【ゆっくり文庫】コナン・ドイル「犯人は二人」シャーロック・ホームズの帰還 The Adventure of Charles Augustus Milverton (1904) by Arthur Conan Doyle
2018年 ゆっくり文庫 イギリス文学 ホームズ ミステリー
079 精細を欠いた事件──
ホームズは恐喝王ミルヴァートンとの交渉を依頼されたが、決裂してしまう。万策尽きたホームズは強硬手段に訴える。
原作について

アーサー・コナン・ドイル
(1859-1930)
別題「チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン」「恐喝王ミルバートン」「毒ヘビ紳士」。正典においてホームズがもっとも精細を欠いた事件。強盗はいいけど、結婚詐欺は駄目だろJK。
ホームズがミルヴァートンの報復を考慮していないのも奇妙。ホームズたちが乗り込んだ夜に、たまたま復讐者が割り込んでくれたから、自分の手を汚すことなく悪魔を排除でき、恐喝のネタが流出することも防止できた。これって偶然なの?
不満や疑問を解消すべく、本作を翻案した。ファンなら一度は考えるプロットだろう。【ゆっくり文庫】のホームズシリーズの世界観が色濃く反映されたため、原作からの乖離がはげしい。ま、いまに始まったことじゃないが。
推理らしい推理はないが、忘れちゃいけない。ホームズは冒険小説でもある。
先行作品について
1992 The Master Blackmailer
グラナダテレビ制作「シャーロック・ホームズの冒険」第33話「犯人は二人」。2時間スペシャルとして制作されたため、本筋に関係ないシーンが多い。ホームズはずっと不機嫌で、推理は空回り。シリーズ唯一のキスシーンもあるが、状況が状況だけに楽しめない。ぶっちゃけ、楽しいドラマじゃなかった。
ミルヴァートンは役者と吹き替えがベストマッチ。挿絵から飛び出してきたようだ。ドラマのオリジナルキャラクターとして、ミルヴァートンに忠実な執事・Hebworthが登場する。用心棒のような雰囲気だったので、ヴィンセント(よしか)の原型とした。
※原作そっくりのミルヴァートン
2013 Dead Man's Switch
アメリカCBS制作「エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY」第22話「ブラックメール」。ホームズは被害者の依頼を受け、恐喝犯ミルヴァートンの家に侵入する。そこへミルヴァートンが帰ってくるが、何者かに殺されてしまった。ホームズはミルヴァートンの「安全装置」を止めるため、殺害犯を追跡する。
原題でもある「安全装置」の設定がおもしろかったので、【ゆっくり文庫】に採用した。
※ミルヴァートンは即退場
2014 His Last Vow
英国BBC制作「SHERLOCK」(S3E3)「最後の誓い」。ホームズは政治家の依頼を受け、メディア王マグヌセンと対決する。一方、マグヌセンもホームズを狙っており、そこに予想外の復讐者が乱入する。
ホームズの結婚詐欺をうまく翻案しており、前作「3つの兆候」との関連もよい。しかし決着はオソマツ。恐喝のネタが物理的に存在しないなら、マグヌセンを殺せば解決であり、そのとおりになった。モリアーティに匹敵する巨悪と思われたマグヌセンの株が大暴落したよ。
マグヌセンの狙いが「メアリー→ワトソン→シャーロック→マイクロフト→英国政府」という図式がおもしろかったので、【ゆっくり文庫】に採用した。
※途中までおもしろかった
2014 失礼な似顔絵の冒険
※ミルヴァートン先生:じつはいい人だった
NHK制作「シャーロック ホームズ (人形劇)」の第10話。
ホームズはベッポの依頼で、鬼教師ミルヴァートンに没収された似顔絵を回収する。「ミルヴァートンはいい人だった」という平和的なオチに驚くが、まぁ、殺人のない世界観だから仕方ない。
※アガサ・ライト:ホームズに恋する天才少女
正典では哀れなメイド・アガサは、天才少女アガサ・ライトに翻案され、準レギュラーに昇格している。しかし本作での活躍はとぼしく、魅力もない。ベインズもそうだが、ライバルや敵対者がうまく活用されてない。
