレグスンに対抗心を燃やされている。
  • ホームズが警察とうまく連携できてない。

情報量のコントロール

 レストレードが駆け込んできたところから事件捜査がはじまる。
 第一の事件捜査は、下記のように展開する。どのパートで、どこまで明かし、どこまで推理させるか、その配分に苦労した。正典と読み比べるとわかるが、2通目の電報がチケットになったり、指輪と血文字が最初に見つかっていたりと、けっこう異なる。うまく視聴者の興味を刺激てきたら幸いだ。

  1. 概要説明 ... レストレードがたくさん説明するが、推理を組み立てられない。
  2. 空き家の前 ... ホームズの十八番である「足あと」の調査。レストレード不在。
  3. 空き家の中 ... 現場検証。グレグスン不在。
  4. 警部を交えた推理 ... グレグスンとレストレードが推理し、それをホームズが否定。
  5. 空き家の外 ... ホームズとワトソンが現状整理。
  6. 聞き込み調査 ... その他の可能性をつぶす。ワトソンがダウン。

緋色の研究:足あと
※文字で読むと目で見るのは大違い

 イラストを作成すると、足あとは情報の宝庫であることが明らかになった。もちろん現実の足あとはここまでくっきり見えないだろうが、文字で読むよりわかりやすい。素材がなかったため犯人はブーツを履いてることにした。

 ホームズは現場に到着するまえに「犯人は馭者」と目星をつけるが、警察には教えなかった。これは正典も同じだが、手札が伏せられているから気にならない。むろん、警察に犯人像を教えていれば第二の殺人(スタンガスン射殺)を食い止められたとは思えないが、「なぜホームズは警察に教えなかったか」の理由を用意しなければならない。
 そこで、「ホームズが警察とうまく連携できてない」という制約を思いついた。これはグレグスン警部の無能さ、レストレードの有能さを示すことになり、うまく噛み合った。

 空き家で現場検証するホームズは、証拠アイテムや死体のあいだを行き来する。しかしキャラクターの重なり順はファイル途中で変更できないため、後ろ姿のホームズ(れいむ)は画像だ。ドレッバー(いく)の死体はずっと画像だが、途中でキャラクターの前に配置されている。

ホームズの現場検証
※ホームズの現場検証

ホームズの現場検証
※ゆっくりMovieMakerのタイムライン

 とまぁ、ちょっとした小細工を書いてみたが、こーゆー情報って役に立つんだろうか? ゆっくり動画を作ってる人には当たり前だし、作らない人には意味がない。動画制作のテクニックを紹介するのはけっこう手間なんだけど、意義がないように思えてきた。むむむ。

グレグスン警部、初登場

緋色の研究:グレグスン警部
※グレグスン警部:言葉は丁寧だが、ホームズに対抗意識がある

 グレグスン警部はレストレード警部のライバル的存在で、「緋色の研究」「ギリシャ語通訳」「ウィステリア荘」「赤い輪」に登場する。レストレード警部ほど個性がなく、その他大勢の1人だ。アメリカのTVドラマ「Elementary」では、ホームズを支援する警部の名前(Thomas Gregson)に使われている。

トーマス・グレッグソン警部
※トーマス・グレッグソン警部 / エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY

 「緋色の研究」には、グレグスンとレストレードの両名が登場するが、警部2名はわかりにくいので、レストレードを巡査部長に降格させた。本作の失態でグレグスン警部は更迭され、レストレードが昇進。ワトソンが仲介することで、ホームズと警察の関係もよくなる。
 「四つの署名」を制作するなら、更迭されたグレグスン警部をアセルニ・ジョーンズ警部の位置づけで再登場させたい。

 ちなみに正典のレストレードは、最初から最後まで警部だった。辣腕警部が何十年も出世しないのは不自然だから、「レストレードは2人いた説」を唱えるシャーロキアンもいる。私はこれを「グレグスンは2人いる説」に応用した。

マフィン≠グレグスン警部の息子

 【ゆっくり文庫】でモリアーティ教授の後継者(=マフィン)を創造するとき、グレグスン警部の名前を借りたが、同一人物ではない。ウィギンズが言っていた「すんげぇ賢い新メンバー」がマフィンである

 このあとマフィンは「四つの署名」で活躍。ワトソンが結婚してベイカー街221Bから出ていったので、代わりにホームズの助手になる。ハドソン夫人の薫陶を受け、さまざまな知識と技術を習得。「恐怖の谷」でベイカー街221Bの玄関番をしていた少年ビリーが、【ゆっくり文庫】ではマフィンになる。
 マフィンはホームズに恩返しするため、犯罪コンサルタントに潜入するが、モリアーティ教授によってスコットランド・ヤードに送り込まれる。このとき、「グレグスン警部の息子」という経歴が作られた。グレグスン警部はモラン大佐に暗殺されたため、マフィンがグレグスンの息子じゃないと知るものはいない。

 「最後の事件」のあと、マフィンはマイクロフトの手駒として活躍する。犯罪コンサルタントをつぶすため、マフィンの顔と知識が必要になったのだ(シャーロック・ホームズは死んだことになっているため、マフィンを使うしかない)。このときマイクロフトは、マフィンの経歴を公的なものに裏書きした。
 マフィンはホームズ不在のロンドンで辣腕を振るい、警部に昇進するが、「空き家の冒険」以降は陸軍省情報部(のちのMI6)に配属され、マイクロフトの後継者と目されるようになる。

 本作でちらりと述べられるグレグスン警部の息子は、ひょんなことから浮浪少年マフィンと入れ替わり、ベイカー・ストリート・イレギュラーズに参加する。それは...
 おい、だれか私の妄想を止めろッ!

緋色の研究
※ウィリアムの略称がビリー。「W」をひっくり返すと「M」だ。

議論する

 現場検証のあと、グレグスンとレストレード、ワトソンは推理を語り合う。カットしても差し障りのないシーンだが、こうした議論がないと視聴者は情報を整理できない。グレグスン警部とレストレードの推理を的外れと笑うのは簡単だが、自分で推理を組み立てるのは難しい。ワトソンも自説を唱えることができず、愛想笑いをしている。
 ひととおり議論したあと、ホームズが推理を述べ、次の捜査方針を指示する。しかしグレグスン警部は不機嫌になり、誤認逮捕につながる。天才であってもコミュニケーションは重要だ。

 ホームズは「犯人は馭者」という仮説にもとづき、最寄りの郵便局から電報を打ち、ベイカー・ストリート・イレギュラーズに捜索を依頼する。しかし「その他の可能性」もあるから、午後の聞き取りで検証する。1.巡査はうそをついてない、2.死体を運び込んだわけではない、3.地理に詳しい人間でなければ無理、4.馭者連中が不審者を目撃していない、といった傍証集めだが、このあたりを細かく描くと退屈なので、「あちこちで調査した」で済ませた。「ポケットにライ麦を」でミス・マープルの捜査を省略した工夫と同じ。こうしたワイルドカード(探偵の行動を伏せたところ)があると楽ちんだ。

緋色の研究
※あちこちで聞き取りした

 今回はキャストが不足した。アイリーン(さなえ)、マイクロフト(ぱちゅりー)、モリアーティ(ゆかり)が使いまわせないためだ。やむなく作業中のキャラ素材にも登場してもらった。

緋色の研究
※ゆっくり文庫版ひじりとみこ

研究か習作か?