コメンタリー
ミルヴァートン役はアリスだったが、迫力が足りなかったため、霍青娥のグラフィックを改造する。ところが先に『羅生門』の老婆役でデビュー。それから『銀河鉄道の夜』の鳥捕り、『阿部一族』の高見権右衛門、『名人伝』で本人役など、印象的な役を演じてもらっている。
文庫劇団では「アリス以上の極悪人」と位置づけられているが、あくまでも役柄であって、原作(東方Project)の霍青娥と同一視しないように。
そしてキョンシー宮古芳香も、本作のためにリファインされた。これまた原作以上に死体っぽくなっている。『緋色の研究』において、ベイカー・ストリート・イレギュラーズの一員として頭を見せているが、それはそれ、これはこれと思っていただきたい。ウィギンズ(ちるの)もそう。劇団員が少ないから、仕方ない。
交渉失敗
ハドソン夫人は不在で、アイリーンは状況を把握している。ミルヴァートンの報復を恐れて避難させたということは、ハドソン夫人には恐喝される弱みがあるという意味だ。
※アイリーンの動機はラストでわかる
ミルヴァートンに恐喝された人の多くは、暗殺を試みたはず。それが達成できなかった理由として、用心棒・ヴィンセントを登場させた。ヴィンセントはミルヴァートンより先に部屋に入って、あとに出ている。突発的な行動にも対応できる。愚鈍ゆえ買収できない。鉄壁の盾だ。
毒殺や狙撃をふせぐため、「安全装置」という設定を加える。ホームズは「存在しない」と判断したが、じつはヴィンセントがパートナーである。近すぎて見落としてしまったのだ。
※すぐそこにある安全装置
作戦会議
ホームズは不機嫌で、ミルヴァートンにやり込められる。半分は油断させるための演技だが、恐喝への怒りは本物だ。とはいえ殺害までは考えていない。ここにワトソンとの差がある。
ワトソンは自分が依頼されたわけでも、狙われたわけでもないのに、悪党の殺害を決意する。まったくブレない。底抜けの善人で、危険に魅入られた中毒者であるワトソンは、ぶっちゃけ異常者である。
※最初からやる気のワトソン
脳内会議
モリアーティの疑似人格は、いまもホームズの脳内に潜んでいる。近ごろは任意に喚び出して、おしゃべりできるようになった。
「恐喝のネタが流出する可能性がある」「事情を知らない人は守れない」「被害者たちを誘導し、間接的に殺す」といった話題もあったが、長くなったのでカットした。
※BBC「Sherlock」のマインドパレス
※イマジナリーフレンド・モリアーティ教授
ワトソンは自分でコーヒーを淹れる。このときアイリーンが不在であることを示すつもりだったが、アイリーンがいても自分でコーヒーを淹れたかもしれない。
適当なマグカップを置いたところ、妙に目立ってしまうため、もっと目立つ「ゆっくり文庫マグカップ」に差し替えた。深い意味はない。
※ゆっくり文庫マグカップ
アップルドアに潜入
尺も半分過ぎたところからアクション編。前後編に分けるつもりだったが、1本にした。事前の準備あってこそのアクションだろう。
使用される背景は「PAYDAY2」のジョブ、「Hoxton Revenge」「Shadow Raid」「Safehouse Raid」から。ゲームを知らない人には、同じマップに見えるかもしれない。
使用されるマスクは下記の通り。
※Chains(元軍人、気苦労が多い)→ワトソン
※Jiro(ヤクザ、日本語をしゃべる)→ホームズ
※Clover(潜入工作が得意、躁鬱症)→アイリーン
※Dallas(リーダー)→未登場
ゲームに登場する Thermite Paste、Glass Cutter、C4、Trip mine、Concussion Grenade をそのまま使用した。時代考証は放棄。19世紀の強盗のリアルを追求する動画じゃない。
※スポット:警備員の輪郭を一定時間、表示させるスキル
饅頭でアクション
【ゆっくり文庫】らしからぬアクションの連続。まず情景をイメージして、表現方法を設計し、必要な素材を集めて加工、タイムラインで組み上げていく。途中で廃棄されたアイデアやシーンの多いことよ。大変だったけど、悪くない出来栄えになったと思う。