 ホームズとワトソンは互いに興味を示し、少しずつ理解を深めていく。「緋色の糸」のたとえ話が好きなので、これを絡めてホームズの哲学をまとめた。ワトソンはなにも言わなかったが、共感するものがあったのだろう。

緋色の研究
※ワトソンが信じるホームズの正義

 ここでタイトルについて、私の意見を述べる。
 本作はずっと「緋色の研究」というタイトルで親しまれてきたが、昨今、「緋色の習作」と訳すのが正しいという意見を見かけるようになった。日本人はこういう、「それ、まちがいですよ」という指摘に弱い。言い換えると、「それ、まちがいですよ」と指摘することが親切と思い込んでる人が多い。まちがいの指摘はその正否を問わず、相手に負担を強いるとは考えない。「ハンマーが置いてあったから殴った。殴られた相手がどう感じるかは知らない。悪いのはハンマー」なんてのは、ただの暴力なんだけどね。
 私は下記2つの理由で、A Study in Scarlet は「緋色の研究」と訳すのが正しいと考える。まず原文を見てみよう。

きみのおかげで最高の研究対象を見逃さずに済んだ。
緋色の研究ってやつだ。
芸術的な表現を使ってもいいだろう?
人生という無色の糸かせには、殺人という真っ赤な糸がまぎれこむことがある。
ぼくらの責務はそれを解きほぐし、端から端まで一寸きざみに明るみにさらけ出して見せることだ。

I might not have gone but for you, and so have missed the finest study I ever came across: a study in scarlet, eh? Why shouldn't we use a little art jargon. There's the scarlet thread of murder running through the colourless skein of life, and our duty is to unravel it, and isolate it, and expose every inch of it.

 art jargon は「美術の隠語」であるから、study は「習作」というわけだが、直前の the finest study を「最高の習作」と訳すのはおかしい。習作とは文芸・音楽・絵画・彫刻などで、練習のために作品をつくること、またはその作品のこと。ホームズはワトソンに本物の事件捜査を見せようとしているのに、これを練習と呼ぶのは不自然じゃないか?
 また文学作品の翻訳は正しさより、意味や響きを重視すべきと考える。たとえば「The Adventure of Charles Augustus Milverton」を「犯人は二人」と訳すのは、正確ではないが、正解だろう。このセンスこそが翻訳家の技量であり、作家性なのだ。

 もちろん、「緋色の習作」がまちがいというわけでもない。「真紅の探求」でも、「赤いエチュード」でもいい。ただ、「緋色の研究」という名訳を捨て、機械翻訳レベルを正解とするのは理解しがたい。そんなに原文が大事なら、原文を読めばいい。

 もうちょい語ろう。
 「緋色の研究」という言葉はかっこいい。ホームズにとって犯罪捜査は生活の手段でも、社会正義の実現でもなく、ただの研究なのだ。それを「犯罪心理の研究」とか「推理の科学」と言わず、「真っ赤な糸を見つけ出す」とたとえるところがオシャレだ。
 しかし「緋色の研究」という言葉が登場するのは本作のみ。せっかくシリーズ1作目で言及したのだから、テーマに据えてもよかったのに。そんなわけで私はホームズの心意気を説明するシーンに転用した。

 もう1つ余談だが、ホームズは緋色の研究を our duty と言っている。「ぼくら」はホームズ&警察ではなく、ホームズ&ワトソンだろう。つまりホームズはこの時点で、「いっしょに研究しよう」と持ちかけているのだ。この気持ちを「ぼくらで犯人を逮捕しよう」「やろうやろう」というセリフに翻案している。

ワトソンは、明日のため眠る

 ワトソンは疲労のためダウン、ベイカー街221Bで休養する。このときワトソンが言ったセリフは、「今度こそ置いて行かないでくれ」だ。ちなみにワトソンを置いていった連中は天国にいる。
 ホームズの変化に気づいたハドソン夫人は、まだ同居すると宣言していないにもかかわらず、ワトソンを身内として扱いはじめる。ハドソン夫人の年齢はとくに決めてないが、かわいい。
 前編ラスト、ワトソンは眠りに就く。このときのアクションは、跳ね高さ=1、跳ね速度=1、着地の間=1.00、クッション度=3 だが、着地の間が1.00では早すぎるため、AviUtlの[表情3@キャラ素材]のパラメータ設定で、3.00に伸ばした。

緋色の研究
※帽子を脱いで、ぐっすり眠るワトソン

ベイカー・ストリート・イレギュラーズ

 後編は2日目を描く。ワトソンは体調がよくなり、ホームズはずっと以前から相棒だったかのように扱う。ハドソン夫人も遠慮がない。
 午後になって、いよいよベイカー・ストリート・イレギュラーズが登場。これまで Baker Street は「ベーカー街」と書いてきたが、「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」に合わせて「ベイカー街」に変えている。Baker Street Irregulars は「ベイカー街遊撃隊」と訳されるが、私はなぜか「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」の方が馴染み深かった。しかし「ベイカー街遊撃隊」も名訳だから捨てがたい。どうしたものか。
 ハドソン夫人が彼らを指導しているという設定は、もちろんオリジナル。ゆっくりハドソン夫人はマイクロフトと連携し、アイリーンが師事する人物だから、これは想定の範囲だろう。はっはっは。

緋色の研究
※妄想の歴史がまた1ページ...

 ベイカー・ストリート・イレギュラーズは小汚いストリート・チルドレンの集まりだが、ホームズを尊敬し、その指示のもとでは的確な諜報活動をやってのける。正典における彼らの出番は少ないが、世界中の作家に鮮烈な印象を与えた。江戸川乱歩は「少年探偵団」に翻案し、アンソニー・リードは「ベイカー少年探偵団」(Baker Street Boys)というシリーズを創造した。またシャーロキアンの集まりにもベイカー・ストリート・イレギュラーズ(BSI)の名前が使われているが、こちらは「黒後家蜘蛛の会」で紹介したい。

 「ベイカー少年探偵団」シリーズではメンバーを7名(男4女3)とし、それぞれに名前と個性を与えている(ウィギンズ、ビーヴァー、クイニー、シャイナー、スパロー、ロージー、ガーディ)。ストリート・チルドレンの目を通して描かれるヴィクトリア朝末期のロンドンは、独特の味わいがある。冒険小説だよね。

緋色の研究:ベイカー・ストリート・イレギュラーズ
※ベイカー・ストリート・イレギュラーズ:シルエットと実像は一致しません

 なのでシルエットも7名にしたが、実際に制作するならメンバー構成は一変するだろう。
 試しに子どもキャラ7名(チルノ、大妖精、フランドール、こいし、ルーミア、宮古芳香、橙)を配役したら、おもしろかったので、動画末尾に加えた。
 彼らはどんなところに住み、どんなものを食べ、どんな明日を夢見ているだろう? その喜び、怒り、悲しみ、葛藤、勇気、冒険を描いてみたい。しかし古典を翻案する【ゆっくり文庫】の枠組みから外れてしまうなぁ。

緋色の研究:ベイカー・ストリート・イレギュラーズ
※少女探偵団ではない

 余談1。正典におけるベイカー・ストリート・イレギュラーズの扱いは、けっこうひどい。ハドソン夫人はあからさまに毛嫌いしてるし、ホームズも犬のようにこき使っている。それが当時のアタリマエだったにせよ、現代人の感覚では眉をひそめたくなる。なので【ゆっくり文庫】はソフトに(美化して)描いた。もちろん「ハドソン夫人が子どもたちを集めて勉強を教える」なんてありえないが、そこは突っ込まないでほしい。
 飛び抜けた知性をもつマフィンは、英国政府の中枢に潜り込んでいく。英国が豊かになれば、路頭に迷う子どもたちも減るだろうが、そのためには植民地が不可欠。ゆえに世界秩序をおびやかす中央同盟国(ドイツ、オーストリア、オスマン帝国、ブルガリア王国)は駆逐せねばならない。みんなを救おうとする者は、魔王になりやすい。

 余談2。1ギニー=1ポンド1シリング=252ペンスで、現代の貨幣価値に置き換えると3-5万円くらい。当時の庶民階級の年収は50-100ポンドだから、ギニー金貨1枚はちょっとした大金である(ホームズの日当に相当する)。といっても毎日1ギニーもらえるわけじゃない。1ギニーもらった少年たちが、どんなお祝いをするのか? それとも未来のため貯金箱に入れておくのか? あれこれ想像すると楽しい。