背景をマスクして、キャラクターが飛び出したり、隠れたり、回り込むような動きを表現した。どこがマスクで、いつから重ねているか、すべて説明することはできない。興味ある人は下記をヒントに考えてください。
※向きを変えたときマスクが出現。回り込むように見える。
ゲーム画面にはUIや自分の武器が映るため、Photoshopで消していく。オプションでUIを消せるとわかったのは、作業が終わったあとだった。
ゲームをやりながら撮影するのは大変だった。
※実際のゲーム画面
やってみるとわかるが、ゲーム画面は呼吸や木々のざわめきによって動いており、連続撮影してもズレが生じる。そこで画面全体ではなく一部だけ差し替えることにした。意味がわからないかもしれないが、やればわかる。
※窓やドアが開いても、画面全体が変わるわけじゃない
作業の進捗状況を示すインタラクトサークルは、AviUtlのカスタムオブジェクトで表現した。自分のためのメモを残しておく。なにかの参考になれば。
※インタラクトサークル
扇型(カスタムオブジェクト)
[X] 0、[Y] -80、[中心角] 0.0 - 360.0、[中心基準] -100.0、[サイズ] 140、[ライン幅] 6.0、[色] ffffff
設定とドラマ
ミルヴァートンは巻き上げたカネで贅沢するのではなく、地下金庫に閉じこもって次の恐喝を練っている。恐喝のための恐喝だから、言葉もカネも通じない。
ホームズは薬品で書類を損壊し、爆破して消防隊を突入させる。どんな仕掛けを使ったかは考えてない。そこは重要じゃない。ミルヴァートンが地下金庫で暮らしているため、通気性がよく、物資を搬入できた。そのとき手紙を盗まなかったのは、アガサに迷惑をかけないため。
ワトソンは資料閲覧室で、自分たちが狙われていることを知る。そのときのコルクボードがこちら。ミルヴァートンの認識であって、これが真実とはかぎらない。
※元画像と修正後
※恐喝プランニングボード
復讐者の銃弾
アイリーンはベイカー街から去ったミルヴァートンを追いかけ、ヴィンセントを骨折させる。これで数日は防衛力が落ちる。
その足でレディ・ダイアナを訪ね、事情を説明すると、晩餐会に駆けつけ、ミルヴァートンに声をかけた。アイリーンはアップルドアの外で待機し、出てきたレディ・ダイアナを逃がす。その背後で屋敷が爆発炎上する。
アイリーンは、レディ・ダイアナが今夜行動することも、ホームズたちが今夜襲撃することも知らなかった。
※女性を傷つけてはいけない
正典ではミス・ダイアナ・スインステッドだが、「マープル」シリーズのサー・ヘンリー・クリザリングに掛けてみた。サー・ヘンリー役のゆかりはモリアーティだから、姿を見せない。
【ゆっくり文庫】で狂女と言えばさなえだが、ゆゆこもキテる。死んでも撃ちつづけ、頭を蹴っ飛ばして去っていく。かっこいい。
脱出
アガサがミルヴァートンの死体を見つければ騒ぎになって、レディ・ダイアナが捕まるかもしれない。だからアガサを捕縛し、放火と爆破を強行した。このときホームズが資料を持ち帰る演出を考えていたが、逃走のじゃまになるのでやめた。
※資料のお持ち帰り
アガサはワトソンのことは話したが、ホームズのことは言わなかった。声から配管工・エスコットと察し、かばったのかもしれない。
※マスク範囲
後日談
レストレード警部は「犯人は二人」というが、その片割れはアイリーンだった。ここでアイリーンの関与がわかる。ホームズがアガサといちゃついことに激怒したようだ。アイリーンは美しく、賢く、強いが、ちょっと頭がおかしい。
※バリツ!
黒幕
モリアーティは自分の手を汚さないことが一番よいと言った。それを実行したのはアイリーンではなく、マフィンだった。
マフィンは、自分のことを嗅ぎ回るミルヴァートンを始末するため、レディ・エヴァにホームズを紹介。しばらくしてからミルヴァートンに情報を漏らし、互いを意識させる。これで殺害以外の決着はなくなった。
※ジョーカー:捕まえた敵を味方に変えるスキル。
雑記
独自翻案が強すぎて、長らく公開をためらっていたが、死蔵するのも虚しいので公開した。どうとでもなれ。
クライアントから返事が来て、また忙しくなった。ストックはあるが、公開前の調整、編集後記の執筆に時間がかかる。秋頃にまた投稿しますから、それまで待っていてください。