ホームズの疾さ

 ホームズは事件の概要を掴んでないのに、ジェファソン・ホープを呼び寄せた。さいわいレストレードの情報で犯人を追い詰めることができたが、もし概要を掴めてなかったら逮捕しなかっただろう。
 私が考えるホームズのすごいところは、未確定領域にぐいぐい飛び込んでいくことだ。頭がいい人は着実に進めると思われるが、もっと頭のいい人は積極的に冒険するのかもしれない。実際、逮捕が遅れていたらホープは大動脈瘤破裂で死んでいた。知能とは疾さであり、賭けに勝つことだと思う。

グレグスン警部の誤認逮捕

 グレグスン警部の誤認逮捕は、削ろうと思えば削れるが、ホームズが警察とうまく連携できてないことを演出するため残した。正典では女主人の息子である海軍将校だったが、「JHとレイチェル」の組み合わせに差し替えることで、グレグスン警部の愚かさが強調された(ホームズの推理を聞いてない)。またこの失敗によりグレグスン更迭、レストレード昇進と展開するから、うまく噛み合った。
 ハインリッヒ兄妹はいつものチンピラコンビ。どの時点で正体を明かすか悩んだが、名前→シルエット→実物の順になった。

緋色の研究
※没シーン:スタンガスンを見つけたのに、行かせてしまう

緋色の研究
※没シーン:顔が見えていたチンピラコンビ

ホープの復讐計画

 ホープの復讐ターゲットを5人くらいに増やして、連続自殺事件に仕立てるプランもあったが、事件そのものは重要でないのでやめた。第二の殺人は現場に赴くことなく、レストレードの報告だけで推理しているが、なんでもかんでもホームズが発見し、犬を使って毒を鑑識するよりスマートだろう。ホームズの推理を聞いているワトソンは、第二の殺人で注目すべきところがわかるが、レストレードはわからない。こういう落差が生じるのもおもしろい。

緋色の研究
※ワトソンとレストレードで理解の差が生じている

毒薬の決闘

 正典のホープは、ヨーク大学で植物性アルカロイドを盗み出し、その水溶液で丸薬を作っている。【ゆっくり文庫】はわかりやすくするため、青酸カリと洗濯ソーダ(炭酸塩)にした。青酸カリの入手や保存については目をつむる。
 誤解されないよう断っておくと、正典のホープは小細工なしで決闘に挑んでいる。ホープは誠実と示したいようだが、私は信じられない。21年もかけた復讐なのに、2人とも殺害できる確率を25%に下げる理由はない。そこでホープを小柄な男に変更。小柄ゆえ、ナイフや銃で殺害するのはリスクが大きい。罠にはめて毒を飲ませれば、静かに殺せるだけでなく、復讐のカタルシスがある。
 しかしこれを真相とはせず、ホームズの仮説にとどめた。ホープの死によって確かめるすべもない。

緋色の研究
※グレグスンはドレッバーが毒殺されたことを知っていたため、飛びかかった

緋色の研究
※私が犯人なら当然やるだろうトリック

ホームズの弱さ、ワトソンの強さ

 正典のホームズはジェファソン・ホープに手錠をかけてから、彼が犯人だと宣言する。まったく抜け目がない。しかし私はホームズを完全なヒーローにしたくないので、ホープを取り押さえる前に犯人と指摘するミスを犯させた。ワトソンは銃を持っている可能性に気づき、威嚇発砲する。屋内で発砲なんて不自然だが、刺激的なので採用した。

緋色の研究
※ホームズの弱さを、ワトソンが補える関係を描きたかった

ホープの過去

 第二部はぶっちゃけ、ひどい。
 いきなり時間も場所も飛ぶし、ホープ視点で語られるわけでもない。史実と食い違う記述も多い。なにより第二部を読むことで、「殺人犯にも悲劇があって、同情の余地がある」と思えるほど説得力がなかった。

 ジョン・フィリアは掟を破ったから殺されたわけで、あわれと思うが、実行したスタンガスンの罪とも言い難い。またルーシー・フィリアの病死をドレッバーに求めるのも無理がある。ホープが結婚指輪を盗んだことも理解しがたい。それはドレッバーとルーシーの結婚証明だろうに。

 私は考える。ホープはドレッバーの妻だったルーシーを誘拐したが、逃亡生活で死なせてしまい、追ってきたドレッバーとスタンガスンを逆恨みしたのではなかろうか? だとすれば不自然な告白も納得できる。
 この路線で翻案し、「19世紀のイギリス人から見たモルモン教徒」という注釈をつけようと思ったが、よくよく考えるとロンドンで起こった殺人事件に関係しないので、ばっさり削除することにした。乱暴かなと思ったが、動画にすると、これで正解に思えた。

緋色の研究
※「犯罪捜査は精密な科学であるべきだ。きみはそれをロマンチシズムで色づけしようとした」

緋色の研究
※この一枚で説明できる

 カットした副産物として、「ホームズは無限に謎解きしない」こと、「ワトソンは犯罪捜査にロマンを求める」という特徴が明らかになった。意図せぬ化学反応だった。

 かくして捜査は終了。そして、ゲームが始まる。

雑記

 「緋色の研究」はワトソン視点で進むため、ワトソンが右に配置されている。ワトソン視点でありながら、ホームズの内面が吐露されるのは奇妙だが、おもしろかった。

 いつもは写真の人物はモノトーンだが、「赤ら顔」を表現するためカラーにした。ドレッバー(いく)とスタンガスン(てんこ)、ホープ(れみりあ)とルーシー(ふらん)など、造形が似たキャラクターが多いことも考慮したが、カラーだから識別しやすくなったわけでもなかった。もう修正するのも面倒なので、今回はこのまま公開する。ふんが。

BGMをつける

 今回は「SHERLOCK」のサントラを使った。iTunesでWAVファイルに変換し、SoundEngine Free に読み込んで、使うところを切り抜いたわけだが、作業したことで1つのトラックに複数の曲が入っていること、同じ旋律が繰り返されていることがわかった。要するにアレンジだ。だのに何枚もサントラCDを発売しちゃうんだから、アコギよのぉ。
 ドラマ本編も何度も見直して、BGMの使い方を研究した。けっこう控えめで、注意してないとBGMに気づかない。かと思えば大きな音量で強い印象を与えるシーンもある。音楽の使い方は難しい。

 余談。4月、はじめてAndroid端末(MediaPad M3)を購入したんだけど、これで【ゆっくり文庫】を視聴すると音量が安定しないことに驚いた。どうやらOSレベルで自動調節しているらしく、BGMや効果音がつづくとノイズとして低減され、無音時間があると声や音が大きくなったりするのだ。【ゆっくり文庫】だけでなく、ほかの動画、一般的な映画やドラマもおかしく聞こえる。設定でオフにできるが、知らない人も多いだろう。そういえば「音が大きい」というコメントがちょくちょく入るが、動画だけでなく、視聴環境の問題もあるかもしれない。

動画の区切り

 ニコニコ動画の仕様変更で、15分を超えると画質ががくんと劣化することになった。なので最初から3分割した脚本を書いたが、都合よく15分ずつ区切ることはできなかった。PART1が10分だったため、1日目と2日目の前後編に切り替えたが、前編(1+2)の画質劣化がひどかったため、ふたたび3分割にもどした。
 こういう調整はかなり面倒くさい。ニコニコ動画さん、なんとかなりませんか?

編集後記もたいへん

 この編集後記を書くのに2週間もかかってしまった。ちょっと手間をかけすぎ。
 動画を作ってすぐ投稿しなかったから、「つまらないものを作ってしまった」という思いが大きくなっている。もう悩みたくないから投稿ボタンを押すけど、どんな反響があるだろう? わからない。投稿して、ある程度コメントを読んでから編集後記で答える方がいいような気もしてきた。

 はてさて。

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